理念・目的
–「量子と情報」が切り拓く、科学の新時代–
情報革命と社会発展
二十世紀は「情報」の重要性が認識され、社会があらゆる階層で大変革を遂げた時代でした。
過去四半世紀に起こった社会変革は、情報技術の急速な発展を抜きにしては語ることは出来ません。情報技術の進歩がこれからも社会発展の大きな推進力であり続けることは想像に難くありませんが、その一方で、現在の集積化技術は物理的限界を迎えつつあり、極めて近い将来、集積化に頼った技術発展は終焉を迎えると考えられています。
そのような時代においても情報化社会の発展を持続可能な形で推し進めていくためには、これまでとは全く異質なアプローチが必要不可欠です。
情報革命がもたらした科学の発展
一方で、情報技術の発展が引き起こした情報革命は、純粋科学そのものを変革しつつあります。
近年、多くの研究分野で「情報」というメタな視点から物事を理解する試みが活発化しており、情報という視点をマスターすることが、現代科学を次世代の科学へと昇華させるための重要なマイルストーンとなっています。
科学における新たなパラダイムをも切り拓かんとする「情報革命」、それがもたらす新世代科学はどこまで人類の知を高めることが出来るのでしょうか。
量子と情報がもたらす新パラダイムへ
このような社会的・純粋科学的状況を背景として、本ユニットでは、「量子と情報」をキーワードとした量子情報科学を中心に、次の社会変革に繋がる技術革新と、新たな科学の開拓を目指します。
量子情報科学とは
量子情報科学は、過去四半世紀に急速に発展した研究分野で、近代物理学の根幹を為す量子力学と、近代社会の発展の起爆剤となった情報科学が融合して生まれた学際的研究領域です。
量子情報科学の一義的な目標は、極限的状況下における物理現象を制御機能化することで究極の情報処理を実現することでしたが、分野が発展するに従い、「極限的状況下の自然現象」と「究極の情報処理」は切り離すことの出来ない表裏一体の関係にあることが判明しつつあります。
現在の量子情報科学の手法や考え方は広範囲に応用可能な高い普遍性を持つ形で定式化されており、新たな情報技術の開発のみならず、科学そのものをアップグレードすることが出来るポテンシャルを有するものです。事実、現在の量子情報科学の研究分野は、
- 理論物理学における「量子情報の集まりから宇宙が創成される」という新概念
- 複雑な量子多体現象を、物理系の「情報」に着目して明らかにしようと試みる新しいアプローチ
- 量子情報科学の定式化に潜む、深遠な純粋数学
- 量子情報という観点から挑む、情報科学の難問へのチャレンジ
- 化学における「従来手法では数値計算が難しかった化学反応を、量子計算技術を用いてシミュレートする研究」
- 近年の光量子技術や単一原子の制御技術の超高度化と、量子情報処理技術への応用
- その技術を社会実装に繋げる、大学発のベンチャービジネスの増加
など、極めて多様な展開を見せています。
新たな地平を切り開く量子情報
「量子力学」が「情報」という概念と結びつくことによって得られるであろう科学的発展は、既存の科学の枠組みを遥かに超越するものになりつつあります。 そのような「量子と情報」という新パラダイムが内包する「一歩進んだ知の探求」と「未踏の情報処理技術開発」というポテンシャルを探求することによって、高い普遍性と有用性を併せ持った次世代科学の創出を目指します。
実際に研究計画を遂行するにあたっては、光量子センシング研究拠点ユニットを初めとした量子技術関連の各部署とも連携を密にし、京都大学における研究リソースのネットワーク化および最大効率化も目指したいと考えています。
具体的に想定している研究課題の一例は以下の通りです。
【研究テーマ】
- 量子と情報
- 情報理論と量子
- 計算理論と量子
- 量子と深層学習
- 人工知能の未来
- 量子情報と物理
- 量子と古典の境界、量子論の古典化とは?
- ブラックホールと情報喪失問題
- 量子情報とゲージ重力対応
- 量子情報と熱力学
- 量子情報と化学
- 量子論と生物学
- 生命現象と量子
- 数学・数理科学と量子情報
- 量子論の数学的基礎
- ゲーム理論とその応用
- 量子技術のマーケティング戦略
- 量子情報技術の応用、実装、実現
- 大規模量子計算機の実現に向けた諸課題
- 量子センシング技術の実装
- 量子通信技術の実装
- 量子情報と社会
- 量子情報技術が社会に与える影響
- その他