素粒子奨学会第21回中村誠太郎賞選考結果報告

2026年9月25日
素粒子奨学会


素粒子奨学会2026年度(第21回)中村誠太郎賞の選考結果をご報告いたします。

【受賞論文】

・高橋卓弥氏(東京大学理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター、特任研究員)
 "Relativistic frequency shifts in gravitational waves from axion clouds"
 (Phys. Rev. D 114, 044008 (2026))

【講評】

今回は各分野合わせて9名の応募があった。審査委員会を対面(ハイブリッド)で開催し、論文審査をご担当頂いた多数の外部審査委員の協力のもと、1名の授賞者を決定した。

本賞は、大学および研究機関の常勤のポストについていない者に応募資格があるが、若手研究者を取り巻く環境は変化しており、国内でも、大学や研究所のパーマネント常勤職の前にテニュアトラック期間を設けることが一般的になりつつある。テニュア獲得の可能性は大学によって大きく異なっているが、本賞は着任から5年以内にテニュア獲得審査を受けるテニュアトラック・ポジションにある研究者の応募も可能としている。物理的意義を明確かつ丁寧に説明した論文での応募を期待する。

・高橋卓弥氏
アクシオンのような微小な質量をもつスカラー場が近年注目を集めている。そのコンプトン波長がブラックホールの大きさ程度の質量領域においては,自転するブラックホール周辺でアクシオン雲と呼ばれる構造が生成される。この雲を構成するアクシオン場は準周期的な運動をしており,それゆえ準単色の重力波が放出されると予想され,将来の重力波観測プロジェクトの重要なターゲットの一つと考えられている。検出された際の解釈には振動数についての正確な理論的予測が不可欠である。アクシオンの自己相互作用や自己重力が重力波の振動数に及ぼす影響はすでに調べられているが,非相対論的近似が用いられていた。相対論的な計算は,自己重力の影響については既になされているが,本論文は,この相対論的摂動論を改良することで,自己相互作用の効果を含めることが可能な定式化を行い,実際に数値計算によりこれを求め,その効果が 重要になる場合を見出した。記述は明快簡潔で,比較的簡便に計算する手法を提案しており,学術的に高い価値をもつ。また,この論文で用いられている定式化は非常に有用であり,今後広く活用されると思われる。

【謝辞】
本賞は、審査にご協力くださったレフェリーの方々をはじめとして、多くの皆様に支えられて、着実に歴史を重ねてきました。奨学生事業の時代から長年にわたって趣旨に賛同し、厳しい経済情勢の中でも資金の援助を続けてくださっている企業のご厚意も、素粒子奨学会の存続・発展に不可欠です。また、湯川記念財団の後援のおかげで、安定的な運営を続ける事ができています。さらには、個人からの貴重なご寄付も、素粒子奨学会ひいては若手研究者の未来を支えていくことに貢献しています。ここに全ての関係者へ感謝の意を表します。今後ともご支援をよろしくお願いいたします。