第4回研究会簡単な報告(2007年2月12日)



坂東昌子

「女性研究者のリーダーシップ研究会」代表


■まえがき


今回も、色々と新しい知見を得ることができました。 「ロボット」というイメージから始まった、大武さんの話で、「ロボットときくと、すごく 有能な切れものっていう感じ、冷たいイメージだと思われますが・・・」と口を切られたとたん、「え?ロボットって、決められたことしかできないイメージがあるけど・・・」という声が上がり、ロボット談義に花が咲きました。 しかし、硬くて冷たいイメージをもつのは、日本人ではないようです。鉄腕アトムや どらえもん、といった心の温かいそして人間味のあるロボットをすぐ日本人は思い浮かべます。 だからこそ、2足歩行に取り組んだり、人間らしいやさしさを追及するといったロボット文化が育ったのではないでしょうか。 今回講演いただいた、お二人とも、そういうソフトでやさしいロボットを追求しておられるという意味では、とても、感銘を受けました。

■大武さんの話
大武さんは、人間のコミュニケーションが、脳の活性化にどういう影響を与えるかの研究を立ち上げられ、研究所のある柏市役所に自ら働きかけ、老人ホームでの研究をする中で、 「老人」というものの見方が、自分の中で変革してきた経緯なども、話してくださいました。 そういうのをきいておりますと、こういう新しい方法論を自ら開拓しながら、既成の学問分野を超えて、どんどんと挑戦する若い女性研究者の、すばらしい姿を見ることができます。どうして、そんな風に、次々と新しい提案ができ、そしてそれを、実際に推進していけるのか、と思いました。
そして、今まで否定的に見てきた、任期つきポストや、新しいプロジェクトにむけて、 ポスドクが増えたことも、こういう形で、新しい試みができる機会も生み出したのか、 こういう可能性も秘めているのか! とちょっと新しい面を見直しました。
従来の東大では、女性がポストに付くことは、なかなか大変でしたが、 任期つきならば女性が雇われるチャンスが増えるということ自体は、 それ自身問題があるという 気がしないでもありません。しかし、そのポストに付いた 女性たちが、創造性を発揮し、今まで考え付かなかったような目標と方法で、 プロジェクトを提案し、前進しているとしたら・・・、それは面白いことですね。
そういえば、思い出すのが、中西 準子先生(なかにし じゅんこ、1938年 - )です。 現在は、産業技術総合研究所・化学物質リスク管理研究センター長で、ご専門は環境工学(環境リスク学)です。先生は、実は大学院でのご専門は化学です。しかし、女性がポストにつけるのは、今よりもっと困難な時代だったのですが、次のような文章があります。
  詳しくは、中西準子さんのインタビュー記事 ■中西準子  をご覧下さい。面白いですよ!   

 中西 昭和42年に応用化学でドクターを取ったのですが、化学工業全盛の時代で、応用化学専攻は引く手あまたの時代だったんです。

しかし、女の博士は困る、というので就職先が無かったんです。男ならどんなにいいだろうと、色んなところで言われました。後で調べてみますと、東大の歴史上で、女で工学博士を取ったのは10番目以内なんです。東大以外で女性の工学博士がそれほどいたとは思えませんので、日本全体でみても1213番目くらいになるのかなと思います。

 それくらい工学部の女というのは少ない時代ですから、女の工学博士が来られては困るということで、企業なども、顧問ならいいとか、嘱託ならいいとか、給料はいくらでも出すから普通の職員と同じでは困る、というわけです。

普通の職員だと女の人は給与が頭打ちになる、頭打ちになったころに私が入って給与を上げられると会社がつぶれる、ということです。ともかく、あなただけに沢山給与をあげるのはかまわないけれど、それにつられて女性の給与が皆高くなると、会社がつぶれてしまうので特別待遇なら出来ると、幾つかの企業から言われました。特別待遇は嫌だったので断りましたら、就職先が無いわけです。

高等学校の時間講師というのがあって、そこも受けに行きました。それも、卒業年次の2月くらいだったと思います。そしたら、あなたのような経歴の人がこういう職を求めるのは、よっぽど悪いことをしたのか、と言われるわけです(笑)。立つ瀬なしというか。

─── 先生は、東大の都市工学の助手を随分長い間なさっていたと伺ってます。

 中西 そうなんです。就職先が見つからなかった時に、同じ東大工学部の中に、都市工学という割合出来たばかりの学科があったのですが、そこの助手のポストが一つ空いているからやってみないかと言われたんですね。都市工学というのは、土木工学なんです。私は化学ですから、土木とは大違いなんですが、本を23冊貰って帰って読んだらすごく面白かったわけです。


で、ここで私が言いたいのは、当時、新しく発足した環境関連の講座だからこそ、「女」でも ポストがとれたのだ、伝統的な沢山の弟子のいる講座のボスへの道は とても無理だった、ということを言いたいのです。つまり、「環境という新しい部門ならポストがある」ということです。学問が広がり、マイノリティでも、なんとかポストにつけるのは、実は1つのチャンスかもしれないということを、ちょっと、コメントしたかったのです。 大武さんが、さわやかに屈託なく、このような草分けの道を歩んでいらっしゃるのが、とても 興味深かったのです。もっとも、宇野さんも、介護が必要な高齢者女性や,痴呆(ちほう)症の高齢者女性お化粧が効果的という測定をさっれたことがあります。 そんな話も出てきながら、色々と議論が弾みました。宇野さんや筧さんの 感想ものせておきました。

■高橋さんの話

高橋さんのお話は、これと又一味違って、またまた、冒険物語でした。文系の大学をでた 高橋さんが、自分に思うような就職にめぐり合わず、もう一度挑戦して、 センター試験から初めて、工学部に入学し、好きだったロボット作りはじめ多という経歴の持ち主です。 京大工学部学部生に時代に、作品ができ上がり、京大インキュベーションセンター、 知財本部に相談に行って、試作品の特許をとったのだそうです。
  なんと、高橋さんの二足歩行のロボットの試みと成功は、 有名なアシモより前だったということです。 高橋さんの作られたクロというロボットをみせてくださり、後からそれと対比す形で、 女性のロボットを作られたということで、それも見せてくださいました。寝てるところから、 起き上がり、歩き出して、スケーターのように両手を広げて、 片足を後ろに伸ばして、あげる動作が終わると、お辞儀をしたり手を振ったりします。 こういうロボットは売り物だそうで、1人(?というべきですかね?)につき、40万円ぐらいするんだそうですが、買う人がいるんだそうです。 ロボットの見た目も大切なアートの一部だという 再認識をしました。 こんなショーを見せていただき、本当に感謝です。

■あとがき

リーダーシップ研究会も第4回となりました。 京都大学での2回目までは、京都大学の行事と重なり、あまりお見えになれなかったのか、 とも思っておりましたが、今回は、テーマも斬新で、とても魅力的なので、 もっと沢山に違いないと、机の配置を大きくしておりましたが、実際には、 3回目より少なくて、せっかくお招きした講師の方には、申し訳ないことでした。 しかし、常連の、筧久美子さん、宇野賀津子さん、それに今まで出たいと思っていたのに重なって出れなかった野口順子さんが姪のかた(お名前を教えてくださいね)も出席くださいました。若い頃のチャーミングな野口さんに似ておられる生物学を専攻の大学生 (いえいえ、決して今チャーミングでないというわけではありませんが・・・!)さんです。それに加えて、もちろん、功刀由紀子さんも含めて、活発な議論が交わされ、とても充実した研究会となりました。

■リーダーシップの本当の意味

   大武さんは、「リーダーシップというのは、沢山の子分を引き連れたボスのイメージで はなく、まだ少数でも、時代の先を読み、新しい道を切り開く、そういう開拓者の 精神のことを意味していたのですね」といってくださったのが、とても共感できて、「あ、やっぱりわかってくださる方がいるのだ!」とうれしくなりました。毎回、少しずつ、新しいメンバーもいらっしゃるので、 どうか仲間を誘ってお出かけ下さい。せっかく良いお話、もたいないですものね!  

■坂東補足
なお、私は今、ちょっとした詳論を書いていますが、タイトルは「少数派から多数派へ」です。これは、実は湯川先生が、「少数派から多数派へ」ということをおっしゃったという話 に関係しています。これについては、2006年11月に開かれた基礎物理学研究所の「湯川朝永学問の系譜」研究会でも、言及されておりました。 また、このあいだ2007年1月23日に行われた「湯川朝永記念講演会」 で、野依良治理化学研究所理事長が、「湯川先生に憧れて」というタイトルでお話された中にも、そういう話が出てきました。これに勇気付けられた話は又別のところでいたします。

■大武さんからのお便りより
大武さんからうれしいコメントがありました。 「今回、研究会に誘っていただき、 少数でも最高級の先生方とディスカッションする機会を頂いたことは、 とても励みになりました。本当にありがとうございます。 私もいろいろ研究会を開いていますが、 時期的な問題などで、いつもたくさん集まるとは限らないので、 参加者の多寡は全く気にしていません。 「少数派から多数派へ」という考え方を実現する手法を 坂東様、そして皆様から学び、共に作り出すことができればと思います。 今後ともどうぞよろしくお願いします。」 人数は少なかったけど、ほんとに、学ぶことの多い研究会です。 大武さん、ありがとうございました!
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