子どもの安全な居場所づくり・・・囲い込み型から拠点型へ



小伊藤亜希子(大阪市立大学)

これは、「あすか」というニュースレターへ書いた原稿です。
 学童保育所の話が沢山出たので、参考のために掲載許可を得て、ここに再録しました。


■校則破り?


子どもが巻き込まれる犯罪事件が相次ぐ中、我が子の通う小学校のお便りにも安全対策に関する記事が目立つようになった。防犯カメラを設置、防犯のため正門を閉じることにした、登下校時の子ども見守り隊発足。また子どもに対する指導も多い。登下校は通学路を通りまっすぐ家に帰ること、出かける時は,行き先・友達の名前・帰る時刻を,お家の人に知らせてから出かけること、子どもだけでスーパーなどのにぎやかなところへ行かない、遅くても5時にはお家に帰りましょうなどなど。ところがうちの息子(6年生)にはなかなかこれが守れない。共働きの我が家では親が帰宅するのは早くて6:30、同じような状況の家庭も多いので、そのころまで息子は友達と遊び回っているし、出かけるときに行き先を告げようにも親は家にいないわけである。また我が家の住む団地の目の前には大型スーパーがあり、いつかは、ファーストフード店が並ぶ休憩コーナーで100円のマクドナルドのポテトを友達と分け合いながら宿題をしたことが発覚して父親にひどく叱られた。先日は、一つ年上の子どもも含めて自転車暴走族となった十数人の集団で、かなり離れた大型公園まで遊びに行ったようである。そしてよその小学生集団とトランポリンの争奪戦(飛び跳ねながら体当たりをするらしい)をしてついに勝ったと誇らしげに報告してくれた。確か子どもだけで校区を出てはいけないはず・・と一応注意するがあまり言葉に力が入らないのは、そうやって少し羽目を外しながらも元気に友達と遊び回っている息子が頼もしく思えるからかもしれない。一方で、もし犯罪に巻き込まれたら、もし交通事故にあったら、と思うとやっぱりぞっとする。多くの親たちも同じような気持ちではないだろうか。


■親の規制


数年前に大阪都心部の小学生を対象に、子どもの放課後の遊びの調査をした。やはり戸外で友達とたくさん遊んでいる子は本当に少なかった。その要因として、よく言われる時間、空間、仲間の3つの「間」の不足に加えて、親が子どもの行動をかなり規制していることがあった。子どもの地域での行動を何らかの形で制限している家庭は9割近く、遊んでいいのは公園だけ、友達の家だけ、出かける前に決めた場所から移動しない、また道草をしないと約束させている家庭も多い。こうした制限をする親の気持ちはとてもよく分かる。しかし、本来子どもたちは、友達の家から別の友達をさそって公園へ、公園で汗をかいたら駄菓子屋へと地域をあちらこちらと移動し、地域の大人たちとも接触しながら動き回ることで、豊かな遊び体験ができるはずである。『子どもの道くさ』(居住福祉ブックレット)の中で水月昭道さんは、「子どものために必要と考えられた安全確保の動きによって、逆に、子どもの健全な発達に貢献するはずの機会が失われていくとしたら、それはなんと皮肉なことなのであろうか。」と述べておられるが、まったく同感である。


■囲い込み型子どもの居場所


しかしながら共働き家庭にとって、親が見守ることの出来ない子どもの放課後は大変不安である。学童保育(放課後児童健全育成事業)は97年に児童福祉法に位置づけられて以降、大規模化などの問題をかかえながらも急速に整備が進んでおり、共働き家庭の子ども達の放課後・長期休暇中の貴重な居場所になっている。しかし、安全確保や大規模化などを背景に、集団でのお出かけ以外には帰るまでそこから出てはいけないというのが普通である。しかも最近では親の労働条件に合わせて保育時間も長くなり、6時7時までの保育時間を設定しているところが増えている。これでは学童保育に通う子ども達は、学童保育以外の子どもと遊ぶ機会も地域で遊ぶ機会もまったくないということになる。  また最近では、親が家にいる家庭でも子どもが安全に遊べる場所が求められていることを背景に、すべての子どもを対象にした全児童対策を進める自治体が出てきている。今年5月には「放課後子どもプラン」と称して厚生労働省と文部科学省が連携して学童保育事業を全児童対策事業に一元化する方向が打ち出され、その基本方向として可能な限りの小学校内での実施が謳われている。確かに小学校内にいれば安全には違いないだろうが、なんだか全ての子どもを学校が終わってからも親が迎えにくるまでずっと小学校の中に囲い込み、これまた地域で遊ぶ機会を奪うことにならないかと心配になる。 地域学童の魅力  それに対して近年数は減ってきているものの、地域学童と呼ばれる民家等を使った小規模学童保育所がある。例えば大阪市では、小学校での全児童対策事業を全面展開しており、純粋な学童保育は基本的に父母会運営の地域学童である。場所探しに苦労した末に民家や雑居ビルに入っていることが多く、環境が劣悪であったり立ち退きを迫られることも珍しくないなど問題も多いが、小規模で家庭的な雰囲気には大規模施設型学童にない良さが感じられる。先日学生といっしょに見学したT学童は、長屋を利用した1年生?6年生まで10人余りが通う地域学童である(写真)。その日は小雨が降っていたのであまり外では遊んでいなかったが、長屋の前は車の往来の少ない細い道であり、天気のよい日は、子ども達は家の前の道でも遊ぶし、近くの公園にもでかけて行く。同じく沖縄の古い民家を利用した地域学童では、行き先、帰る時間をきちんと伝えれば、友達の家に遊びに行くことも許されていた。いわば学童保育所は拠点なのである。家庭も同じである。最近の子どもは外で遊ばないと言われ、いろいろな調査で一番よく遊ぶ場所は「自分の家」「友達の家」という結果が出ているが、よく観察していると家で遊んでいる子どもはずっと家にいるわけではない。家でしばらく遊んでいるかと思えばふらりと外へ出たり、のどが渇いたらまた家に戻ったりしながら家を拠点に遊んでいる。もちろんそれには車の往来の少ない家の前の道やすぐ近くにある公園や広場などの「庭先遊び場」があることが条件になる。  学童保育は騒音を発生する迷惑施設として近所から敬遠されることもあるが、子ども達は時には近所のおばさんに注意されたり怒られたりしながら、社会のルールも学んでいくのではないだろうか。囲い込まれた施設ではそうした機会も生まれない。高齢者施設では、最近やっと日本でも地域密着、小規模化の方向が目指されるようになってきた。それに対し、子どもの放課後の居場所づくりは安全を優先するあまり、逆に大規模囲い込み型の方向に向かっているようである。しかし、動きが激しく、遊びによって多くを学ぶ子どもにこそ地域密着、小規模、拠点型居場所が強く求められると思う。

■補足(上記のエッセイにはないところ)


宿題をすませた子からトランプをしたり囲碁をしたりして遊び始めていたが、そのうちかなり激しいじゃれ合いが始まり、襖にはすごい勢いで体当たりするは、畳に引いてあった敷物はぐちゃぐちゃになるはで、私なら「静かにしなさーい!」と叫びたくなるような状態になったが、指導員さんは涼しい顔をして、一人の子と囲碁を打っていた。しばらくすると指導員さんが「そろそろおやつにしようかー、お手伝いしてやー」と台所に立つと、高学年の子ども達が手伝いはじめ、低学年の子も座卓に集まってきて、みんなで「こっちがちょっと多い」などといいながらお皿に分け始めた。特におやつの当番なども決まっていないそうで、ごく自然に家庭でお母さんのお手伝いをする子どもたちという雰囲気だった。

坂東昌子のHPへ


リーダーシップ研究会トップページへ