最近のAI技術の進展は著しく、下記動画のように、人間をいれずに複数のAIを会話させてブレインストーミングさせることも可能となっている。
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将来的には、量子コンピュータを用いた量子AIでも同様のことが実現できるかもしれない。しかし、その際に量子ゼノン効果(quantum Zeno effect)が量子AI間で発生し、量子AI自体が停止する可能性がMax Tegmark(arXiv:1401.1219)によって以前から指摘されている。会話を続けるには、一方の量子AIは他方の量子AIを連続的に観測をする必要がある。量子ゼノン効果とは、量子力学における測定の反作用によって生じる現象であり、「継続的に観測を行うと、観測されている量子系の動きが止まる」という形で説明されることが多い。実際に、量子コンピュータの素子である量子ビット系などにおいては、量子ゼノン効果が実験的に確認されており、量子エラー訂正への応用も過去に議論されてきた。一般向けの説明としては、「水の入ったやかんを火にかけて見つめ続けると、いつまで経っても沸騰しない」という例えがよく用いられる。また、番犬に睨まれた泥棒が動けなくなる様子に似ていることから「番犬効果(watchdog effect)」と呼ばれることもある。このようなことからTegmarkは、会話をしようとする量子AIたちにも量子ゼノン効果が起きて、会話が止まってしまう可能性を考えたのである。しかし、火にかけられたやかんも、番犬に睨まれた泥棒も、素粒子から構成されるマクロな量子系であるにもかかわらず、実際には量子ゼノン効果によって動きが止まることは観測されていない。本講演では、シュレディンガーの猫を連続的に測定する思考実験から出発し、どのような条件下で量子ゼノン効果が発生しないのかを考察する。そして情報流に関する一方向性ダイナミクス(one-way dynamics)という自然な仮定が成り立つ限り、連続的に外部から量子系を間接測定しても、その量子系に量子ゼノン効果は発生しないことを、一般的な定理として証明をする。量子ネットワークとして複数の量子AI間のやりとりを想定する場合も、この一方向性ダイナミクスをネットワークの設計段階で取り入れることで、量子AI間の量子ゼノン効果を完全に抑えられることを述べる。
参考文献:量子情報と時空の物理【第2版】(堀田昌寛 サイエンス社)第5章
原子核は、核力の複雑さに起因して、核図表で隣り合う原子核や同じ核の異なる状態を見ても全く異なる構造や反応を示したりと、多角的な手法と視点からの解析が必要な特徴的な量子多体系と言えるでしょう。一方で近年の核構造計算は手法が細分化され、個々の研究者が俯瞰した理解を得ることが困難な側面も多くあります。本講義では、シンプルな模型を題材に、様々な多体手法についてなるべく誤魔化しのない形で解説するとともに、適宜筆者が開発したJuliaパッケージを用いながら、各々の研究へと発展させられるような理解の獲得を目指します。
本講義では、ハミルトニアン形式を用いた格子QCDの基礎から応用までを概説する。テンソルネットワークや量子計算手法の進展により、符号問題を回避できるハミルトニアン形式が、非平衡系や有限密度系の解析手法として注目されている。本講義では、格子上のハミルトニアン形式の基礎(ゲージ不変な状態の構成法や物理状態への演算子の作用)、量子計算機やテンソルネットワークによる実装法、さらには非平衡系および有限密度系への応用について解説する。
原子分子物理学分野は最先端精密測定のメッカであり、周波数標準や新物理探索に応用されています。新物理探索はそもそも加速器を用いた高エネルギー物理学(MeV-TeV)が主流でした。原子分子物理学は〜eVの超低エネルギー領域ですが、その測定精度・確度の高さを利用して、高エネルギー現象が低エネルギーの系に入り込む摂動を観測することができるため、低エネルギー測定技術を使った素粒子物理学が盛んに行われるようになりました。それでは、こういった手法を原子核物理学分野へ持ち込むことにより、どのような物理が見えるのか?を紹介・議論します。