\documentstyle[psfig]{article} \setlength{\topmargin}{-1cm} \setlength{\oddsidemargin}{-0.5cm} \setlength{\textwidth}{17.0cm} \setlength{\textheight}{25.0cm} \begin{document} \section{重力振り子} \subsection{近似的な解き方} 長さ $\ell$ の質量が無視できるたるまない糸の先につけた 質量 $m$ の質点の運動を考えます。 垂線からの振り子の角度を $x$ (rad.) とすると、 運動方程式は \begin{equation} \label{EOM} m\ell\frac{d^2x}{dt^2} = -mg \sin x \end{equation} となります。 小さい角度の振動を考えると、$x \ll 1$ としてよいので、 $\sin x$ の近似式 \[ \sin x \simeq x \] を使うと運動方程式は次のように簡単になります。 \begin{equation} \label{EOMapp} m\ell\frac{d^2x}{dt^2} = -mg x \end{equation} そうするとこれはバネ定数が $mg/\ell$ のバネ振り子と同じ 運動方程式になりますね。 よって、次のように解くことが出来ます。 \[ x = A \cos(\omega t + \delta) \ ,\quad \omega = \sqrt{g/\ell} \] すなわち、糸の長さが等しければ最初の角度によらず 同じ周期の振動運動をするのです。 \subsection{定性的な分析} 上のことは歴史的にも重要な「発見」でしたが、 振幅が大きくなったときにはどの程度ずれるのでしょう ? この問題を考えるため、 初期条件が $t=0$ において $x=x_0 (>0), v=dx/dt=0$ である場合を考えましょう。 運動方程式 (\ref{EOM})、(\ref{EOMapp}) より、 この系のエネルギーは、近似しない場合、した場合にそれぞれ \begin{equation} E = {1\over 2}m \ell^2 v^2 + m g \ell\,\left(1 - \cos x\right) \ ,\quad E_{app} = {1\over 2}m \ell^2 v^2 + {m g \ell\over 2} x^2 \end{equation} となります。 (実際の速度は角速度と糸の長さの積なので $\ell v$ と なることに注意して下さい。) ここでは、$x=0, v=0$ でエネルギーが 0 となるように位置エネルギーの原点を 決めています。 この中で位置エネルギーは \begin{equation} U(x) = m g \ell\,\left(1 - \cos x\right) < \frac12 m g \ell x^2 = U_{app}(x) \end{equation} ですから、実際の位置エネルギー (下図の実曲線) は 近似した場合の位置エネルギー $U_{app}(x)$ (下図の破曲線) よりも小さくなります。 またこの位置エネルギーの微分から得られる力の大きさも 実際の場合の方が小さくなります。 運動エネルギーは全エネルギーと位置エネルギーの差 (下図の曲線と実線の差) となるので、同じ $x = x_0$ から出発すると 運動エネルギーは実際の場合、近似した場合よりも常に小さくなります。 このことは、エネルギーの原点をずらして $x = x_0$ でエネルギーが 等しくなるようにすれば分かりやすいですね。 下図の点曲線と破直線の差は、破線の場合と比べて小さくなっています。 \psfig{figure=figt064.eps,width=12cm} \subsection{周期変化の数値積分を用いた評価} 周期は $1/v$ の一周積分で評価出来ます。 \[ T(x_0) = \oint {dx \over v} = \oint dx\ {dt \over dx} = \oint dt \] 速度 $v$ (の大きさ) はエネルギーと位置が与えられれば決まりますが、 今は初期条件で $v=0$ としてあるので、 $E = U(x_0)$ から \[ |v(x)| = \sqrt{{2g\over \ell}\,\left(\cos x - \cos x_0\right)} \] となります。周期を求めるには対称性から $x>0, v>0$ の領域を考えれば十分です。 \[ T(x_0) = 4 \int_0^{x_0} {dx \over |v(x)|} = 4 \sqrt{{\ell \over g}} \int_0^{x_0} {dx \over \sqrt{2\left(\cos x - \cos x_0\right)}} \] この積分を求めるのは難しいので数値的に求めた結果を示しましょう。 ただし、被積分関数が $x=x_0$ で発散しているので 高い精度で数値的に求めるには工夫が必要です。 一つの方法は、既に分かっている関数を差し引いて有限の関数の 積分に持ち込むことです。 ここでは近似した場合の周期を求める際に出てくる積分を利用しましょう。 近似評価では \[ T_0 = 4 \sqrt{{\ell \over g}} \int_0^{x_0} {dx \over \sqrt{x_0^2 - x^2}} = 2\pi\,\sqrt{{\ell \over g}} \] であることは分かっています。 (積分は自明ではありませんが、近似計算での $\omega$ が分かっているので $T_0 = 2\pi/\omega$ から周期はもとめられます。) この関数も $x \to x_0$ で発散する関数ですから、 これをうまく差し引くことにより被積分関数を有限にすることが可能です。 \[ \int_0^{x_0} {dx \over \sqrt{x_0^2 - x^2}} = {\pi \over 2} \ \to \ f(x) = {1 \over \sqrt{2\left(\cos x - \cos x_0\right)}} - \sqrt{{x_0 \over \sin x_0}} {1\over \sqrt{x_0^2 - x^2}} \] $1/\sqrt{x_0^2 - x^2}$ の前の係数を上のように選ぶことによって 関数が有限になることを確かめてみて下さい。 この関数 $f(x)$ の積分により、周期は \[ T(x_0) = 4 \sqrt{{\ell \over g}} \int_0^{x_0} f(x) dx + 2\pi \sqrt{{\ell \over g}} \sqrt{{x_0 \over \sin x_0}} \] と求められます。 $f(x)$ の積分を数値的に評価して、求めた周期を下図に示します。 最初の角度が 90$^\circ$ 程度 ($x_0 = \pi/2 = 1.57...$) でも 2 割程度の ずれですから、それほど大きくはないといえますね。 \psfig{figure=teach064.eps,width=12cm} \end{document}