日記 (4月)


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主な予定

  1. 4/11 授業開始。物性研究編集会議。
  2. 4/12 夏の学校テキスト
  3. 4/14 稲盛財団助成金贈呈式. 新聞記事(被写体は....).
  4. 4/20 楓さん臨時セミナー(J227) 昼過ぎ。
  5. 5/9 奥村さんInformal Seminar (J227) 'Topological gels' 16:00-
  6. 5/13-15 理研
  7. 5/27 地球物理合同大会 , 28 学習院
  8. 7/15-17 基研研究会「ソフトマターの物理学」
  9. 7/23-25 流体力学会
  10. 7/31 夏の学校
  11. 9/29-10/25 Dresden (参加は未定).
  12. 全然終らない本1(〆切はとっくにすぎた)
  13. 全然終らない本2(〆切はとっくにすぎた)

5月


4/30:

DEMのcoding. 接線方向のはねかえり係数は決まらないかな。 ずりでなかなか定常化しない。force chainもどきは散逸が弱くても結構生き残って いる。はねかえり係数が小さいとforce chainの崩壊で振動的になる。中くらいだと 単調に減少、大きすぎると爆発する。


4/29:

原稿打ち等。プラッツに行った。どうも風邪をひいたようだ。


4/28:

家族で比叡山登山。幼稚園児の次男が頑張って歩いて登り切った。延暦寺迄歩いて こちらは脚がつりそうになって歳を実感。さすがに子供も疲れていたので歩いて 下山するのを諦めてバスで下りる。


4/27:

先週の芸術劇場を実は見ていた。クラシカルフュージョンという分野はあっても いいだろう。芸術性はないだろうが気軽に質の高い音楽を楽しみたいという層は ある筈だ。しかしBondはすぐ消えると断言してもいいかも。美女4人組 なんてそんな不安定な構造が続く筈がない。年が経てば容色も衰えるし、いつも 4人で行動することにストレスを感じる筈だ。僕が学生の頃ラベック姉妹という (美人で売っていた)ピアノディオがいてコンサートに行き、レコード(CDでない)を 買ったが彼女等はどうしているのだろう。

計算機をごそごそ。どのように統計量を測定すべきかの考えがまとまらず、 まとまった後に打ち込んだのにはバグがあった。効率悪し。


4/26:

朝から授業2つと4年セミナー2コマと会議でもう7:40。さすがに授業 週7コマはきついなあ。連休明けには更に面倒な用事も入るし。

1コマ目:やはりexp(iθ)というのは納得がいかないようだ。授業後その説明 を質問に来た学生にしていたら2コマ目が始まる。2コマ目は文系向きでガリレオ の相対論。これはうまく説明できたかな。3、4コマ目は4年ゼミ。進まない。 そもそもゼミ(輪講)というのは殆んど何時も進度が遅く、肝心な処に行く前に終わる。 この形式は効率的とは言いがたい。しかし他の手法を試みる余裕はさすがにない。 そんで3時間ちょっとの会議。

こんなのが公募を募集する葉書を送って きた。北原さんは理論家のくせにお金貰って何をしているのだろう。


4/25:

朝から今まで殆んど休みが取れない木曜。明日も同じ。今年は授業の他に面倒な 事がいろいろあるので単純に体力的にきつい。研究が進展しないのも追い打ちだな。

午前の2つの授業は教科書の原稿を配ったのがよくないのか、2コマ目で量子力学 の講義になったのがよくなかったのかただでさえ少ない受講者がまた減った。 流体力学はやはりバグが一杯発見。(一人熱心な学生がバグを指摘してくれた)。 2コマ目は疲れた。量子統計の導入は来年からもうちょっと考えないといけない。

昼に打ち合せをして、チュートリアル、M1の指導、金君との議論で終わり。M1は 弾性論(というよりもその前)の段階でうろうろしている。


4/24:

午後から礒部君 が来るので午前中にできることとしてシミュレーションのコードの整備を行なう。 統計量を取る前にBumpy boundaryのずりとFlat boundaryのPoisueille流を計算 できるようにしていた。後者は時間刻みを細かくしないと不安定化する。(バグかも)。 またパイプの中程に固まってきて定常化せず加速し続けるのは予想通り。散逸がでかい というせいもあるだろう。

ついでに昨日紹介した僕のノートのバグを発見。平らな壁のとき接触点番号のクリア がちゃんとされていなかった。

礒部君の セミナー. 乱流と2次元粉体Cooling系とのアナロジー。考えたらJenkins and Richmanのチェックのその前の段階で2次元非弾性ガスの流体方程式を議論 する必要があり、ついでにこのアナロジーの理論的根拠はチェックできるではないか。 モチベーションが低かった計算に目的が出来たかな。(エンストロフィーの方は 非圧縮性は関係なさそうだし)。


4/23:

大信田さんから講義ノートについて詳細なコメントを頂く。 どういう本を書くことになっているかという事情を紹介した方がいいだろう ということで大信田さんに送り返した メールの冒頭部分をそのまま載せる。(1章はまだ最初のプランの残滓が ありありと残っている。直さないといけない。)

ず初めにお断りすべきはこの本は軽薄短小を目指したシリーズ(サイエンス社) の一冊なので あまり(質的にも)量的に充実したものは書けないということです。ですから 自ら課した制約は半年の学部講義で実際にこなせる量ということです。実際には 4章は大学院向けに回しましたがそれ以外は現実に昨年度講義した内容です。 ですから計算もその場でフォローできるのが原則になっています。(実際には スペースの関係で問に回してしまった箇所もありますが、Web等で公開する予定です)。 カルマン渦の計算はちょっと繰り返しが多いので省略気味ですが、、、。

その制約のために、僕にとってよりfamiliarなStokes flow等の遅い流れは一切省略 せざるを得ませんでした。(面白みがないし、沈澱とかまで突っ込むと学部生には 難しい)。◯△さんから依頼があった時は粉体への応用を見越した教科書が書けたら 面白いと言われましたが、そんなことは出来る筈もありません。そもそも連続体力学が あるかどうかが大問題ですから。(イントロにはその残滓があります)。

という訳で本の性格上、巽先生の本の後釜になろうなどというのは不可能ですし、 そんなことをしたら出版社に叱られます

7章は日曜に打ち込んだだけにまだ自分でもすっきりしていない。2次元に話を 集中した分、実際の渦との違いが見えにくくなっている。2章の質量保存も 境界を固定しないで動かした方が統一的になってすっきりする。 後、半年分の余裕があれば粘性流、沈澱、気体分子運動論からの流体方程式の導出、 液体論、弾性板や棒の運動とかを書くのであろう。粉体も書くかも知れない。 乱流は書かないだろう。知らんし。

M1から4章のタイポを指摘される。他の方のコメントも募集中。

もう一つ。流体力学が成り立つ条件が粒径(相互作用半径)<<平均自由行程<<流体力学 スケールと誤解している人が多い。当り前だが水などの液体では粒径(相互作用半径) と平均自由行程は(逆転する可能性も含めて)同じ程度である。平均自由行程と流体 力学スケールの分離も必要ないと期待している。では普通、何故分離しているように 書くかというとそうすると話が簡単で流体力学を分子論的に基礎づけることが可能に なるからである。そうでない系の流れはやはり分からない事が多い。

てなことを書いて久しぶりにDEMのコードをいじっていたらサイエンス社の2人組が 来襲。担当の編集の方だけでなく社長さんもいらしたので恐縮する。とりあえず夏 迄待って貰う譲歩は取り付けた。(授業をしながらデバッグをしている事情を理解 して貰えた)。

DEMの方はBumpy boundaryでのPoisueille流を計算してみる。エネルギーの定常化 (といっても揺らぎが大きい)はすぐ得られた。密度が大きいかもしれない。速度 と密度の分布を統計処理する必要がある。散逸があってBumpyだと明らかにパイプの 中程に寄って来る。随分久しぶりだったので 自分で書いたノートが役に立った。明日は統計処理をしてみよう。

Gif animationを作ろうとしたがどうもうまくいかない。画面で見ている分には 問題がないのだが。


4/22:

Gollubのページを見て考える. シミュレーションと近いが、理論とはちょっと違うと感じる。 そもそも粉体に理論が必要か(或は可能か) というのは常に問題になるが今は切実に感じる。

一方で渦糸格子の存在は19世紀からよく知られている(Kelvin 1878)が、際本さんの 実験とか(或は昔の那須野さんの実験)でそれを踏まえた解析がされたかどうかは 疑問がある。(本に書き加えるかな。昨日は間に合わなかったが)。因みに格子構造 は安定である。Gollubグループのclusteringの話もきっと19世紀には常識だった話 ではないかとふと思う。


4/21:

雨だったせいもあって流体力学の 講義ノートを打ち込む作業に専念。かなり進んだ。一応 カルマン渦の安定性迄打ち終えて昨年の講義分が終了したので公開することに した。まだ図を入れていない箇所が多いが意見を貰えたら改善しようという段階 に入った。この原稿からいい加減に本を書き上げないといけない。 ( 講義ノートのページを新設したので、そこからダウンロードできる。 )


4/20:

楓さんのセミナー。新しい知見はなかったがまあ楽しめた。観測データが粗いので どこまでモデルで話が出来るのかという疑問は残る。しかしまだ分野的に未熟なので 発展を見込めるのも事実。こうした分野に数値計算をうまく使って切り込めたら 楽しいと思う。

Jenkinsと御手洗さんとのメールでのやり取り。Jenkinsは全て分かってこの計算を 進めていると思ったらそうではなかった事が判明。やはり平面境界の問題は もうちょっと時間をかけてゆっくり研究すべきという事になりそうだ。境界近傍で 流体力学を議論するなら明確な境界層(Knudsen's layer)がない方がいい。


4/19:

平らな境界でのずりでは極性流体は瀕死状態かも。やはり非平衡の本質は境界にある。

今日も授業日。1コマ目は1年の力学。ニュートンの3法則を紹介。F=m aを「ち=し か」と同じことだと言うとちょっと受けたかな。TAがいるのでHomeworkを出す。 2コマ目の 文系物理。去年から分かっているとは云うものの初等微分積分が出来ない ことには改めて驚かされる。10年程前は「日本人の8割が微積分を身につけていると すれば、それはお化け民族である」とされていたが、今や京大の文系でも殆んど駄目 な位レベルは落ちている。まあそれでもいろいろ反応があって楽しい授業である。 (例えば村上陽一郎の悪口を言っていたのだが、科学史専攻の大学院生がいたりする。 今日は村上氏の微分に対する意見はどうひいき目に見てもお粗末すぎて議論には なっていない)。午後は2コマ続きの4年ゼミ。ゼミ慣れしていないのか準備不足。 終了後これを渡す。

金君との議論。まだhard disksの2次元Enskog理論の確認段階。


4/18:

論文出ている (PRL88, 174301 (2002)). ちょっと前から出ていたのだと思う. 校正から出版は早かった.

午前は授業. 流体力学はテキストを配付して行なう。 やはり勘違いがあって手直しによい機会だった。統計力学は量子力学の講義になって しまった。von Neumann方程式なんかださん方がいいのかもしれない。(何も考えて いないのでそのまま講義した)。

またこの会議の案内が来た。

午後は研究室のコンピューターファシリティーをどう使うかというチュートリアル。 今週は初等的な話。来週はもう少し役に立つ話。あと金君のMathematicaの上手な 使い方等。その後にM1のゼミを予定していたが準備不足で流会。

極性流体は(論文が出版されたばかりなのに)かなり難しい状況にあるが、 計算のアルゴリズムは家で考えることにしよう。やっぱりバルクベースの話は 厳しい。

楓さんに連絡を取って臨時にInformal Seminarをやってもらうことになった。


4/17:

朝長いメールを博士後期課程編入希望学生に書く。当り前だがこの時代に博士後期課程 に進むということはかなりの覚悟が必要である。

ランダウ・リフシッツねた。ランダウ・リフシッツの全シリーズを演習問題迄全部 やって読破した人を2人は知っている。2人(30代と40代)とも立派な研究者である。 昔、林忠四郎先生は大学院合格後から大学院に入る迄の間にこのシリーズを読むことを 勧めていたので天体核方面にも全巻読破という強者はきっといるだろう。

セミナーは分からなかった。

数値計算ネタの続き。反応拡散系を初めとするパターン形成が完全に腐海に呑み込ま れてしまった訳ではない。(プレゼンがうまかったせいかもしれないが)昨年の研究会 での三村さんの話は面白かったし、何より昨年2月に聴いた西浦さんの話は理論面で も興味深い進展があることを雄弁に物語ってくれた。彼は理論を作る上で数値実験を して現象を観察してから理論を作るという教科書的な研究態度で成果を出している。 しかし何でそういう「物理的な」研究態度を取るのは数学者で、物理屋にそういう例 が見出せないのかは謎。

國仲君と議論。学会の後、ギャンブルだったがモデルをランダム格子に変えた。 その結果、多くの問題点がクリアされた。特に接線方向の跳ね返り係数が正に なったようなのは喜ばしい。しかしまだ道は遠い。

数値解を求める準備をしていたがまだアルゴリズムが定まっていない状態。授業 準備他であまり進まず。(気が進まないのが最大の原因か)。


4/16:

うーん困った。あまりやりたくなかったのだがμ_Bをフィッテングパラメーター込 で動かしてみたのだが値の上限が示される始末で値が小さすぎる。ならばとμ_rも 動かして2パラメーターにしてみたが傾向は殆んど変わらず。これでは太田さんが 笑ってしまうな。解析を簡単にするために導入した定常密度近似が使えないことが ほぼ確実になってきた。解析解がなくなるけど仕方がない。

数値計算の続きをややしつこく。数値計算が読み書き算盤の算盤に当たるのは 間違いないというのは納得して貰えたと思う。ソリトン等の厳密解を研究している 人に数値計算の達者な人(双方の専門家)が多いのも偶然ではないと思う。早稲田の 高橋大輔さんは流体の数値計算から研究の道に入ったがソリトンに転じて成功し、 優れた業績を残している。

しかし算盤は数学ではないのも 事実。そのあたりから嫌いである理由をもうちょっと語って行こう。以下の意見 は時代遅れになるかもしれない。

まず数値計算に乗らない(乗りにくい)分野というのがある。例えば証明とかは どうやって計算機に乗せるのかは分からないし、不等式とかも計算機が苦手と する処だろう。(最近は数学の証明にも計算機を使うという話を聞いたがどう 使うか知らない)。そもそも計算する対象がはっきりしないときには計算機で プログラムを組むという作業が出来る筈もない。計算機が登場するのは一般に ある程度routine workに入ってからである。ファインマンがダイヤグラムを考える のに計算機を使っていないが、今やダイヤグラムは計算機の中で数え上げる事は 可能である。(VeltmanがUrbana-Champaignでdiagrammarの宣伝をしていたときは この人がノーベル賞を貰うとは思っていなかった。99年のは't Hooftの単独受賞に すべきだったと思う).

昨日説明したように数値計算では結果が分かりにくく解釈が難しい。この例として 90年頃の1次元電子系の混乱を見れば分かる。今田さんあたりが量子モンテカルロ 等で状態密度にとびがあることを主張されていたが川上・梁による Tomonaga-Luttinger liquidの厳密解によってとびは微係数にあって状態密度は連続 という事が明らかになった。(川上さんが得意そうに専門外の大学院生の僕に論文を くれたことを思い出します)。

ではきっちり計算できれば数値計算の方が上か、というとそうでもない。例えば 臨界現象における繰り込み群(数値RGとかではなくε展開とかを思い浮かべて下さい)は 臨界指数を計算する上で決していい方法ではない。従来からある高温展開や低温展開、 或はモンテカルロ等の方がより緻密に臨界指数を計算できる。しかし誰がどうみても RGは素晴らしいがそうした数値的に求めた手法はそれほど評価されない。 理由は明らかでRGは臨界現象に極めて物理的な描像を持ち込み、個々のモデルに依ら ないユニバーサリティーという概念を定着させたからである。誰がどうみても美しい のである。

数値計算が「航空写真」というのはある意味で当たっているのだが、やはり「絵画」 である理論の美しさには叶わない。しかし写真の登場によって絵画の役割が変質し、 死んで行った様に美しい理論も死んで行く可能性はある。それを避けるには美を 理解して美を実現する努力が必要であろう。

カウンターは現在268. 市來が3/5に今まで日に数アクセスしかないのに今日は400近く アクセスがあるからリンク先を変更してと言っていたが、そんなにアクセスはないぞ。

付記(4/17):市來からのメールで実際に僕経由で飛んで来たのは173で、 毎日の記録から飛んだのが29だそうです。 400というのはその人達が訪れたのべページ数。勿論250以上のアクセスがあるという 事自体驚異的な事なのでありますが。


4/15:

昨夏のTriesteでの会議録が届く。

どうも迷いがあってどの方向でまとめるのか、或は計算し直すのか定まらない。 計算し直す場合でも時間がかかるし、一人ではミスが発見できないので駄目だ。 とりあえず相関の効果はないとしても計算に用いた仮定とその状況が整合していない ので計算が合う必然がないというのも問題。逡巡してばかりで時間ばかり過ぎる。

数値計算の話は比喩を使ったので分かりにくくなった。

  • まず第1に僕は田崎さんとは立場が違う。数値計算だけの論文は結構書いている。 (Second authorになっている論文は相当数の論文がそうだと思う)。授業でも シミュレーション概論を教えていたし、物性研究でも数値計算の記事を多数依頼 している。学生にはまず数値計算から入る様に指導する。
  • しかし数値計算が好きか嫌いかと問われれば嫌いである。
  • それは数値計算がやはり多くの場合解析計算に及ばない側面を持つからである。
  • まず指摘しなければならないのは数値計算には誤差がつきものであり方法論が 多様でそれぞれの適用範囲が狭いことである。この事は差分と微分を比べれば一目瞭然 であろう。差分は最低次で考えても前進差分、中心差分、後退差分がある。 或はフーリエ変換等の関数多項式近似も考えられる。常微分方程式の解法1つでも多彩 で汎用性に乏しい。無限小、無限大 を扱えない数値計算では誤差は至る処で入って来る。 解析解があるときに数値計算をすることは間抜けであることは論を 待たない。
  • 無論、方法論が多彩であるだけに新しいアルゴリズムを開発できる余地があり、 それが優れたものであれば皆に使われる様になるだろう。やり尽くされた解析計算に 比べ、アルゴリズムが一挙に浸透する可能性に秘めている。
  • 一方で統計物理や非線形の分野では数値計算に頼らざるを得ない。厳密な 解析解がないのであるから(乱暴な解析)近似解か数値近似解しかないと言ったらいい 過ぎであろうか。多くの物理的直観に基づいた解析的な扱いには間違いがあることは 数値計算をやれば容易に分かる。
  • 数値計算というのは厳密解を求める手続きと近いものがある。各ステップでは 必ずしも見通しがよくないがそれらをきちんと抑えていけば正しい近似解を得ることが 出来る。
  • 解析計算でもこんなの は注意深い数値計算と何の変わりもない。関数多項式近似法である。
  • しかし解析計算と異なり計算結果は数字でしかないのでこの結果の圧縮が必要 である。特に非線形分野の人はその辺が怠慢だと思う。先週のMikhailovのセミナー 等はまさにその典型である。
  • またモデル化をする段階で大胆な簡単化をしているのにそれを金科玉条のように 振り回されても困る。
  • 腐海と言ったのはそうしたやりっぱなしの知的怠慢が感じられる論文がものすごい 勢いで増えて解析計算等を呑み込むことを指す。
  • 数値計算の方が誰でも容易に何らかの結果を出すことが出来てしまうだけに 計算の信頼度と共に如何に結果を解析するのかという事が重要なのだがその点に注意が 足りない。小学生の観察絵日記みたいなのが多すぎる。
  • 例えば何度も引き合いに出して悪いがMikhailovの発表を例に取るならば、CGL とか反応拡散系とかのパターン形成にはそれなりに理論があってきれいな結果が 出ている(see e.g. RMP 74, 99 (2002)). しかし理論で出来ること(大抵は線形領域 の話)が終わると数値計算の絵とかビデオばかりになって、分野全体が腐海に呑み込まれ たようになる。
  • Pattern Formationの分野がまさにこの意味で危機的であるというのはアメリカ でよく認識されていることである。(Hohenbergが引退した後のいいcoordinaterがいない ということもあると言っていたが)。
  • 粉体は最初から数値計算しかなくむしろ解析計算を探す試みが評価される 分野であってだいぶ様相が違う。問題の難しさもあるが何かある筈だとポテンシャルを 感じている人が多い。
  • 最近楽しみな解析計算がようやく出て来たのは喜ばしい。夏の学校の ノート 参照のこと。
  • こうした情報圧縮された見方が可能になれば次世代にその見方を伝えることが 可能になる。数値計算ではなかなか難しい。
  • 無論間違いが多いので実験及び数値計算によるクロスチェックがないと無意味 である。
  • また実際の物質に即した話をするとき数値計算なしには相手にされない事は 肝に銘じるべきだろう。
  • 一方で現実の話を考えるときに数値モデルで現実に近いものを指向すれば する程モデルが複雑怪奇なものになるし、簡単化すれば知的怠慢が感じられるいい 加減なモデルが出来上がってしまう。そこで本質的モデルとか言って逃げるのは 多くの場合犯罪的行為である。
  • 要は数値計算のしんどさを認識していないでいい加減な論文を量産するから いけないのである。
という事で如何でしょうか。当然数値計算の方が可能性があると思いますが、上記 の欠点を克服しないといけないと思います。

某巨大掲示板の住人も見に来ているかもしれませんが、僕の本業はSSTではないし、 SSTに批判的なこと位は心得て下さい。でも茨の道を敢えて行こうとする彼らの態度 は素晴らしいと思います。

全然関係ないが3人の世界記録保持者(ゲブラシラセ5000,10000, テルガド half, ハヌーシ:マラソン)の対決で注目されたロンドンマラソンはハヌーシが世界記録で 優勝。テルガドはまた2位(オリンピック、世界選手権ではいつもゲブラシラセの次。 過去2回のマラソンも同様)。ゲブラシラセはやや期待外れだが彼らがマラソンを 走れるようになると日本人では勝負にならないかもしれない。女子のラドクリフも 高橋の記録より遥かによくトラックやクロスカントリーの実績からすると ヌデレバとの2強状態に入ったと言えるかも。さてボストンでのヌデレバの走りは?

と書いていたらヌデレバは21分台の好記録ながら敗北。オカヨがロルーペ並の記録で 優勝。日本にはますます厳しくなってきた(4/16付記)。


4/14:

稲盛財団助成金贈呈式. 正直な処面倒だなあと思っていたのだが行ってみて思ったより楽しかった。

付記:京都新聞の新聞記事で取り上げられていた。何と僕が貰うときの写真が 掲載されている。だからリンクしておく(4/17)。まだ若手なんだ。

まず盛和フェロー(過去の授賞者)の出席が90名近くあったことに驚いた。中には フィールズ賞を貰った森さんの様な有名人迄(有名になった後に助成金を貰って)今回 出席した方もいた。さすがにパーティーで話す機会はなかったが。

授賞の後、日高さんの講演があったが話がうまく面白かった。発想は既知のものをある 瞬間に結びつけることから得られるという話は示唆的。また(深泥池等の)幽霊は想像 力の欠如から見るという話もなるほどと思う。

その後に立食パーティー。こういうのは苦手である上に岩波の原稿の督促迄されたが 今回は2人との有意義な出会いがあった。一人は 金谷健一さんで 極性流体力学を粉体に応用した先駆的な研究を存じ上げている。もっとも最近は コンピュータービジョンの研究をされているようだ。極性流体については何年か毎に 思い出した様にどこかの研究者が取り上げるが、そもそも粒子回転は (分子運動論とかでの)摂動の高次効果なのでなかなか定着しないとのコメントを していた。当然僕の研究もそうなってしまう可能性がある。

もう一人は 松田卓也さん。考えてみれば小学生のときに彼と佐藤文隆さんが書いた ブルーバックスの「相対論的宇宙論」に衝撃を受けたことは忘れられない。 (佐藤さんの書いた処が面白かった)。何はともあれ松田さんは相対論に関する誤解を 解消するように努力されているが、その話を振ったところ早速問題を出された。 静止した2台のロケットが加速し、光速近くで 飛んでいるときにその間隔がローレンツ収縮するかどうかという ものである。これは相対論の専門家でも間違える微妙な問題とのことである。では それを連結したらどうなるか。会場でまさに専門家が混乱しているのを見た。


4/13:

連続体のTexの打ち込み. あまり進まない. あんまり既存の本と変わらないと 思うとタイプする手も動かなくなる.


4/12:

朝から2つ講義。力学と文系物理。力学はクラス一杯の出席で熱気で圧倒される。 文系物理は最初から少ない。最後迄持つかな。

昼に古川が来る。相変わらず調子良く面白い事を言う。小貫さんが動かない研究会を 何とかしないと話していたら、彼の御蔭で早速動き出した様だ。研究会の詳細は ここ。皆参加して下さい。 論文を2つ貰った。

午後は4年のセミナー。今日は何をやるか話し合った程度。結局久保さんの本で 「Brown運動」をやることになった。学生の能力は高いので手早く終えて後期に 面白いことをやってみたい。

その後は「連続体」の原稿の手直しをしていた。


4/11:

午前は流体力学と統計力学の連続講義。流体の受講者が少ない(5人)のは覚悟していたが、 統計力学の受講者が4人で3回生が2人しかいないのはどういうことだ(注:総人の 物理科学専攻の3回生は6人です: 更に注:4回生が2人いました )。

その後、物性研究の編集会議に行き、いろいろな案件を片付ける。その後、編集委員の リクルートに行ってからグループミーティング、M1用の講義、夏の学校の原稿の 仕上げ (PS, PDF )。そんでもって物性研究の編集後記。明日も午前は講義2つに午後は4年向け セミナー。うーん。研究時間どころか原稿を書く時間もないぞ。編集後記はこんなの 書きました。

学生の頃、5年間程中央公論を愛読していた事がある。立花隆の「脳死」が 連載されていたり, ヴォルフレンの「日本権力構造の謎」の出版前の論文が 掲載されていたり, 西尾幹二の国粋主義的な論文があったり, 亀井静香の意外 に論理的な提言があったりで多彩でかつ飽きの来ない記事が並んでいた。また89年 に在米中に見つけて面白いと思った 'Japan Containing'という記事も直ちに 翻訳されたりして編集者の眼力の確かさを 感じざるを得なかった。 しかし90年頃から急 にこの雑誌に興味を失った。漫画「笑うセールスマン」が連載されるなど, 読者 層の拡大を狙った記事の変質を感じたからである。その後は 文芸春秋の方がましに思える位に質的に凋落し、読売の渡辺氏に買収されて御用 雑誌に成り下がった。

似た様な経験は廃刊間際の朝日ジャーナルでもある。筑紫哲也の手腕 もあったのかもしれないが、新人類という言葉を作り出したり、 手塚治虫の未完の遺作「ネオ・ファウスト」の連載や東大の助教授として中沢新 一を採用すべきかという中沢問題に鋭い分析を加え議論を呼ぶなど 部数は出ないもののユニークな雑誌として 固定読者を掴んでいた。。しかし下村満 子が初の女性編集長として就任して以来、女性を過剰に意識した(今のAERA程ひ どくはないが)つまらない雑誌になってしまい読む事をやめた。程なく朝日ジャー ナルは廃刊せざるを得なくなった。

これらの例に共通しているのは硬派雑誌が読者に阿る姿勢を見せると読者は敏感 にそれを感じ取って却って人気を失うということである。無論、中央公論や朝日 ジャーナルは厳しい販売競争にさらされていたのであるから、じり貧状態を脱す るために路線変更をしようとしたのは理解できなくはないが、自らの存在意義を 否定するような事をしてはいけないのである。

1年程前に前編集長の海外出張に伴い思いがけず物性研究の編集長をする様になっ たが、本誌の存在意義、即ち、編集者が面白いと判断する研究内容を読者に阿ら ず、まとまった分量で手加減なしに書いて頂くという方針を遵守していきたいと 思っている。

編集後記はここで終わったが、ここから続くべき は聴衆を意識しすぎたpresentationとか 受けを過剰に狙った論文がきらいだという文章である。
4/10:

教務仕事等。昼は交通整理。明日の講義の準備。連続体の本の原稿もかなり出来上 がっているが久しぶりに見るとよく分からない。この機会に何とかしてしまおう。


4/9:

Mikhailov's seminar. 彼にはドクターの時にロシア語の論文を送って貰ったことが ある。東北のときも少しやりとりがあった。global couplingでturbulenceをsuppress する話。平均場に引き込まれてパターンが消えているだけに見えた。 ちょっと期待外れ。夕方議論。昔の仕事を思い出してから粉体の話等を紹介。興味を 持ってくれたようだ。夕食は彼と蔵本さん、蔵本研、吉川研の学生と。 秋にドイツに行くならば彼の処に寄りたいものだが出来るかな。

しかし京大の院生がランダウの教程を知らないということには驚いた。 ドストエフスキーの5大長編を読んだことがないというのと同じくらいに犯罪的で ある。という事で(持っているから)面倒だと思っていた復刊ドットコムに投票。

Mikhailovによるとプーシキンの小説は翻訳が難しいそうだ。評判の割に全く面白く なかったことを思い出し納得した。

蔵本さんが統計力学を意図的に捨てて偏微分方程式等の決定論的手法を採用したときは 世間の抵抗が大きかったということを強調され、最近の統計力学の回帰に抵抗がある、と言われたのが印象的であった。

物理科学のフロンティア。物理分野全体のレビューに1時間で僕の話は30分。準備 不足の割には喜んで貰えた様だった。砂のビデオを授業終了後も視てくれる熱心な学生 もいた。


4/8:

原稿書き。何とか形になった。とりあえず間に合うだろう。 コメントを送って貰えそうな人に送る。

教務委員の仕事。さすがに間抜けである。全く事務仕事は駄目だ。特に2,3月に海外に 行っていたからそっちの方の頭が欠落している。3,4年の部屋なんかすっかり忘れて いたし, 明日から「物理科学のフロンティア」などというリレー講義があってトップ バッターだということはすっかり忘れていた。という訳で明日の話をでっちあげる。

4月5日の日記の記述が波紋を呼んだようだ。確かに理論家からするとこのナウシカの 腐海に呑みこまれるという表現は当たっているかもしれない。ともすれば理論は 全く必要がない場合もあるからである。同時に深みのない計算結果のみの論文が 大量生産されるからである。 しかし数値計算の持つポテンシャルは解析 計算や物理の枠を越えるものがあるので、やはりナウシカの映画のままに解釈すべき だと思う。また粉体のように数値計算と実験しかない分野でようやく楽しみな理論の 萌芽が見えてきた段階では、人間にも腐海と共存して行く道が残されていると思う。

例えば工学は現在理論を殆んど必要としていない分野だが単に腐海に呑み込まれている と考えるよりも物理のテーマとしても面白い問題が隠れていると見るべきだろう。 また量子力学誕生時にはまさに古典的な物理学者は腐海に呑み込まれる感覚があった 筈である。腐海に呑み込まれた後に何が生まれるか(何も生まれないか)は研究者や 社会の頑張り次第であろう。


4/7:

夏の学校のテキストの原稿書きを始めたが集中できず、進まなかった。

時間があると無駄に過ごすが明日から時間が無い。とりあえず教務委員の仕事がある。


4/6:

葬式。

本を借りる。既に3冊読む。その中で印象に残ったのは「ただマイヨ・ ジョーヌのためでなく」か。癌に打ち勝ってツールド・フランスを制した アームストロングの話。

夏の学校のテキストの構成は固まる。ちょっと無謀かもしれないが最近の理論の 進展について書くことにした。問題はページ数と時間か。


4/5:

某所にて見かけた文章:

理論物理の現在の地図を見ると、風の谷のナウシカに世界に似ているではないか。 数値計算とよばれる腐海が漸次患部を広げつつ、古代から続く諸都市のような 諸理論が次々と飲み込まれてゆく・・
数値計算をやっている人には悪いけど笑ってしまった。

進展なし。そろそろ原稿書きモードにならないといけない。

妻の身内に不幸があり急拠帰宅して子守。歓送迎会に出席できず。


4/4:

うーん。改善されないな。輸送係数の修正方向が逆だった。現状では境界層の厚さ が薄くなりすぎる。そのせいかうまくいっていない。困った。

1日に書いた書類の書き方を問い合わせ先に聞いたら何も分からないという返答。 そんな書類を書かせるとは実にふざけている。こんなことばっかりやっていると 日本の大学はますます駄目になる。そこで代表的な5つの論文とその被引用回数を 書けという項があって情けない気分になった。結局reviewを抜いて引用回数の多い 方の論文を並べることにした。


4/3:

時間をかけてゆっくりと散逸率の計算をする。その結果RichmanのD論の計算が正しい 事が判明。そうすると太田さんに「合ってないやん」と言われた傾きは改善する。 漸進主義だがMicropolar fluidの有効性を示すには充分かもしれない。輸送係数も 結果が修正されているので結果には期待できる。明日の結果を知るのが ちょっとこわい。


4/2:

調子が出ない原因には迷いがあるのは間違いない。Jenkins and Richmanとの微妙な ずれが気になるし、そもそもRichmanのD論とpublishした論文を解釈したもの に微妙なずれがある。 その点ではRichmanのD論の計算が正しいと結果は著しく改善する。そもそも全部 無矛盾に計算できていないのがよくないのだが誰がどう見ても面倒な計算なので 全部を解きほぐすのは容易ではない。(労力を考えると楽な方法がないかと考えて しまう)。

片岡君が訪問。

混相流学会誌から原稿を 頼まれる。スケジュール管理が出来ていないと叱られそうだ。


4/1:

相変わらず調子が出ない。どうもアメリカにいて学会があって、high tensionの時期 が続いたので気が抜けてしまった様である。

研究とは余り関係のないことを断片的に。

  • アメリカの方が日本より流動的というのは誰が言い出した神話か。絶対嘘だろう。 tenur trackを取って移動する人間は稀である。勿論超有名教授には時折そういうことは 生じるがWilsonのように録な事を言われない場合が多い。日本では助教授から教授は 移るのが普通だし、東北大の素粒子論みたいにスタッフがまるごといなくなることも ある。
  • 流動神話は無論学部と大学院の進学先が違い、またPDFで違う処に行って、 Assistant Professorでもtenurを取れないケースが多いからである。tenurを取るまでの 変転流転が激しい。
  • 確かに日本で学部からずっと東大というケースの様に全く動かない場合があって それは問題がある。また地方大は(アメリカでも そうだと思うが)人が動かない。
  • しかしそこでアメリカの様に広い国土のシステムを表面上導入しても重点化の 様に失敗するだけである。今や東大の大学院に入るのは容易になったが同時にレベル 低下は免れない。
  • 一方で全教官からtenurを切ろうというのも無茶な話である。まして科研費の 有無等どれだけお金を取って来たとか云うファクターを教官の能力と見倣す風潮は クレージーだろう。論文を書きにくい分野と書きやすい分野、お金を獲得することに 意味のある分野とない分野がある。理論物理では過度のお金は有害だと思う。
  • てなことを書いているのもそういう書類を書かないといけないからである。 自分の論文のimpact factorとか学会での発表回数とか下らないことを書かないと 事務から叱られるからである。(本当の処は業績が乏しいことの自己正当化です)。

3月