1999年 原子核三者若手夏の学校
講義の概要


今年の講師・講義内容

なお、以下の予稿はPS file にしてあります。こちらから ダウンロードできます。
(予稿集の中の川合さんの所属がまちがっておりました。修正したものに置き換えました。1999.6.27)
講師: 川崎 雅裕氏(東京大宇宙線研究所)
Title: 素粒子的宇宙論
Abstract:
現在の宇宙論では、宇宙はビッグバンと呼ばれる大爆発によって高温・高密度の 状態で生まれ膨張をしながら冷えて現在に至っているという「ビッグバン宇宙モ デル」が宇宙の進化を記述する標準モデルであるとされている。この標準ビッグ バン宇宙モデルはもともとはガモフが1940年代に提案したモデル である。もし、このモデルが記述するように宇宙がかつて熱かったとすればその 痕跡として現在の宇宙は宇宙背景輻射と呼ばれるマイクロ波に満たされているこ とになるが、1960年代になってこのマイクロ波が電波望遠鏡を使って発見され、 さらには宇宙が熱い時期に陽子と中性子からヘリウムが合成され、その合成量が 現在の宇宙のヘリウムの存在量を良く説明できることが分かり、ビッグバン宇宙 モデルは大成功を収め宇宙の標準モデルとしての地位を確立したのである。その 後の様々な理論的・観測的研究によってこの標準ビッグバンモデルは宇宙が誕生 して約1秒から現在に至るまでの宇宙の進化を正しく記述していると考えられて いる。

しかし、標準的宇宙モデルは宇宙背景輻射の等方性に関係した地平線問題や宇宙 が100億年たった現在平坦に近いという事実を説明できないという平坦性問題と いった原理的な問題、さらには、素粒子の統一理論で予言されるモノポールが宇 宙初期に作られそれが宇宙の臨界密度を超えてしまうという素粒子モデルに関係 した問題、宇宙の構造形成の種となる揺らぎの起源が説明できない等の問題があ ることが知られている。

インフレーション宇宙モデルはこれら標準的宇宙モデルの様々な問題を解決する 新たな宇宙モデルの枠組として非常に魅力的なモデルである。インフレーション 宇宙モデルの最も重要な特徴はインフラトンと呼ばれるスカラー場の真空のエネ ルギーが宇宙を支配して宇宙が指数関数的に膨張する時期(インフレーション)が あることである。そのためにはインフラトンのポテンシャルが非常に平坦である ことが必要とされ、インフレーション宇宙モデルはインフラトンのポテンシャル によって、ニュー・インフレーション、カオティック・インフレーション、ハイ ブリッド・インフレーションなどと分類される。

今回の講義ではビッグバン宇宙モデルにしたがって宇宙誕生後約1秒後から現在 に至る宇宙の進化、、標準的宇宙モデルの様々な問題点、インフレーション宇宙 モデルについて解説する。


講師: 鈴木 博氏(茨城大)
Title: カイラルなゲージ理論の正則化
Abstract:
要旨: 我々の現実の世界はゲージ相互作用するカイラルフェルミオンを 含む場の量子論によって記述されることが知られている。場の量子論は 無限の自由度に伴う発散を含むために、正則化と呼ばれる作業が 必要になるが、カイラルなフェルミオンの正則化はいわゆるゲージ アノマリーの存在と関係して自明ではない。この講義では、主に 連続理論の枠内で、アノマリーの簡単な解説からはじめて、 ゲージ共変な正則化とその応用、カイラルな超対称性理論への拡張など について議論したい。
内容:

Section 1  Introduction
              ・What is the chiral gauge theory?

Section 2  γ_5 and its pathology
              ・γ_5 in the dimensional regularization (DR)
              ・Vacuum polariation and the axial anomaly in DR
              ・Regularization independence of the axial anomaly
              ・Counterterm

Section 3  Gauge anomaly
              ・What is the gauge anomaly?
              ・Wess-Zumino consistency condition
              ・Consistent anomaly vs covariant anomaly

Section 4  Gauge covariant regularization
              ・Basic idea
              ・Applications including, consistent anomaly, η-invariant,
                  Chern-Simons form...

Section 5  Supersymmetric generalization
              ・Supersymmetry and superfield
              ・Applications of the covariant regularization

Section 6  Conclusion

講師: 川合 光氏(京都大)
Title: 弦理論の構成的定義
Abstract:
超弦理論はここ数年めざましく発展しており、いわゆる Theory of Everything になりうる可能性、すなわち、時空の次元をはじめ、ゲージ群、世代数、結合 定数など、すべての量が簡単な一つの基本原理から導かれる可能性がひろがっ てきた。しかしながら、現時点では理論はまだ完成したわけではなく、もう一 段階深い理解が必要と思われる。これは逆にいうと、あとほんの少し積み重ね れば、究極の原理に到達できるということであり、研究者にとって現在は非常 にエキサイティングな時期である。研究をはじめたばかり、あるいはこれから 勉強をはじめようという若手にとっても、このような時期に巡り合わせたこと は大変な幸運だと思う。講義では、超弦理論の本質を見極めることに重点をお き、数学的側面にとらわれて木をみて森をみないといったことにならないよう 留意したい。具体的には、次のような順に話を進め、理論を完成させるために は今後どういう具合に研究を進め、何をしていく必要があるのかがわかるよう につとめたいと思う。
(1)弦の摂動論とその限界
     世界面と摂動論的な弦の定式化
     摂動論の限界

(2)弦の非摂動効果
     D-brane、duality、M-theory、AdS-CFT対応など

(3)弦の構成的な定式化
     行列模型による弦理論の定式化
     行列模型のいいところ、わるいところ、今後の課題

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