プログラム


8月1日(水)
13:00-14:00 佐野 雅己 Active Colloids: Non-equilibrium dynamics and Fluctuation
14:10-15:10 前多 裕介 複雑流体における非平衡輸送現象:分子から細胞集団へ
15:10-15:30 Coffee break
15:30-17:30 ショートトーク+ポスター発表
17:30-18:30 石川拓司 微生物の集団遊泳と懸濁液内の輸送現象

8月2日(木)
9:00-10:00 国広 悌二 くり込み群法の基礎とその非平衡物理への応用
10:10-12:10 ショートトーク+ポスター発表
12:10-14:00 昼食
14:00-16:00 ショートトーク+ポスター発表
16:00-17:00 関本謙 Momentum transfer in nonequilibrium steady states
17:00-17:30 Coffee break
17:30-18:30 宮崎州正 ガラス転移とジャミング転移の統一的理解
19:00-21:00 懇談会 @北部生協2階「喫茶ほくと」

8月3日(金)
9:00-10:00 齊藤英治 スピンゼーベック効果
10:10-12:10 ショートトーク+ポスター発表
12:10-14:00 昼食
14:00-16:00 ショートトーク+ポスター発表
16:00-17:00 中村泰信 超伝導量子回路における開放量子系の制御
17:00-17:30 Coffee break
17:30-18:30 加藤雄介 超流動の安定性と分岐理論

8月4日(土)
9:00-10:00 木下俊哉 非平衡1次元ボース気体
10:10-12:10 ショートトーク+ポスター発表
12:10-14:00 昼食
14:00-16:00 ショートトーク+ポスター発表
16:00-17:00 出口哲生 可解量子多体系の相関関数や形状因子と非平衡量子ダイナミクス:1次元ボース気体の量子ソリトン状態

ショートトーク+ポスター発表のプログラムはこちら (PDF) ※ポスター番号が、日付・am/pm・ショートトーク発表順を表しています。
※ポスター番号に欠番がありますが、ミスではありません。



招待講演アブストラクト

佐野 雅己 Active Colloids: Non-equilibrium dynamics and Fluctuation

非平衡のゆらぎやダイナミクスを調べる上で、コロイド粒子やMacromoleculeは、格好の実験系となっている。本発表では、コロイド粒子に非対称性を導入したJanus粒子を用いて、一様な電場や光照射の下で、自ら向きを持って運動する自己駆動粒子系における特異な現象について報告する。このような小さな自己駆動系は、熱ゆらぎにさらされながら運動するため、拡散やゆらぎに特異性が現れるほか、粒子どうしが相互作用する場合、興味深い非線形ダイナミクスや集団運動を呈する場合があるが、詳しいメカニズムは未解明の点も多い。講演ではそれらについても議論する。


前多 裕介 複雑流体における非平衡輸送現象:分子から細胞集団へ

カルノーは温度に差がある2つの熱源による熱サイクルを提唱し、熱力学の誕生そして産業革命に導いた。熱サイクルとは異なるものの、温度勾配のある系では同様に魅力的な物理現象がみられる。本講演では、定常的な温度勾配の下で分子が勾配に沿って輸送される非平衡輸送現象に焦点をあてる。
コロイド粒子が分散する高分子ポリマー溶液中に温度勾配を形成すると、ソーレ効果(熱泳動)により高分子ポリマーの濃度勾配ができ、熱泳動に拮抗するエントロピー力が生じることが知られている。我々はこの力にサイズ依存性があることを見出し、DNAやコロイドを大きさによって選別するThermal separation熱分離が実現することを示した。本講演ではその詳細を説明すると共に、巨大DNAでは構造相転移と相関してソーレ係数が変化すること、小さなRNAでは高次構造によって輸送の方向が反転し分子構造と輸送が動的に結合することを報告する。
また、温度勾配による受動的な分子輸送に対し、細胞は鞭毛などの駆動系を備え、自発的かつ能動的に動く自己推進粒子といえる。さらに多くの細胞は外部からの刺激を検知するセンサーを持ち、温度勾配にさらされると一方向的な走性を示す運動をとることが知られている。細胞運動を外場により制御することは、近年の生命科学における重要課題の1つである。本講演では輸送現象を利用したバクテリアEscherichia coliの走性および集団運動の制御についても合わせて紹介する。


石川 拓司 微生物の集団遊泳と懸濁液内の輸送現象

遊泳微生物を含む懸濁液は生物圏に広く存在しており、工学的にもバイオリアクターとして利用されている。我々の腸内にも約1kgのバクテリアがいることが知られており、免疫系や健康問題と密接に関わっている。こうした微生物に関する研究は長い歴史があるものの、物理学・力学的視点からの研究はまだ緒に就いたばかりである。微生物は集団を成すと、協調運動を示すことが知られている。例えばバクテリアの場合には、協調運動によりメゾスケールの流動構造を誘起し、溶液内の物質輸送を飛躍的に増大させる。こうした微生物の集団遊泳は物理学による説明が可能であり、我々はこれまでに微生物の2体干渉、多体干渉、懸濁液のマクロな特性を解明してきた。本講演では、微生物の集団遊泳のダイナミクスや、微生物懸濁液内の輸送現象を解説する。


国広 悌二 くり込み群法の基礎とその非平衡物理への応用

力学系の縮約法としての、いわゆる「くりこみ群法」の基礎とその応用として非平衡問題に現れる方程式の縮約法の実際を紹介する。


関本 謙 Momentum transfer in nonequilibrium steady states

When a Brownian object interacts with noninteracting gas particles under nonequilibrium conditions, energy dissipation associated with Brownian motion causes an additional force on the object as a "momentum transfer deficit". This principle is demonstrated first by a new nonequilibrium steady state model and then applied to several known models such as an adiabatic piston for which a simple explanation has been lacking. (ref. PRL 108, 160601, 2012)


宮崎 州正 ガラス転移とジャミング転移の統一的理解

ガラス転移とは、過冷却液体が高い密度で(または低い温度で)固化する現象である。より正確には、液体中の分子がランダムな配置を保ったままその運動が劇的に遅くなる現象である。一方、ジャミング転移とは、粉体が高い密度で固化する現象である。この二つの転移はともにランダムな粒子配置と、粘性の発散(つまり動かなくなること)が特徴であるが、その関係はよくわかっていない。数年前まで、ジャミング転移はガラス転移の温度ゼロの極限であるという考え方が支配的であったが、実際にはそんな単純なものではないことが最近わかってきた。本講演ではガラス転移とジャミング転移を統一的に理解するための理論の枠組みと、数値実験の我々の成果をわかりやすく紹介する予定である。


齊藤 英治 スピンゼーベック効果

Utilization of a spin current, a flow of electrons' spins in a solid, is the key technology in spintronics that will allow the achievement of efficient magnetic memories and computing devices. In this technology, generation and detection of spin currents are necessary. Here, we review inverse spin-Hall effect and spin-current-generation phenomena recently discovered both in metals and insulators: inverse spin-Hall effect, spin pumping, and spin Seebeck effect.
Spin Seebeck effect
We have observed, by using the inverse spin-Hall effect [1], spin voltage generation from a heat current in a NiFe, named the spin-Seebeck effect [2]. Surprisingly, spin-Seebeck effect was found to appear even in insulators [3], a situation completely different from conventional charge Seebeck effect. The result implies an important role of elementary excitation in solids beside charge in the spin Seebeck effect. In the talk, we review the recent progress of the research on this effect.
This research is collaboration with K. Ando, K. Uchida, Y. Kajiwara, S. Maekawa, G. E. W. Bauer, S. Takahashi, and J. Ieda.
REFERENCES
[1] E. Saitoh et al., Appl. Phys. Lett. 88 (2006) 182509.
[2] K. Uchida & E. Saitoh et al., Nature 455 (2008)778.
[3] K. Uchida & E. Saitoh et al.,Nature materials 9 (2010) 894 - 897.


中村 泰信 超伝導量子回路における開放量子系の制御

超伝導電気回路を用いて,マイクロ波のエネルギースケールを持つ多彩な人工量子系を設計・製作し,その量子状態を制御・観測することが可能になっている.有効少数準位系としての量子ビットあるいは人工原子,調和振動子としての共振器,1次元電磁場モードとしてのマイクロ波伝送線路などがその構成要素である.これらを組み合わせた系を用いて,環境と相互作用しかつ外場により駆動される多彩な非平衡開放量子系を実現することができる.この観点からいくつかの実験例を紹介する.


加藤 雄介 超流動の安定性と分岐理論

超流動は、超伝導ともに以前からよく知られている量子現象である。ともにエネルギー散逸を伴わないため、巨視的な流れを平衡統計力学で扱えるという特徴を有している。超流動性を有するための条件は何か? ボース・アインシュタイン凝縮(BEC)だけでは超流動となり得ないのは、理想ボース気体の反例を挙げればわかる。BECと密度の固さ(ゆらぎの小ささ、あるいは有限の圧縮率)が超流動性をもたらす条件であると書かれた文献が出たのは比較的最近(Bloch et al . 2008)のことである。超流動が不安定化するメカニズムにはいくつかのものがあり, ランダウ不安定性(素励起のスペクトルの不安定化)やファインマンによる渦生成の理論がよく知られている. 流れによって駆動される超流動・非超流動転移その転移の様子を調べることは非線型科学の観点からもグロス・ピタエフスキー方程式の解析に基づき、渦やソリトンの生成をともなう超流動不安定性がサドルノード分岐として同定されている。われわれは動的な密度揺らぎに着目することにより、ランダウ不安定性とサドルノード分岐という二つの超流動不安定化を統一的に記述することが出来ることを示し、超流動安定性の新たな判定法として提案している(Kato-Watabe 2010)。本発表では、流れによって駆動される超流動・非超流動転移に分岐理論がどう絡んでくるか、普通の相転移とどう異なるかについて議論したい。


木下 俊哉 非平衡1次元ボース気体

レーザー光の定在波の節などに冷却原子気体を規則的に配列した光格子によって生成された低次元系、特に1次元ボース気体を中心に解説する。1次元ボース気体では、相互作用が弱い擬凝縮状態から、強く相互作用する極限ではフェルミオン化したボゾン(Tonks-Girardeau ガス)へと移行することが厳密解とともに知られている。一方、この1次元系は、熱平衡状態に近づかないなど可積分性を保持しているが、可積分性を崩す制御可能な擾乱を印加することで、非平衡過程そのものを制御する道 が開けてくる。1次元ガスの生成法、原子間相互作用の制御による弱相関から強相関系への移行、そして遠く非平衡状態に置かれた1次元気体のその後の過程と非線形項やトンネリング印可による熱平衡化の実験を述べ、統計物理学の基礎原理や数理物理学上の重要な理論モデルを実際の量子多体系で検証しようとする実験なども紹介する。


出口 哲生 可解量子多体系の相関関数や形状因子と非平衡量子ダイナミクス:1次元ボース気体の量子ソリトン状態

可積分系の相関関数や形状因子を解析的に導出する手法は次第に発展しつつある。例えば量子XXZ鎖において、代数的なベーテ仮設法を用いて相関関数の多重積分表示を解析的に導出する方法が発展し、相関関数の長距離漸近極限がほぼ厳密に導かれた。この結果は共形場理論を仮定して導かれた漸近展開を再現し、さらに詳細な情報を含む。その一方、非平衡系など従来は考えられていなかった興味深い物理系への応用が、最近大きく注目されている。例えば、量子クウェンチに関するプレプリントは最近で は毎月のように非常に多数出されている。実際、ラッティンジャー流体や近藤問題など、相互作用が重要な物理系の例が凝縮系物理において長年研究されてきたが、冷却原子系などの最近の実験手法の発展により、相互作用する1次元可積分量子系が実現されると考えられる。よって、今後の実験と理論の相互交流はとても興味深い。さらに、量子統計力学の基礎も最近深められた。孤立した量子系であっても時間発展で次第に平衡状態へ緩和することが最近明らかにされた。孤立量子系の緩和過程の統計力学的な基礎も説明され、その研究の流れの中で、歴史的には興味深いことに、von Neumann の量子力学的なエルゴ―ド定理が再発見された。そして、これらの量子統計力学の最新の基礎的視点は、可積分量子系の量子ダイナミクスの振る舞いを物理的に理解する上で重要である。
本講演では最初に、可積分量子系の計算の要となる形状因子のSlavnov 公式の解説を一つのポイントとして、数理物理の最近25年間の展開をレビューする。リヨン学派による量子逆散乱法を応用した解析なども解説する。そして、最近の可解量子ダイナミクス研究の一例として、1次元ボース気体の量子ソリトン状態の構成方法に関して報告する。(J. Sato, R. Kanamoto, E. Kaminishi, and T.Deguchi, Exact Relaxation Dynamics of a Localized Many-Body State in the 1D Bose Gas, Phys. Rev. Lett.Vol. 108, 110401 (2012). )