基研主導研究会 2012―原子力・生物学と物理
YITP-W-12-14
江口徹(立教大学理学研究科),
大塚孝治(東京大学理学系研究科),
艸場よしみ(編集者:企画担),
国友浩(基礎物理学研究所),
佐藤文隆(京都大学名誉教授・甲南大学・NPO法人あいんしゅたいん名誉会長),
柴田徳思(千代田テクノル椛蜷研究所 研究主幹),
坂東昌子(NPO法人あいんしゅたいん理事長:世話人代表),
中井浩二(原子核実験東海原子力研究所 アルスの会),
真鍋勇一郎(大阪大学工学研究科:世話人副代表),
工藤博幸(奈良学園中学校高等学校教諭),
山田明彦(大府市立共長小学校教諭)
研究会報告
基研主導研究会 2012ー原子力・生物学と物理
開催日時: 2012年8月8日 〜 2012年8月10日
開催場所: 京都大学基礎物理学研究所
パナソニック国際交流ホール
全体のプログラムと簡単な説明
素粒子論研究・電子版 Vol 13 (2012) No 3
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2012年11月9日受理
3月11日巨大地震と同時に起こった東京電力福島第一原子力発電所事故は、我々に様々な問題を投げかけました。 「今回の事故はどうして起こったのか」 このように、科学者のなかでもいろいろな意見が飛び交い、科学者自身も答えを出せないでいます。それが市民の専門家に対する失望をひき起こしています。こうした混乱の根には、世界の政治情勢や原子力エネルギー導入の歴史的経緯が絡んでいることも事実ですが、われわれ科学者としてはまず、原子力学界と物理学界の意識のズレがどのように歴史的に形成されてきたのか。あるいは原子力という巨大科学の進め方についてどう考えるのかを検証することが大切です。 また、低線量放射線の評価を巡っても今後の復興の過程で議論が錯綜することでしょう。 今後は、放射線の生体への影響を科学的知見に基づいてできるだけ客観的に捉えることが重要になるでしょう。すでに放射線治療や放射線を用いる多くの応用分野が開けている放射線生物学者の意識と、湯川博士を嚆矢に核兵器廃絶のために働いてきた物理学者の感覚とでは、低線量放射線の生体影響についてずいぶん異なった評価をする場合も多く、これが大きな意見の食い違いを生じています。放射線生物学は、物理学と生物学の両方の知見をもとに組み立てられるべきなのですが、専門領域が異なるために齟齬を生じていることも珍しくありません。 今回のようなシビアな事態を前にしているからこそ、もっと知恵を出し合い、領域横断的な交流を行って人間の知恵を高める必要があります。そのために、原子力分野、生物分野、物理学分野が領域を超えて率直に意見を交換し、問題のありかを探り、課題を明確にすることが必要です。 とはいえ、上記のような多くの問題を網羅するのはとてもできませんし、また基礎科学研究所の「研究会」として行う以上、学問的基礎の上に立った知見を共有し今後の方向を探ることが当面の目標となります。今回は研究会の焦点を絞り、学問の内容に立ち入って議論することで、3者のネットワーク形成に向けて第1歩を踏み出すことにあります。3日間ですので、3つのテーマとします。 本提案に至った経緯 本研究会は、2012年度京都大学基礎物理学研究所共同利用の研究会として申請いたしました。しかし研究会のテーマである「原子力と原子物理学」は、「基礎物理学研究所研究会として、テーマの重要性は認めるが、一般の研究会と同じ枠に縛られないほうがより主旨にあった研究会になると期待される」という理由で、不採択となりました。 共同利用運営委員会の議論では、申請された提案説明書には研究会の内容が十分示されていないとの意見もあり、所員会議での議論には資料が必要だということでした。そこで、計画書を別途作成しました。趣旨は、 1)研究会で議論するテーマを絞る 以上の趣旨で、放射線教育がギリギリの線として、純粋な研究活動に焦点を絞りました。 なお、これに関わるより社会とつながった議論は、当研究会とは別に、世話人代表の坂東が理事長をしているNPO知的人材ネットワークあいんしゅたいんの事業として企画することといたしました。 リンク先 NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん(通称:JEIN)ホームページ:http://jein.jp/
テーマの選定の経緯 当初、テーマを以下のように考えていました。 ● 原子力と物理学-歴史(学術会議、学会) しかし、当日説明したように、全部を取り上げるのはそもそも時間的にも無理です。今回の研究会は、今後の研究者のネットワークを内容に立ち入って作り上げるきっかけにしたいという気持ちがあり、そのためには事前に世話人で議論を詰めることが必要だと思っていました。しかし基研としての行事となると、世話人で相談する時間的余裕がないので、とりあえず皆さんにメールでご意見を伺いました。提案書の内容が 1)一般向けのアウトリーチ活動 のいずれとも取れるようなものなので、今回の研究会では1)は含まず、2) は3)を主体とした企画で含ませることとします。つまり、4)を主体にして、3)でオーバーオールなビジョンをもてるよう議論を詰める方式にしたいと思います。
異分野をむすぶ研究者交流の意味 最後に、今回の事故をきっかけにして、異分野間のコミュニケーションと協働体制の構築が探られ始めました。これが新しい学問の突破口となる可能性があることを、強調しておきたいと思います。
福島事故から1年を経過した今、分野横断的な研究会をするのにふさわしいのは基研ではないでしょうか。そう考えてこのたびの研究会を申請することとしたのです。これを契機に、科学者の領域横断的かつ世代間の交流が促進することを期待しています。 |