20世紀半ばにおけるイタリアの精神病院の惨状を目の当たりにしたことから悪しき精神病院(マニコミオ)の全廃に尽力し実際に廃止させるという偉業を成し遂げた「20世紀を通じてイタリアが生んだ最も重要な文化人」の一人であるフランコ・バザーリアの、バザーリアと共に奮闘したミケーレ・ザネッティによる伝記。図書館で偶然見つけて借りて読んでみたのだが、素晴らしい本と出会えたものだと思う。
訳者は精神医学や精神医療の専門家ではない。にも関わらず本書の邦訳を行っていることに対し「無謀を冒した」と訳者は述べているが、その理由は「私たちが歩み続けている日本の精神保健の道すじをイタリアを対話の相手とすることで批判的に見つめ直し、問題の核心にあるものは何かを見極めるための原点として、本書を紹介することの意義を確信したためである。」と述べている。私もこの確信に同意する。権威主義に陥っている日本の医学/医療関係者には一蹴されかねないが、そうでない医学/医療関係者や社会の良い方向は何かを真摯に考える全ての人に一読をお薦めしたい。
(たしか精神科医をされている方の)ウェブサイトで薦められていた本。1998年初版。具体例を交えながら統合失調症に関する基本事項が要領よくまとめられている。
[外部リンク:最新の統合失調症薬物治療ガイドライン]
図書館で見つけて、衝動借りして読んでみた。2002年に出た本であるが、この年は日本神経学会理事会で病名が「精神分裂病」から「統合失調症」に変えることが承認された年である。この病名の変更は、この病が治りうる病であるという理解を社会に広げるため、という点にあるようだ。
著者はこの考え方から、従来の「精神分裂病」の理解を一新(「脱構築」)することを試み、和洋様々な人物や文献を用いて統合失調症を多角的に理解しようとしている。しかし、率直な感想を言えば、精神医学者や哲学者などの様々な分析と統合失調症との関連を指摘した部分には明晰でないものが多く、本著書に対してこの副題を与えることには疑問が残った。逆に言えば、それだけこの病理の解明が難しいということを示唆していると言える。
参考になった点は、文豪の夏目漱石が「自ら迫害妄想に悩みながら和漢の深い教養を踏まえたすぐれた「狂」の文学者」だった、という点である。実際漱石は「世俗は(迫害妄想を)狂気と呼ぶが、その狂気は全ての人間にひそむのだ」と強調していたようだ。