佐合 紀親のウェブサイト
研究内容
有力な重力波源と考えられているコンパクト天体連星系について研究を行っています。
重力波について
重力波とは、一般相対性理論により予言される、時空の歪みが光速度で伝播する現象 のことで、「時空のさざ波」等と呼ばれています。1916年にアインシュタイン自身に よって重力波の概念が提唱されて以来、その存在性を巡って様々な議論がなされてき ました。1974年にハルスとテイラーにより連星パルサーPSR1913+16が発見され、 その後の継続的な観測から、その公転周期の減少率が重力波放出を仮定した時の値と 良く一致することが分かりました。これにより、重力波の存在が間接的に証明された と考えられています。 そして、重力波が予言されてから約100年後、2015年9月14日に、重力波観測器LIGOが 人類初の直接観測に成功しました。現在、LIGOの他にVIRGO、KAGRA、LIGO India等、 世界各地の重力波観測器が準備を進めており、将来、これらの観測器を用いた重力波 天文学が発展していくことが期待されています。
重力波を直接観測するには
重力波が通過するとその空間は歪められ、長さに変化が生じます。この長さの変化 を測定することで重力波を捉えることができます。しかしながら、重力波による長さ の変化は非常に小さく、例えば、太陽と同程度の質量を持つ、2つのブラックホール が銀河中心付近で合体した場合、地球上で観測される長さの変化率は大きくても1兆 分の1をさらに100万で割った程度と見積もられます。これは、地球の直径 12,000kmに対して、水素原子程度の大きさです。実際には、ブラックホール同士の 合体は銀河系よりも遠くで起こる確率が高いので、地球に到達する重力波の振幅は さらに小さくなります。このような小さな変化を捉える方法として、現在主流とな っているのがレーザー干渉計を用いる方法です。重力波観測器に用いられるのは、 基本的にはマイケルソン型と呼ばれる干渉計です(右図参照)。 重力波の初観測に成功した米国 の観測器LIGOをはじめ、欧州のVirgo、日本のKAGRAなどはこのタイプの観測器です。
理論波形とデータ解析
しかし、レーザー干渉計を用いた観測器の感度と比較しても、予測される重力波の 信号は非常に小さなものであり、観測データを一見しただけでは観測器の雑音に埋 もれていることがほとんどです。そのため、観測データから信号を効率良く取り出 すための解析法が必要となります。この様な解析法の一つに、事前に予測した重力 波理論波形と観測データの相関をとる手法があります。 「マッチドフィルタリング」と呼ばれるこの手法は、強力な重力波データ解析法とし て知られています。マッチドフィルタリングでは理論波形の精密な予測が要となります。
一般相対論における二体問題
コンパクト天体連星系は重力波源の最も有望な候補と考えられています。 (右図は、同じぐらいの質量を持つブラックホールが合体する時に放出される 重力波波形の概略です。) 連星から放出される重力波波形を精度良く予測するためには、 その運動を一般相対論の枠組みで 正しく理解する必要があります。連星を重力でのみ相互作用する二粒子系で近似的に 記述し、その運動を取り扱う問題は(重力)二体問題と呼ばれています。ニュートンの 重力理論において、二体問題は一体問題に帰結することで簡単に解くことができます が、一般相対論における二体問題はニュートン理論のように容易ではありません。 これは、一般相対論では重力波放射によるエネルギー損失が起き、定常な解が存在し ないためです。一般相対論が提唱されて一世紀近く経った現在においても二体問題は 未解決であり、重要な研究課題の一つと考えられています。
私の研究では、ブラックホール摂動法と呼ばれる手法を用いてこの問題に取り組んで います。この研究を通して、将来に実現されるであろう重力波天文学でデータ解析に 必要とされる理論波形の構築を目指しています。