原子核三者若手 夏の学校2025

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三者共通講義

「2つの量子AIが会話をすると量子ゼノン効果は起きるのか?」

堀田 昌寛 氏 (東北大学 理学研究科 助教)

最近のAI技術の進展は著しく、下記動画のように、人間をいれずに複数のAIを会話させてブレインストーミングさせることも可能となっている。

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将来的には、量子コンピュータを用いた量子AIでも同様のことが実現できるかもしれない。しかし、その際に量子ゼノン効果(quantum Zeno effect)が量子AI間で発生し、量子AI自体が停止する可能性がMax Tegmark(arXiv:1401.1219)によって以前から指摘されている。会話を続けるには、一方の量子AIは他方の量子AIを連続的に観測をする必要がある。量子ゼノン効果とは、量子力学における測定の反作用によって生じる現象であり、「継続的に観測を行うと、観測されている量子系の動きが止まる」という形で説明されることが多い。実際に、量子コンピュータの素子である量子ビット系などにおいては、量子ゼノン効果が実験的に確認されており、量子エラー訂正への応用も過去に議論されてきた。一般向けの説明としては、「水の入ったやかんを火にかけて見つめ続けると、いつまで経っても沸騰しない」という例えがよく用いられる。また、番犬に睨まれた泥棒が動けなくなる様子に似ていることから「番犬効果(watchdog effect)」と呼ばれることもある。このようなことからTegmarkは、会話をしようとする量子AIたちにも量子ゼノン効果が起きて、会話が止まってしまう可能性を考えたのである。しかし、火にかけられたやかんも、番犬に睨まれた泥棒も、素粒子から構成されるマクロな量子系であるにもかかわらず、実際には量子ゼノン効果によって動きが止まることは観測されていない。本講演では、シュレディンガーの猫を連続的に測定する思考実験から出発し、どのような条件下で量子ゼノン効果が発生しないのかを考察する。そして情報流に関する一方向性ダイナミクス(one-way dynamics)という自然な仮定が成り立つ限り、連続的に外部から量子系を間接測定しても、その量子系に量子ゼノン効果は発生しないことを、一般的な定理として証明をする。量子ネットワークとして複数の量子AI間のやりとりを想定する場合も、この一方向性ダイナミクスをネットワークの設計段階で取り入れることで、量子AI間の量子ゼノン効果を完全に抑えられることを述べる。

参考文献:量子情報と時空の物理【第2版】(堀田昌寛 サイエンス社)第5章

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「量子重力と宇宙論」

野海 俊文 氏(東京大学 大学院総合文化研究科 准教授)

我々の宇宙は地上の実験では再現できない様々なスケールの物理現象で満ちている。例えば、初期宇宙のインフレーションは超高エネルギー現象と期待され、暗黒エネルギーや暗黒物質などの暗黒セクターの物理は超低エネルギー・超弱結合の現象と考えられる。本講義では、宇宙現象が持つ「極限的スケールにおける素粒子や重力の実験場」としての役割、特に量子重力との関わりについて議論したい。講義の詳細は未定だが、量子重力における対称性、ランドスケープとスワンプランド、ブートストラップといった話題を紹介し、その過程で時空の熱力学や曲がった時空中の場の量子論などの基礎的内容も説明したいと考えている。

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「標準模型を超える新物理学模型と対称性の破れ」

津村 浩二 氏(九州大学 理学研究院 准教授)

対称性の自発的な破れは現代の素粒子理論の模型構築において重要な役割を果たしています。素粒子標準模型では、ゲージ粒子が質量を獲得するためのヒッグス機構においてゲージ対称性の自発的破れが起こっています。本講義では、対称性の自発的の破れとヒッグス粒子の物理についての解説を行う予定です。また、標準模型を超える新物理模型の構築への応用として、擬南部ゴールドストン暗黒物質模型を題材にそのアイデアがどのように活用されているかを解説したいと思います。