簡単な研究歴
2003年12月更新
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大学院時代からしばらくは高密度の核物
質中の示す相転移、
特に、パイ中間子凝縮に
関わる多体問題を研究していた。
高密度の核物質は宇宙空間にある中性子星の中で実現されて
おり、 また、高エネル
ギー重イオン衝突の中間状態として実現されると期待されている。
最初の論文はパイ中間子凝縮相における重い中間子の効果を調べたもので
ある(Prog. Theor. Phys. 60, 1223 (1978)。
その研究の過程で核子とテンソル結合するロー中間子が高密度で凝縮する
可能性があることに気がついた。その場合、核子系はパイ中間子凝縮相の場合 とは異なり、横波型あるいはスピネル型のスピン-アイソスピン秩序を
持つことが分った。これは単名の短い論文となった(Prog. Theor. Phys.
60, 1229 (1978))。
これらはすべて修士のときにした仕事で、論文が出版されたのは私が博士
課程1年のときである。
実は、修士論文のテーマとして与えられていたのは、パイ中間子凝縮に対する
デルタ共鳴と呼ばれるバリオンの効果を調べることである。
この仕事自体は1979年に出版された(Prog. Theor. Phys. 61,
1107 (1979))。
パイ中間子凝縮の問題をこのように現実的な枠組みで研究し、その臨界密度
のより現実的な評価や凝縮相の物質としての安定性を調べる問題を
1ボソン交換ポテンシャル模型の範囲で調べて学位論文とした
(Prog. Theor. Phys. 65, 613(1981))。
当時、新しい種類の巨大共鳴が発見され、さらに、スピン-アイソスピンに
依存する巨大共鳴(池田共鳴)も興味の対象になっていた。
スピン-アイソスピン密度はパイ場の源になるので、ある種の
スピン-アイソスピン巨大共鳴の特性(高スピンモードのソフト化)が
有限原子核でのパイ中間子凝縮の前駆モード(Precursor)になり得る
ことを指摘し、簡単な模型を用いてそれを例示した
(Prog. Theor. Phys. 65, 1098(1981))。この仕事は、その後の
カイラル相転移の前駆現象の研究につながる研究であり、
京都近辺以外ではあまり知られていないが、私自身は気に入っているものである。
以上が院生時代にした仕事である。
1982年に文科系の私立大学に助教授として就職し、週5コマの講義を担当する
ようになった。
- より高エネルギー(超相対論的な)重イオン衝突では
核物質を構成している核子(陽子と中性子)自体が「溶けて」、
クォークやグルオンのスープ、いわゆるクォーク-グルオンプラズマ
(QGP)が生成されると期待されている。また、そのような状態を創るため
アメリカのブルックヘブン国立研究所のRHICやヨーロッパのCERNの
LHCは計画されてもので、しばらくすると
その実験結果が出てくる段階である。
また、宇宙初期にはQGPは当然実現していた。QGPの研究は宇宙初期の
状態を明らかにする研究でもある。
クォーク-やグルオンの力学はQCD(Quantum Chlomo Dynamics,量子色力学)
で記述される。
- 1983年からはQCD(量子色力学)に興味を持ち、
そのカイラル 対称性に関わる諸問題について有効理論を
用いて論文を書いてきた。そのときの発想のもとになったのは、
カイラル対称性の破れというのは、オーダーパラメータを持つ
真空の相転移と見なすことができ、そうすると、パイ中間子凝縮で議論したこと
(相転移の前駆現象等)が
核物質をQCD真空に置換えて議論できるということである。
この研究をはじめたとき場の理論やQCDについて実は
あまり詳しくなかったので、
当時修士論文を終えたばかりの初田哲男氏にいろいろと教えてもらったり協力して
もらった。
この研究は1994年に初田哲男氏と共著で 総合報告として
Physics Reportにまとめられた(Phys. Rep. 247, 221 (1994))。
この論文はよく「読まれ」ている。
その後もこの方面の研究は続けている。最近力を入れているのは、
シグマ中間子の証拠を確定すること、それを原子核中に創り、媒質中
でQCDの真空が変化する、いまの場合、カイラル対称性が回復している
ことを実験的に検証するための理論的研究を行うことである。
- 有効理論を導く方法としてのくりこみ群に興味を持ち、
少しづつ勉強をしていたが、
1995年以降、瀬田応用解析セミナーでのG.Paquettの講演をきっかけに
漸近解析の方法としてのくりこみ群についての
論文も書いている。
そこでのアイデアは、くりこみ群方程式が古典解析の
包絡線理論の基本方程式と同定できるというものである。
このアイデアは1995年2月入試業務も終り少しG. Paquettはいったい何を
していたのかを理解しようと2ー3日struggle しているうちに突然閃いた。
あわてて、場の理論、統計力学の教科書、くりこみ群関係の諸論文をあさった
が、くりこみ群と包絡線の概念の関係について言及したものは何も無かった。
その年の3月末から4月初旬にあった物理学会(神奈川大)で
九後氏(京大理)からそのようなことは聞いたことがないと教えていただき
確信を得た。
1995年5月に論文を書きProg. Theor. Phys. に投稿した。同時にhep-th
にも載せておいた。 1週間ぐらいして突然、G. Paquettの共同研究者(先生)の
Y. Oono氏(イリノイ大)からメイルが来た。
私の論文をPaquettが彼に送ったらしい。
そのメイルの中で、
Oono氏も、彼らの論文には一切書いていないが、
セミナーでは包絡線を作ると考えると分かりや
すいということは言及していたこと、
しかし、包絡線を構成するための
基本方程式自体がくりこみ群方程式になっていることには気が付かなかった
と教えてくれた。
- 2000年に基礎物理学研究所に教授として移った。最初の院生の八田君とは
力学系理論のslow manifoldの構成法としてのくりこみ群法を輸送方程式の
縮約の問題に適用する仕事を行った。
- 最近は、クォーク物質でのカラー超伝導の前駆現象や
スカラーとベクターの 相関を取り入れてカラー超伝導とカイラル相転移の競合の問題も
研究している。共同研究者は、
院生の北沢君や研究所のポスドクだった根本君や小出君である。
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