Volume 46-6論文
高階微分系に含まれる負振動子の量子論とその古典論対応
九後 汰一郎 (京都大学 基礎物理学研究所)
素粒子論研究・電子版 Vol. 46 (2026) No. 6
2026年4月14日受理
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概要
Quadratic Gravityのような高階微分系の場は、いくつかの質量の通常の2階微分の成分場の和に分解できる。それらの成分場は質量の大きさ順に、通常の正符号の運動項・質量項を持つ正振動子の場と、運動項・質量項共に逆符号の負振動子の場とが交互に現れる。これまで、負振動子場の量子化には、その量子のエネルギー固有値を負(ノルムを正)にとる「負エネルギー量子化」と、ノルムを負(エネルギー固有値を正)にとる「負ノルム量子化」の二つがあり得るとされてきた。しかし、この稿では、負エネルギー量子化では量子論が構成できないこと、したがって負ノルム量子化が唯一可能な量子論を与えることを示す。それゆえ、負振動子に対して負エネルギー量子化を前提としたWoodard の「高階微分の理論はすべて『Ostrogradsky不安定性』を持つ(ので排除すべき)」という主張は全く根拠を持たないことになる。
この負ノルムの量子論が、古典論極限で負振動子の古典論に如何に移行するのかを詳しく議論する。一つは、負ノルムの振動子のSchrodinger波動関数の引数や経路積分表式での積分変数は純虚数(ないしは虚数的複素数)に取らねばならないという1980年の有末達の仕事を紹介し、にもかかわらず、その経路積分表式の古典極限で効く<停留位相点>がどうして実数の古典軌道を与えるのか、を明らかにする。また、正定値のエネルギー固有値(と負ノルム)を持つ量子論において、如何にして、古典的状態が負定値表式のエネルギーを実現するのか?古典的状態の具体例として、大きな場および運動量の期待値を実現するcoherent状態を用いて、その機構を明らかにする。この(過剰)完全系をなすcoherent状態が全て正のノルムを持つ、という事実はミクロな負ノルム状態の問題解決に向けて重要な示唆を与えるかもしれない。
キーワード
高階微分系、負振動子、負ノルム量子化、古典論対応、コヒーレント状態