素粒子奨学会第5回中村誠太郎賞選考結果報告

                             2010年9月17日
                             素粒子奨学会

素粒子奨学会2010年度(第5回)中村誠太郎賞の選考結果をご報告いたします。

【受賞論文】(順不同)

・中山 優 氏(U.C. Berkeley, Post Doctoral Fellow)
 "Scale invariance vs conformal invariance from holography"
 JHEP 01 (2010) 030, JHEP 11 (2009) 061 に基づく書き下ろし

・野村大輔氏(東北大 助教)
 "Effects of Top-quark Compositeness on Higgs Boson Production at the LHC"
 JHEP 02 (2010) 061


【講評】
今回の応募者は11名で、初回以来多少の変動はあるものの応募数は安定している。
また、未発表の書き下ろし論文だけでなく、既発表論文を元に自分の納得のいく
まで書き下ろしての応募等、若手の意欲が感じられて大変喜ばしい思いであった。

中山優氏の受賞論文は、場の理論がスケール不変性を持てば、必ず共形不変性
まで持つのか?という懸案の問題に対し、ホログラフィック双対な記述を
用いて新しい角度からアプローチしたものである。共形対称性はスケール変換に
対する対称性よりも大きな対称性であるから、一般にスケール不変な場の理論が
共形場理論になるかどうかは自明ではない。

2次元の場の理論においては、80年代に Zamolodchikov と Polchinskiによって、
ユニタリ性、ポアンカレ対称性、スペクトルが離散的であるという仮定のもとで、
スケール不変性があれば必ず共形不変性があるということが証明されている。し
かし、3次元以上の場合には、その証明は通用せず、また反例も見つかっていな
いため、未だに未解決な問題として残されている。中山氏は、この問題をホログ
ラフィック双対な重力理論による記述を用いて調べ、重力側の記述でエネルギー
運動量テンソルがヌル・エネルギー条件を満たしていれば、スケール不変性が共
形不変性に拡大するということを明快に示した。

この議論は場の理論における直接証明ではないので、必ずしも長年の問題を完全
に解決したと言えるわけではないが、この問題をホログラフィック双対な重力理
論の側で捉えるとどうなるのかという新たな視点を初めて与え、任意次元で通用
する証拠を与えたことが高く評価できる。

野村大輔氏の受賞論文は、右巻きトップクォークが複合粒子であった場合、その
証拠をLHC実験におけるヒッグス生成を用いて捉えることができるかという問題
を検討したものである。LHC実験におけるヒッグス生成は、トップループを介し
ての2グルーオン融合反応 gg→H による寄与が最大の断面積を与えることから,
トップクォークの性質に強く依存する過程の一つである。

トップクォークの左巻き成分は,複合粒子であったとしてもそのエネルギースケ
ールには Z→bb の精密実験などから厳しい制限があるが,右巻きの制限は弱い。
複合粒子をつくる強い相互作用の存在は,そのスケール以下では,トップクォー
クを含む高次元演算子の有効相互作用として現れることが期待される。

野村氏はGeorgi-Manoharのナイーブ次元解析法によりこれらの有効相互作用の分
類を行い,主要項および次主要項はヒッグス生成に寄与しないが,次の次数の項
からは断面積を数十%変える効果が予想され,LHCで測定しうることを示した。
この論文は野村氏の単著であり、小品ながら論旨が明快,かつ近い将来の実験で
検証可能な予言を与えるものであり,中村誠太郎賞にふさわしいと評価できる。

ここで考察された有効相互作用は,LHCにおけるヒッグス生成以外の過程にも
影響を及ぼすと思われるので,今後さらに包括的な考察がなされることを期待
する。

今回は、応募論文全体を見渡してみても、丁寧に論旨を展開した論文や適切な
レヴューを意識的に入れたものも多く、論文としての完成度の高さや読みやすさ
が目立った。一つ一つの論文の質を高める努力を継続していくことで、一段と
その力量が磨かれていくものと期待する。


【謝辞】
本賞は、審査にご協力くださったレフェリーの方々をはじめとして、多くの
皆様に支えられて、短いながらも歴史を重ねてきました。長年にわたって、
趣旨に賛同して、厳しい経済情勢の中でも資金の援助を続けてくださって
いる企業のご厚意も、素粒子奨学会の存続・発展に不可欠です。
ここに感謝の意を表すとともに、今後ともご支援をよろしくお願いいたします。