Newton 重力とクーロン力が共に逆2乗力である事から,電子ガスなどの統計解析で用いられているクラスター展開の方法を自己重力系に適用.ヘルムホルツの自由エネルギーが複素関数になるが,その虚部は系の不安定の度合いに対応.また,宇宙膨張の効果は含まないものの,距離の約-1.8乗に近い空間2点相関関数が得られた.
この論文に対する私の貢献は非常に少ない.
早大の修士論文をもとにした論文.銀河分布はその空間2点相関関数が距離のベキに従うので,特徴的なスケールがないと言える.スケールフリーの構造を作るモデルとして,初期密度ゆらぎがフラクタルパターンであった場合の時間発展を,空間1次元モデルで解析.その結果,形成される非線形構造はフラクタル的になり,その構造のフラクタル次元は,初期分布のパターンのフラクタル次元に依存しない事がわかった.
自己重力系の統計的性質の解析のために,1次元リングに拘束された粒子が,互いに Newton 重力で引き合うという,簡単化したモデルを提案.このモデルについて,主にシミュレーションを用いて解析すると,粒子はエネルギーによって3相に分かれ,中間エネルギー相である halo の相が特異な速度分布や空間変位をなす事などがわかった.
宇宙の大規模構造形成のモデルで,流体力学で物質の運動を記述する方法がある.この流体的方法での摂動論で,Lagrange 的摂動論は,摂動そのものが線形でも,密度ゆらぎを準非線形段階まで記述でき,精度がよいという利点がある.ここでは近年議論されている圧力の効果を取り込み,平坦な宇宙モデルで特定の状態方程式のもとで,二次の摂動解を導出した.
論文4の拡張版.一般的な一様等方宇宙モデルでの線形摂動解を導出し,平坦な宇宙モデルでポリトロープ型の状態方程式の場合について,二次の摂動解の振る舞いを議論した.この結果,ポリトロープ指数が4/3 より大きければ,高次の項における圧力の寄与は徐々に消えて行く事が分かった.
論文4, 5で得られた結果が,従来のモデルの改良になっているかを,N 体シミュレーションと比較.たしかに従来から有用とされてきた truncated Zel’dovich 近似等の修正モデルに比べて,やや改良がなされていることを示した.
論文4, 5で得られた結果の有効性を議論.面対称,球対称モデルで線形摂動解とフルオーダーの数値解を比較.また,修正モデルの一つである Adhesion 近似との比較を行う.Adhesion 近似では密度の発散を回避できるが,圧力の効果では発散は回避できなかった.また,線形摂動解の有効性は圧力のないモデルと同程度の,δ=1 付近までであるようである.
自己重力系の性質として,長い緩和時間の存在が予言されている.ここでは球対称に分布させた粒子系,および球対称の粒子塊を衝突させ,速度分布などがどのようになるかを解析した.その結果,速度分布は準安定に Maxwell 分布でない形で存在する事が分かった.この分布は,様々な分散を持つ Gauss 分布を,等しい重みで重ね合わせたものに近いようである.
論文4の拡張版.摂動の次数を三次まで挙げて発展方程式を導出し,宇宙項の無い平坦な宇宙モデル(E-dS 宇宙モデル)において,ポリトロープ指数が4/3 の場合に限定して解を導出した.
宇宙の大規模構造形成で,密度分布,速度分布は非線形成長でガウス分布からずれる事がわかるが,それでは圧力の効果はどれほど影響するのかを,線形摂動解を用いて調べた.その結果,たしかに非ガウス性の発生に圧力は寄与するが,それよりも非線形摂動の効果の方が十分大きいようである事がわかった.
論文3で提案したモデルを,熱力学的手法で解析.この際,平衡状態の密度分布を導出するため,新たな逐次近似法を導出した.この方法は従来のものに比べて高速で,相転移点付近でも十分に使えるものである.そこで,自己重力系以外のモデルにも応用が期待できるのではないかと考える.詳細は『物性研究』2007.1 掲載の記事を参照.
論文4, 9の拡張版.摂動の次数を三次まで挙げて発展方程式を導出し,宇宙項の無い平坦な宇宙モデル(E-dS 宇宙モデル)において,ポリトロープ指数が4/3 の場合に限定して解を導出した.こちらの論文では,論文9で無視した渦の効果をすべて取り入れて評価した.
論文7をより正確に計算した論文.圧力の効果を取り込んだモデルと,修正モデルの一つである Adhesion 近似との比較を,円筒対称のモデルを用いて行った.前回は陽解法で用いたため,数値計算の不安定の可能性を含んでいたが,今回は陰解法に切り替えて,固有速度分布の発展を調べた.やはり圧力の効果では Adhesion 近似の粘性の起源を説明するのは困難である事が分かった.
WMAP などの観測から存在が示唆されるダークエネルギーに関して,ダークエネルギーの状態方程式に含まれる比例定数 w が,宇宙の大規模構造にどのように反映されるだろうか.我々は密度揺らぎの空間分布の非ガウス性に着目し,非ガウス性の w 依存性を,Lagrange 摂動の線形近似を用いて解析した.この結果,z=2 までは w=-1(宇宙項)と w=-0.8 では違いは1%以下だったが,現在ではこの違いは有意に現れるだろうと推測出来る.
球対称で一様密度のボイドの成長を記述する際に Lagrange 摂動を用いると,十分に時間が経過した後には次数を上げれば上げるほど精度が悪くなる事が分かっている.この Lagrange 摂動の展開を級数展開とみると,もとの関数を有限項で打ち切った展開とも言える.そこで有限項から無限和の極限を得る変換である Shanks transformation を適用して,Lagrange 的摂動によるボイドの記述を改良した.三次以上の摂動解が分からないと使えない方法ではあるが.代数的手法による容易な変換で,高次の摂動解の精度を十分改善出来る事が分かった.また,この手法を LCDM モデルに適用した場合,密度揺らぎのスペクトルの進化について,記述の改善がなされる事を示した.
論文14で行った事をより精密に解析した論文.P3M によるN体シミュレーションを用いて,強い非線形段階の発展を追う事を可能にした.その上で密度揺らぎの空間分布の非ガウス性がどのように w に依存するかを,論文15と同じスケール,およびそれより小さいスケールで調べた.この論文の非ガウス性の定義は,15. の論文と若干異なるので注意.
宇宙論的 N 体シミュレーションは,宇宙の晴れ上がり時を初期条件として与えるのではなく,密度揺らぎがある程度大きくなった段階を初期条件として,時間発展を行う.密度揺らぎをある程度大きくするには摂動論を用いており,線形摂動論がよく用いられている.我々は,三次までの摂動を初期条件で考慮した時の影響を解析し,シミュレーションの初期条件を与えるのに妥当な時期と摂動の次数について考察した.
より詳細な説明は
天文月報 2008年 第101巻 第5号 p.291 (ASTRO EXPRESS)
を参照.
現代宇宙論の大問題として,ダークマター,ダークエネルギー問題がある.我々は量子物性で盛んに研究されている Bose-Einstein 凝縮のアイディアを宇宙論に応用し,一つの場でダークマターとダークエネルギーの両方を説明できるモデルを考えた.このモデルで宇宙の加速膨張を説明できるかを解析した.
Ia型超新星の観測から,宇宙の加速膨張が示唆されている.加速膨張を引き起こす宇宙モデルとしては,まず宇宙項が存在するモデルが考えられるが,宇宙項では様々な問題がある事が分かっている.ここでは加速膨張の原因として,重力理論が一般相対論からずれている可能性を検討する,modified gravity (f(R) gravity) と呼ばれる重力理論を考えた場合,その効果が観測にどのように現れるかを,weak lensing の convergence スペクトルの比較で示した.
論文19に続いて,modified gravity (f(R) gravity) と呼ばれる重力理論を考える.密度ゆらぎが宇宙の晴れ上がり時にガウス分布であったとしても,非線形成長により非ガウス的になる.このずれ方を表す最低次の統計量である skewness を見る事に依り,重力理論が一般相対論か modified gravity かを検証できる事を示した.
球状星団の様な重力多体系において,増大するノイズを伴うランダム過程に基づいたモデルを提案し,コア周囲での非 Maxwell 分布を示す挙動を解析した.このアプローチで,数密度分布はランダム過程に対応する Fokker-Planck 方程式の定常解から得る事が出来る.この得られた数密度分布の解は,摩擦係数および付加項のノイズの強度の増減により,コアの周囲における King モデルの数密度分布と一致する.さらに,中質量ブラックホールを持つ球状星団を想定し,GRAPE-7 による N 体シミュレーションとの比較から,周囲の天体より重い粒子を持つ系に我々のモデルが適用できる事を示した.
Lagrange的摂動論に関して,ダストの場合の四次方程式を導出し,E-dS宇宙モデルにおける解を示した.また,高次摂動の応用について考察を行った.
論文17を拡張した論文.宇宙論的 N 体シミュレーションの初期条件として,三次の摂動を取り扱う,以前の論文では無視したtransverse modeを取り込んだ場合についても扱い,密度揺らぎのスペクトル,非ガウス性の進化を解析した.この結果,密度揺らぎの計算においては,三次の摂動のtransverse modeをシミュレーションの初期条件に含むかどうかの違いは非常に微小である事を明らかにした.
銀河ブラックホールのような大質量天体と,多数の恒星から成り立つ系において,銀河ブラックホールと恒星との相互作用を Newton 重力ではなく,1次の Post-Newtonian の補正による一般相対論的効果を取り込んだ相互作用を与える.一方,恒星同士の相互作用は Newton 重力で計算する.このモデルの相互作用について,GPU を利用して大規模並列計算を行うことにより,CPU 単体で計算するよりも大幅に計算時間を短縮できることを示した.
シミュレーションコードは以下で公開している.
[ascl:1902.002] LPNN: Limited Post-Newtonian N-body code for collisionless self-gravitating systems
論文17, 23を拡張した論文.宇宙論的 N 体シミュレーションのコードとして広く用いられている GADGET-2 に対し,三次の Lagrange 摂動を含めた初期条件を生成した.三次の摂動の効果が非線形段階の構造にどのような影響を及ぼすかを解析した.本論文では transverse modeを取り込んだ場合についても取り扱っている.
コードは以下で公開している.
[ascl:2101.001] 3LPT-init: Initial conditions with third-order Lagrangian perturbation for cosmological N-body simulations
様々な銀河の中心に,太陽質量の百万倍以上の質量を持つ大質量ブラックホールの存在が確実視されているが,その成因は明らかになっていない.また,影の観測や周囲の天体の運動の観測以外では,間接的な観測である.我々は大質量ブラックホール以前に存在すると想定される,太陽質量の千倍から一万倍程度の質量の中間質量ブラックホールが,銀河よりも小さい球状星団の中心に存在する可能性を考えた.そして,中間質量ブラックホールの存在により,周囲の星の分布が特徴的になることを考え,周囲の星をも含めた重力レンズ効果を検証し,中間質量ブラックホールの検出ができるかどうかを考察した.
高専本科5年生(大学2年相当)の卒業研究をもとにした論文である.
国立天文台JASMINEプロジェクトの White paper.