設置目的と研究内容

レーザー干渉計型地上重力波検出器の開発が世界数カ国で進み、2015年ごろから次世代の検出器、advanced LIGO、advanced VIRGO、KAGRA、などが順次稼動開始を予定している。日本でも、独自の検出器KAGRAが2017年頃から本格稼動開始予定である。これらの重力波望遠鏡が予定感度で観測を始めれば、ブラックホールや中性子星からなる連星の合体が、年間10イベント程度観測されるようになり、重力波天文学・重力波物理学が新しい学問として創生される。そして、重力波の初の直接検出のみならず、これまで知ることができなかったブラックホール誕生の瞬間のような一般相対論的動的現象の解明が進むと考えられる。さらに、重力波望遠鏡は、高エネルギー天文学にも大きなインパクトを与えると期待される。仮に近傍で超新星爆発やγ線バーストが起これば、それらに付随する重力波が検出され、未だにメカニズムが解明されていないこれらの爆発現象の理解に大きなヒントが得られると予想されるからである。特に、未だに起源が明らかではないγ線バーストの正体が解明されることが強く期待されている。さらに、強い重力場中での一般相対論の検証という物理の基礎を検証するという役割も担うものである。

重力波観測においては、検出器の開発研究だけではなく、理論研究とデータ解析研究が重要な役割を果たす。言うまでもなく、あらゆる観測・実験研究がこれらを必要とするが、重力波観測実験には独特の側面がある。それは期待される重力波信号の振幅が、検出器雑音の高々10倍程度であり、雑音の中から重力波信号を確実に取り出すためにはあらかじめ精度の高い理論波形を予測することが不可欠なこと、理論波形を有効活用することにより検出効率を可能な限り高くするようなデータ解析手法の開発が不可欠なこと、である。さらには、取り出した信号から物理的情報を引き出さなくてはならない。これには、各々の重力波源に適したデータ解析法が必要になり、新しい手法の探求が急務となっている。

さらには、重力波以外の宇宙観測手段による同時観測などの協働的な研究も欠かせない。なぜならば、重力波源に対応する天体を電磁波あるいはニュートリノを用いて観測できれば、重力波の検出を確信する上で飛躍的に信頼度が増すからである。さらには、重力波源の正体解明というメリットまである。対応天体を観測するには、なによりもまず、理論的に予想される信号を明らかにする必要がある。さらにその情報を観測者へと発信して行き、必要となる装置の開発および観測計画の立案を促す必要がある。

以上まとめると、重力波観測が実現すれば、新たな天文学・物理学が始まることは間違いないが、その確立のためには、重力波実験研究者、データ解析研究者、天文観測研究者、および理論研究者の協働は不可欠である。来たる重力波検出装置の稼動後、KAGRAを中心とした日本の研究者集団から重要な成果を発信していくためには、これらの研究者の連携強化が必要不可欠な課題となっている。本研究センターは、このような課題に対して理論物理学者集団として貢献し、日本において中心的役割を担うことを目的としている。

研究分野

重力理論研究分野
一般相対論はこれまでにその破れが全く見つかっていない非常に成功した古典重力理論である。しかしながら、これまでの一般相対論の検証は、連星パルサーや太陽系内での重力の精密測定によって行われており、弱い重力の近似で現れうる一般相対論からの補正をパラメータ化して制限をつけるという形で進められてきた。重力波観測が始まると、中性子星やブラックホールの近傍のように強い重力場を伴う物体から放射される重力波を用いて一般相対論の検証が行われるようになり、その結果より強い制限を課すことができると期待できる。運が良ければ、一般相対論の破れが検証されるかもしれない。そこで本分野では、新たな重力理論に基づいた重力波源からの重力波の放射過程の研究を進め、重力波の波形にどのような特徴が反映されるのか調べることを目的とする。
重力波源理論分野
最も有望な重力波源とされる、連星中性子星、ブラックホール・中性子星連星、連星ブラックホールの合体などに対して、主に数値相対論的な手法により、アインシュタイン方程式、磁気流体方程式、輻射流体方程式などを解きながら、重力波の波形および電磁波などの放射量を求めことを第一の目的としている。さらに、重力波望遠鏡の成果を最大にするには、これら以外の重力波源を宇宙論・天体物理学の知識を総動員して考察し、調べ、予測される重力波の波形を求めていかなくてはならない。本分野の第二の目的は、想定されるあらゆる重力波源について詳しく調べ、データ解析に利用できるレベルの波形予測を行うことである。
高密度核物質研究分野(予定)
重力波検出器の最も有望な重力波源は、連星中性子星やブラックホール・中性子星連星のような中性子星を含む連星の合体である。これらの連星の合体直前直後に放射される重力波には、中性子星の内部情報や中性子星の半径が強く反映されると予想されている。よって、重力波観測を用いて中性子星や高密度核物質の性質が探査可能になると期待される。これに備えるには、理論的に実現可能なさまざまな状態方程式を理解し、また各々の状態方程式モデルの情報が如何に重力波の波形に反映されるのか、あらかじめ理解しておかなくてはならない。本分野の目的は、状態方程式の研究を進めると同時に、重力波天文学との協働を進めることである。
データ解析分野(予定)
重力波観測においては、期待される重力波信号の振幅が検出器雑音の高々10倍程度であり、雑音の中から重力波信号を確実に取り出すには理論波形を有効活用したデータ解析手法の開発が不可欠である。さらには、取り出した信号から物理的情報を抽出するためには、重力波源ごとに適したデータ解析法が必要となる。本分野ではこのようなデータ解析手法を開発し、さらにデータ解析コードを構築することを目的とする。
計算物理学分野(予定)
重力波の理論的研究には、数値相対論的なシミュレーションが欠かせない。また状態方程式を理論的に導出するには、原子核理論や格子QCDが重要な役割を果たす。計算物理学は、重力波のデータ解析においても中心的な役割を果たす。本分野の役割は、大型計算機を必要とする物理学分野の推進をサポートすることである。
電磁波対応天体分野(予定)
有望とされる重力波源からは、電磁波やニュートリノが放射されると考えられる。これらの対応電磁波あるいはニュートリノが、重力波と同時観測できれば、重力波検出を確信する上で飛躍的に信頼度が増し、さらには重力波源の特徴を理解する上で大きな手がかりを与える。例えば、ガンマ線バーストのような現象が重力波源の対応現象として同定されるかもしれないが、そのような同定には他の観測手段との協働が欠かせない。それにはまず、理論的に予想される電磁波やニュートリノの信号を明らかにする必要がある。本分野の目的は、重力波以外の観測可能信号を予想し、さらには国内の観測研究者と連携で、それらの信号の観測を目指すことである。

活動関連予算

科研費基盤研究A「宇宙論的非線形・非摂動重力現象の研究」
代表:佐々木 節平成21年度-25年度
科研費新学術領域研究「重力波天体の多様な観測による宇宙物理学の新展開」
代表:中村 卓史平成24年度-28年度
科研費基盤研究A「数値相対論による重力波源の研究」
代表:柴田 大平成24年度-27年度
科研費新学術領域研究計画研究「重力波天体の多様な観測に向けた理論的研究」
代表:田中 貴浩平成24年度-28年度
HPCI戦略プログラム分野5の研究開発課題(統括責任者:青木慎也)「超新星爆発およびブラックホール誕生過程の解明」
代表:柴田 大平成23年度-27年度
宇宙論的高次摂動論の理論的基礎の構築
代表:田中 貴浩平成26年度-29年度