性差研究をテーマとして取り上げるにあたって(2007年8月)



坂東昌子

「女性研究者のリーダーシップ研究会」代表





性差を正面から取り上げるシンポジウムは、例えば、
早稲田大学人間総合研究センター
東北大学でのシンポジウム
日本生理人類学会の生理人類学的視点からみた男の能力・女の能力
学術会議主催公開講演会(2006年7月8日:身体・性差・ジェンダー生物学とジェンダー学の対話
などいくつか見られるが、どうも議論が深まっていない。性差を論ずる視点が違っていることもあるが、思い込みや偏った情報に左右された義論が多すぎるからである。
上記学術会議の講演会に出席された大隅典子さん(東北大学大学院医学系研究科教授 )が、 「科学の世界では、1つでも反証がある場合には、その説を再検討するのが作法であると私は思う。」
大隅典子の仙台通信
と、ホームページでその感想を書かれているが、科学とはそういうスタンスで行うのが常識で、そうでないと偏見に満ちた結論となる。
最近日本物理学会でも、「行動規範」を策定
日本物理学会行動規範
したが、まさに、科学の営みとは「真実を明らかにする営み」であって、 その原則は「Get the Fact」、そして、そこから真理を追及する真摯な態度が基本になっていないと、 時の政治や企業の利益など、その時権力を持っている人たちにおもねる結果となってしまう。
かつて、私達は、愛知大学で開いた総合科目を基礎にして、
「性差の科学」
をまとめたことがある。これは、性差の研究会
「性差研究会」
を立ち上げての活動の一環として発行したものであった。 研究会は、共同研究を組んでいた功刀由紀子さん(愛知大学)と私とで、当時赤松良子先生の好奇心に啓発されて始めたもので、長谷川真理子さんにも議論に参加していただいたものである。 当時、どこまで性差の問題が解明されているのか、科学的認識に基礎を置き、現代科学で解明されている前線を踏まえて、議論がつめられる機会はあまりなかったことを改めて認識したのであった。これは、ある意味では、シュルル・モノー著西川祐子訳「女性とは何か」までさかのぼる科学的・総合的検討が必要であることには間違いない。これに生物学の立場からアドバイスされた宇野賀津子さんが加わっておられたこともあり、今回改めて性差を取り上げることとした。あれからかなりのときを経ているが、生命科学の進歩は目覚しく、科学的な知見に基づいて、足場を固め、そこから出発して男女共同参画の今後を見据えるという立場から、女性研究者支援事業のあり方を検討できればと思っている。 この前触れとして、2007年、8月25日リーダーシップ研究会の主催で「ジェンダー・アイデンティティ Nature vs. Nurture」と題して、東優子さん(ダイアモンド研究室におられたかた、現在大阪府立大学所助教授)と、宇野賀津子さん(性差とライフサイクル等について造詣が深い)のお二人を招いて研究会をしました。総勢17名、「女性とは何か」の翻訳をされた西川祐子さんや、心理学関係の方々など、かなり突っ込んだ議論ができた。これが今回のシンポジウムの準備につながると思っている。特に、ヒトのライフサイクルの変化を踏まえた性差のとらえ方、ダイアモンドとマネーの性差に関するスタンスの違いなど、それに、アメリカでのトークショーで取り上げられたジョン/ジョアンをめぐるドキュメントなど見ながら、生得的要因と環境要因の相互作用について議論をすることができた。認知のメカニズムなどのせまる科学的知見はどこまで進んでいるのか、という問題にまではいかなかったが、今度のシンポジウムの課題として、期待している。



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