研究内容 & アイデアノート

キーワード 原子核理論、核構造、 相対論的エネルギー密度汎函数(REDF)理論、場の量子論、 自己無撞着平均場、準粒子乱雑位相近似(QRPA)、時間依存量子多体系、開放量子系、 核子ペアリング相関。

(最終更新:2023/02/15)以下、過去に従事してきたプロジェクトと、将来取り組みたい研究のアイデアを紹介。


(進行中)時間発展性および量子トンネル効果の再現と核子ドリップライン

記事の最終更新: 2023/02/15.

近年REDF計算においても、あらわな時間依存性の導入と応用が試みられてきた(Z.X. Ren, P.W. Zhao, and J. Meng, Phys. Rev. C 102, 044603, 2020)。この課題では格子ベースのREDF計算を基点とし、これに時間依存性と量子トンネル効果の再現能力を実装することを目標とする。陽子・中性子ドリップラインの外側からの核子放出崩壊は、非束縛な原子核が起こすものであり、開いた量子系としての取り扱いが要求される。しかし時間依存平均場計算においては、量子トンネル効果が正しく再現されないという問題がある。解決策として、時間依存生成座標法の導入を検討している(N. Hasegawa, K. Hagino, and Y. Tanimura, Phys. Lett. B 808, 135693, 2020)。開発した計算手法を、1陽子および1中性子放出崩壊に応用し、核子ドリップラインを議論する。 現在、時間依存Dirac方程式による単陽子放出の計算結果はまとまった。

投稿中プレプリント: arXiv:2212.03271.


(進行中)様々な原子核EDFによる荷電半径の評価

記事の最終更新: 2023/02/15.

(部外秘)

投稿中プレプリント: arXiv:2209.02857.


(進行中)RHB+QRPAによるM2遷移強度の計算

記事の最終更新: 2023/02/15.

(部外秘)

投稿中プレプリント: arXiv:2206.09033.


(進行中)原子核中でのspin-tripletな対相関

記事の最終更新: 2023/02/10.

(部外秘)


(進行中)電磁気的なM1,E1,E2励起(遷移)の競合とpygmy励起

記事の最終更新: 2022/09/18.

Pygmy dipole励起とM1励起の強さが、核種によっては同じくらいじゃね?と気づいたのがキッカケ。またM1/E2遷移強度の比については、Suhonenの教科書の式(6.19)あたりに興味深い記述がある。今タスク=M1やE2の遷移強度から、光核反応の断面積にはどう変換すれば良い?任意のEX/MXモードについてのWeisskopf単位を計算するコードは組んだ。

コード: TOSPEM.


(アイデア)M1とGT遷移のアイソスピン対称性の破れと残留相互作用およびFierz変換項

記事の最終更新: 2023/01/16.

(修士課程向け)M1とGT遷移のアイソスピン対称性の破れと残留相互作用。この両者はアイソスピン対称なシグマ・タウ形式の演算子で記述される。しかし最新論文A16では、相対論的な残留相互作用により、両者の対称性は破れていることが示唆された。また、オープン核では陽子・中性子の相互作用により、一度破れた対称性が部分的に回復している可能性も示唆された。 その一方、REDFラグランジアンの改善の必要性も明らかとなった。本研究では新たな擬スカラー・擬ベクトル型の残留相互作用を追加し、実験データの再現能力向上を図る。これらの残留相互作用は、基底状態の観測量への影響は小さいが、集団励起や天体核反応等においては不可欠な要素であり、その精密化は重要である。 また4点結合のFierz変換を考えることで、交換項を取り入れることもできるし、IV-PSチャンネルのような「対応する中間子が無い」ような相互作用にも妥当性を持たせられる。


(アイデア)陽子放出崩壊とベータプラス崩壊の競合

記事の最終更新: 2022/09/18.

(部外秘)


(アイデア)REDFによるbeta-stable matterの解析

記事の最終更新: 2022/09/18.

2022/08/03に参加した研究会での質疑応答がキッカケ。Point-coupling REDFであれば、サクッと書けるはず、とのこと。ドロボに写真メモ。


(アイデア)電子多体系の密度汎函数理論とのつながり

記事の最終更新: 2022/07/11.

REDF理論のアイディアは、より一般的なフェルミオン多体系にも拡張が可能である。最近では多電子系においても、相対論的効果が無視できない問題が注目されている(Takao Tsuneda, Journal of Computer Chemistry Japan, Vol. 13, 71-82, 2014; Tomoya Naito et al, Journal of Phys B, Vol. 53, 215002, 2020.)。REDF理論の定式化や数値計算法について、原子・分子や物性分野とノウハウを共有し、フェルミオン多体系の普遍的な法則を議論する。


(アイデア)核子・中間子結合の第一原理からの導出

記事の最終更新: 2022/07/11.

現行のREDFラグランジアンの結合パラメーターは、実際の原子核の観測量にフィットして決められている。一方で、最近の計算機の発達により、強い相互作用の第一原理である量子色力学から出発して、これらの結合を導出する試みが提唱されている。本研究では格子QCDやクォーク模型などの分野と連携し、現象論的な核子・中間子結合の起源を議論する。


(アイデア)格子ベースのREDF計算の量子コンピューター用アルゴリズム

記事の最終更新: 2022/06/26.

格子計算は基底関数ベースの計算に比べて拡張性に優れており、変形核や時間発展系への応用を考える際に有利である。また、REDF理論を含む、相対論的な場の理論にもとづいた数値計算は、量子色力学や強相関電子系においても重要な課題である(John Preskill, arXiv:1811.10085v1, 2018.)。本課題では量子コンピューター用の格子REDFアルゴリズムの開発を行う。従来型と量子コンピューターの長所を組み合わせることで、高速・高効率なREDF数値計算を実装する。


(アイデア)機械学習によるREDFの最適化

記事の最終更新: 2022/06/26.

AI technique, e.g. the machine learning, has been expectedto provide the efficient optimization of REDF. There have been many sets of parameters forthe REDF Lagrangian with considerable ambiguities. The error analysis at the optimizationhas been another issue also. Instead of the human-hand efforts to optimize them according to ahuge amount of experimental data, The machine-learning framework can be a better option. Inparallel, for this purpose, it is necessary to prepare the experimental data available for machinelearning. For reference data, the electro-magnetic excitations as well as the weak-interactionprocesses can be suitable.


(アイデア)有限核中の陽子・中性子のスピン相関

記事の最終更新: 2022/06/26.

(修士課程向け)有限核中の陽子・中性子のスピン相関。ハドロンプローブを用いたM1遷移の測定(H. Matsubara et. al., Phys. Rev. Lett. 115, 102501)から、核内部では陽子と中性子のスピン相関が有限値をとっている可能性が提示されている。しかし、非相対論的な理論計算からこの相関値を再現することは容易ではない。本件ではREDF-QRPAを適用しての説明を図る。同時に、有限核や核物質の磁気的性質についても議論する。


(アイデア)変形を含むM1やGT遷移の計算

記事の最終更新: 2022/02/21.

(博士課程向け)変形を含むM1やGT遷移の計算。中性子過剰な原子核では変形を考慮する必要がある。しかし変形を取り入れた場合、QRPAの計算コストは大幅に増加する。効率的な計算のため、先行研究(H. Liang, T. Nakatsukasa, Z. Niu, and J. Meng, Phys. Rev. C 87, 054310, 2013)で提唱されたFAM-QRPAを採用する予定である(業績A5)。


(アイデア)一粒子QRPAを超えた成分を含むREDF計算

記事の最終更新: 2022/02/21.

(博士課程向け)GT遷移では一粒子QRPAを超えた成分の影響が無視できない可能性が示唆されている。本件ではこの第二成分までを取り入れたREDF計算スキームの開発と、M1/GT遷移への応用を試みる。また天体核反応が起きる環境下では、ゼロ温度近似が必ずしも妥当ではないため、従来の計算スキームに有限温度効果を追加することで解決を図る。


(アイデア)中性子星と原子核の橋渡し

記事の最終更新: 2022/02/21.

中性子星と原子核の橋渡し。中性子星はいわば巨大な核子多体系であり、かつその強い重力により、相対論的効果が無視できない(J. D. Walecka, Ann. of Phys. 83, 491, 1974)。先行研究の一例として、応募者らは、中性子星物性と電磁気型の励起モードとの相関を議論した(業績リストA13)。本件ではより包括的な視点に立ちつつ、M1/GT遷移や残留相互作用と、中性子星物性の関係を明らかにしていく。特に、中性子星の強い磁場の原因をREDFラグランジアンから説明できるかが、一つの試金石となる。


(追記)相対論的なEDF理論を基本フレームワークとして採用する動機

記事の最終更新: 2022/02/21.

現在までに実用化されている原子核の理論計算手法には、他にも少数厳密計算、大規模殻模型、第一原理計算などが存在する。これらの手法と比較すると、エネルギー密度汎函数(EDF)理論にもとづいた平均場計算は、現在においても、核図表上において最大の適用範囲を誇っている。即ち、多くの核種を統一的に取り扱うことが出来る。また、他の原子核EDFと比較した場合、相対論的なEDF計算には以下の特長がある。ラグランジアン・スピノール形式から出発するため、スピンの自由度が自然に記述できる。核子のDirac方程式から、スピン軌道相互作用を自然に記述することができる。高エネルギー領域への応用を考える際にも、相対論的効果や因果律を保持できる利点がある。考慮する中間子の結合定数と量子数が、ラグランジアンの相互作用と良く対応しており、新たな実験データに合わせて理論を改訂していく際にも、見通しが立てやすい。 しかし一方で、REDF理論の数学的基礎付けやパラメーターの精度、数値計算法などの問題も多く残されている。本研究がこれらの問題解決に貢献することを強く望んでいる。


(過去研究)相対論的エネルギー密度汎函数(REDF)理論と磁気双極子(M1)励起への応用

記事の最終更新: 2023/02/15.

背景: M1励起は磁場によって引き起こされる集団励起モードである。基本的な観測可能量であるばかりでなく、 スピン・軌道順位分裂、相対論的残留相互作用、核子クーパー対相関と密接な関連がある。多彩な励起現象を 網羅的に説明できる理論を打ち立てることは、原子核物理学の重要課題の一つである。現在、このような一般理論と なり得る有力候補の一つが、相対論的エネルギー密度汎関数(REDF)理論である。

目的と方法: REDF理論に準拠したM1励起の系統的解析と、相対論的な擬ベクトル型残留相互作用の評価を行った。 REDF理論はフェルミオン(核子)といくつかのボソン(中間子)を含んだ有効量子場の理論であり、非摂動的な 相互作用を含む。M1励起強度の計算には、相対論的な自己無撞着Hartree-Bogoliubov計算および準粒子乱雑位相近似 (QRPA)を利用した。

結論・インパクト: REDF理論がM1励起エネルギーの実験結果を良く再現できることが確認された。今後は 通常のQRPAレベルを超えた複雑配位などの影響も考慮した精密解析が期待される。M1励起は擬ベクトル型の 残留相互作用の影響を強く受ける。これはパイ中間子交換に由来する相互作用であり、従ってM1励起とパイ中間子の 性質は密接に関連していることが明らかとなった。将来M1励起の精密実験データが出揃えば、核子-パイ中間子の 結合等に関して、更なる解明が期待される。開殻核では対相関の影響も顕著であることが示された。特にM1和則が 核子クーパー対の合成スピンに顕著に依存することを、数学的議論と数値計算の双方から証明した。 核子クーパー対には合成スピン0と1の二通りのモードが許されているが、原子核内部において真に支配的なのはどちらのモードなのかを、M1励起の実験データから判定できることが示唆された。現在進行中の研究では、既存のM1実験データとの照合から、合成スピンを0とする対相関モデルの方が正しいことが予想されている。 M1とアイソバリック・アナログな関係にあるGT励起についても、REDF-QRPAによる解析を行い、 擬ベクトル型の残留相互作用の重要性などを指摘した。

最新論文: Phys. Rev. C 105, 064309 (2022).


(過去研究)時間発展計算によるハイパー核からの陽子放出

記事の最終更新: 2021/12/28.

ハイパー核の陽子放出崩壊の確率が、陽子-ラムダ核子の相互作用に強く依存することを指摘した。この成果にもとづいた研究発表により、SNP School 2020にて橋本賞を受賞した。

最新論文: Phys. Rev. C 97, 024318 (2018).


(過去研究)時間発展描像に準拠した二陽子放出崩壊

記事の最終更新: 2019/04/07.

背景: 量子力学的な時間発展計算は、原子核の多彩な動力学的プロセスを理解するために有効な方法である。 二陽子(2p)放出崩壊はそれらのプロセスの一種であり、その解明は、核子対相関や多自由度量子トンネル効果に関して、重要な知見を提供することが期待されている。真空中では2中性子あるいは2陽子は束縛しない。しかし原子核内部においては、この束縛系“dinucleon”に類似した構造(合成スピン0)が示唆されている(dinucleon相関)。この相関は非束縛・連続状態における核子クーパー対とも言え、2p放出過程の初期においても実現している可能性がある。

目的と方法: 2p放出崩壊における多粒子トンネル効果やdiproton相関の影響を議論する。この目的のため、崩壊プロセスを再現する時間依存量子三体モデルを開発した(親核+陽子+陽子)。

結論・インパクト: 時間依存モデルにより、2p放出崩壊を直観的に議論することが可能となった。 2p放出のトンネル確率は、陽子間のペアリング相関によって顕著に左右される。ペアリング相関は引力である核力を起源としており、 これにより、放出崩壊確率はペアリング相関を無視した場合に比べて、強く抑制される。 引力的ペアリング相関により、陽子単体での放出はエネルギー的に抑制され、二つの陽子は同時・同一方向に 放出される確率が高くなる(true two-proton decay)。このtrue two-proton decayの過程では、合成スピン0の diproton的配位が支配的となる。以上の成果は、原子核内部におけるペアリング相互作用と、2p放出崩壊の 相関を明確に示しており、いくつかの国際的な招待講演等でも評価を受けた(研究業績リスト参照)。

最新論文: Phys. Rev. C 96, 044327 (2017).


(過去研究)Skyrmeエネルギー密度汎函数(EDF)理論に基づいた巨大電気双極子(E1)共鳴の解析

記事の最終更新: 2017/02/07.

背景: Skyrme-QRPAは原子核の集団励起現象を系統的・効率的に計算することに威力を発揮してきた。行列型QRPA計算では、励起状態はQRPA行列を対角化して解かれる。その次元数は使用される基底数に応じて決まるが、特に変形している中重核の場合は、必要な基底および次元数が爆発的に増大し、QRPA行列の計算と対角化が困難であった。この問題に対する解決策の一つがFinite-Amplitude Method(FAM)である。 目的と方法: 軸対称変形を含んだ希土類核種の巨大E1共鳴を解析し、Skyrme-EDFの再現能力を評価する。この目的のため、Skyrme-EDFに準拠した自己無撞着平均場計算にFAM-QRPAを実装した。 結論・インパクト: 従来の行列QRPAでは困難であった、変形核種の巨大共鳴の系統的解析が実現した。スーパーコンピューターを利用した並列計算により、希土類核種の巨大共鳴を評価した。巨大共鳴の周波数と、アイソベクトル型の有効質量との相関について、詳細な議論が行われた。有効質量は核物質の状態方程式と密接に関連しているが、計算結果と実験データとの照合から、Skyrme-EDFによる予言値が適切であることが示唆された。計算された光吸収断面積は、多くの核種で、実験データとの良い一致が得られた。その一方、いくつかの核種では計算結果が実験値を過小評価しており、さらなる発展の必要性も明らかとなった。

最新論文: Phys. Rev. C 93, 064329 (2016).


これまでの研究成果と今後の研究計画の最新版(PDF)