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まれに見るバカ女との闘い 別冊宝島編集部編 宝島社 2005年6月初版 2021/12/27記

古本屋で見かけ思わず手に取ってしまった一冊。「知能の高いバカ」との聖戦とまえがきから火力が高く、聖域扱いされてきた女性著名人の妄言・無知蒙昧をさらに激しく一刀両断!加えて、オンナ=弱者と決めつけ、「セクハラだ!差別だ!人権侵害だ!」と叫ぶ、フェミニスト、ジェンダーフリー論者の暴論を粉砕!と裏表紙までその火力は衰えを見せない。そうするとその内容がいわゆる溜飲を下げるためだけの文章かと思いきや、その運動の位置づけを幅広い視点から捉えた見識や女性論者による冷静な分析も載せられ、それらがユーモア溢れる文章で綴られており、全体としてのバランスも考えられた一冊になっていると感じた。

武士道 -人に勝ち、自分に克つ強靭な精神力を鍛える- / 新渡戸稲造 奈良本辰也訳 / 三笠書房 2020/8/15

研究室の共用部屋に置いてあったので興味が湧いて読んでみた。「英文で書かれ欧米人に大反響を巻き起こした最高の名著」と巻末に書かれている通り「強靭な精神力を生んだ武士道の本質を見事に解き明かしている。」という印象を自分も持った。教わってもいないのに自分の生き方や考え方と似た部分があると感じたが、自分にもサムライの血が流れているのかしら。例えば「銭勘定ごとと算盤は徹底して忌み嫌っていた」というサムライの経済観はどこか通じるところがある。武士道を分析し武士道が人の道を照らし続けるとした 著者の新渡戸稲造が五千円札の肖像にされたのはサムライの心を忘れて銭を追い求めるなというサムライの末裔たるご先祖様からのメッセージなのかもしれない。

アイヒマン調書 -イスラエル警察尋問録音記録- / ヨッヘン・フォン・ラング編 小俣和一郎訳 / 岩波書店 (2019/10/15)

第二次大戦中のドイツの歴史書を読もうと探している最中に見つけ、目当てのドイツの歴史書には興味が持てず結局こちらの本を借りることになった。大戦中ナチが行ったユダヤ人絶滅計画においてアイヒマンが決定的な役割を果たしたことを明らかにした尋問調書にところどころ注釈がつけられている。尋問官のアヴネール・W・レスは自身の父親がその絶滅計画の犠牲者となった。人間を家畜のように殺していく計画が、「恐るべき怪物的な」人物や「他人が苦しむのを見て快楽を覚えるサディスト」ではなく、「死に追いやられる人間の苦痛に対し、何の感情も想像力も有してはいない」熱心かつ勤勉に働く有能な官僚を中心に立てられていた。出世や効率を極限まで追い求めた人間が他者の生の営みを蹂躙する現象はこのアイヒマンだけに限らず、日本を含む現代資本主義社会の病理である。本書のまえがきとあとがきはもはや私が要約できないほど内容が凝縮されており、本書を読んだことのない方はこの部分だけでも一読されることをお薦めする。

朝鮮紀行 英国婦人の見た李朝末期 / イザベラ・バード 時岡敬子訳 / 講談社学術文庫 (2019/10/6)

日清戦争前後に李氏朝鮮下の朝鮮半島を旅行した英国婦人イザベラ・バードの、旅行記も含んだ当時の朝鮮に関する事柄に関する詳細な記録。氏はこれ以前に日本も旅行し同様の記録を残している。朝鮮史をまとめる際には参考にしたい。

ギルガメシュ叙事詩 / 矢島文夫 / ちくま学芸文庫 (2019/8/29)

旧約聖書における大洪水と箱舟の物語の原型が含まれていることが判明したことについて、「...このような劇的なストーリーと同じものが一度は忘れられていた文字で書かれた遠古の書板から現われ出たということは驚くべきことと思われ、古代研究の意義を再認識させる。」と著者は述べており、強く同意される。

世界最古の物語 / Th・H・ガスター, 矢島文夫訳 / 平凡社 (2019/Sep/16)

ギルガメシュ叙事詩を始めとする西アジア(バビロニア、ハッティ(小アジア内陸部)、カナーン)に伝わる最も古いとされる物語が収録されている。上記の書ではギルガメシュ叙事詩そのものを読むには不便であるが、本書では行間が補われ読みやすくなっている。また収録されている解説では以降に作られた物語への影響について考察があり、例えばギルガメシュがウトナピシュティムから教えられた若返りの効果をもつ植物が蛇に食べられてしまった話は、アヴェスターに掲載されているイラン神話において、悪神アーリマンはヴォルカシャ湖の中の島に生える老衰を取り除き全てを若返らせる力をもつ植物ハオマを食べる蛇(トカゲ)を創造している話の基になっていると指摘している。

イスラム教の論理 / 飯山陽 / 新潮新書 (2018/9/8記)

イスラム教のもつ、民主主義とは相容れない側面、危険な教義、論理にも踏み込んで解説が加えられており、一般的なイスラム解説書を補完する内容になっている。イスラム教にまつわる世界の最新の動向が解説されており、特になぜイスラムテロがなくならないかについて解説が与えられている。

歴史とはなにか / 岡田英弘 / 文春新書(文藝春秋) (2017/5/28)

歴史とはなにか、良い歴史書とはどういうものか、などに関する著者自身の研究や見識を踏まえた論考。インターネットのとあるtwitterアカウントで薦められていたので読んでみたが、大変勉強になり読んで良かった。歴史という学問において前提とされる、押さえておくべき基本的な内容が書かれている。概要を歴史のページにまとめておいた。(著者は私が本書を図書館で借りた翌日に他界された。ご冥福をお祈りする。)

日本人はなぜ日本のことを知らないのか / 竹田恒泰 / PHP新書 (2017/5/26)

インターネットのとあるブログで見かけたことから興味が湧いて読んでみた。上記の『歴史とはなにか』における著作態度とは異なり、著者が日本にもつ愛国心を全面に押し出した書。学術書ではないため、著者の主張をサポートするためにところどころ飛躍や誇張が見受けられる。

著者によれば、日本は「世界で最古の国家」であり、日本人が誇るべき点であるとする(しかし、上記の書によれば「国家」という概念は19世紀以降の概念のようである)。特徴的と思われる主張が、日本書記を、欧米社会のキリスト教やイスラム社会のコーランのような宗教と同じ位置づけで扱うべきである、という点である。

本書は上述の『歴史とはなにか』とたまたま一緒に借りたのだが、それが良かったように思う。その理由は、本書において著者も書いているように、読者が愛国心や天皇家を敬う心をもつよう誘導する意図があるためである。実際このような歴史書は上述の『歴史とはなにか』において示唆されている「よい歴史書」の条件を満たしていない。

本書がよい歴史書かどうかの判断とは別に、本書を読んでいて素朴な疑問が湧いたきたのだが、それは「どうしてこうも愛国心を強要する/できるのだろう」ということであった。自分は他の人に対して何かを愛すべきであるという考えを一度ももったことがないので、どうして著者がこんな風に他人に愛国心を強要できるのか本書を読んでいる途中でとても不思議に感じた。それで読み進めていくうちに「著者は支配階級の出身、もしくは家柄なのではないか」と思いついたのだが、この推測は正しく著者は旧皇族の生まれで明治天皇の玄孫にあたるということであった。このことは裏を返せば私が被支配階級の出身、もしくは家柄であるということを示唆している。反発を覚えたかどうかはよく覚えていないが、仮に反発を覚えるとすれば、無意識的に支配・被支配の関係を感じ取っているからなのかもしれない。