高エネルギー天体物理現象は、極限物理の実験場であると考えられます。そこでは、地上実験では到達できない領域の物理が実現されています。これらの天体についての理解を深めることが、高エネルギー・高密度物理の世界に迫るための手段になることが期待されています。私はこれまで主に「超新星爆発シミュレーション」「ガンマ線バースト中心エンジン」「初代星の重力崩壊」「初代星からのガンマ線バースト」についての理論的研究を行ってきました。

超新星爆発シミュレーション / ガンマ線バースト中心エンジン / 初代星の重力崩壊 / 初代星からのガンマ線バースト / その他

 
 
 
 

超新星爆発シミュレーション

 重力崩壊型超新星爆発は大質量星が最期の瞬間に起こす大爆発です。その瞬間的な明るさは母銀河に匹敵するため、古来から多くの観測がなされてきました。しかし、爆発メカニズムは未だ完全には明らかになってはいません。標準的なシナリオとして遅延爆発モデルがあります。これは鉄の光分解などによってエネルギーを失ってしまった衝撃波に中心部から放射されたニュートリノがエネルギーを注入することで爆発を起こすモデルです。しかし、詳細な微視的物理を組み込んだ計算でも球対称の仮定のもとでは爆発を再現することが出来ていませんでした。

2 次元シミュレーションにおけるエントロピー分布の時間発展。クリックで動画を再生出来ます。

 私は、この問題を解決するために 2 次元軸対称流体計算にニュートリノ輻射輸送を組み込んだシミュレーションコードを作成し、計算を行いました (Suwa et al. 2010)。その結果、球対称の場合に比べニュートリノ加熱の効率が著しく大きくなり、衝撃波が鉄コアを抜けるまでを計算することが出来ました。この衝撃波はそのまま星の表面まで到達し、超新星を形成するだろうと考えられます。しかし、この衝撃波の伝搬と観測されている超新星爆発にはまだ大きな隔たりがあります。一番の大きな問題は爆発エネルギーです。観測的には、超新星の典型的な爆発エネルギーは 1051 erg 程度ですが、シミュレーションによって得られるのは 1 から 2 桁小さいものとなっています。この問題の解決案の候補として、ニュートリノ振動が挙げられます。特に重要な効果を及ぼしうるのがニュートリノ自己相互作用による振動です。そこで、私は上記のシミュレーションコードを用いて、どのようなパラメータであれば観測されている爆発エネルギーが再現できるかを明らかにしました (Suwa et al. 2011)。

3 次元シミュレーションにおけるエントロピー分布。クリックで拡大できます。

 さらに、国立天文台の滝脇氏、固武氏らと共に私の 2 次元のコードを 3 次元に拡張したコードを開発しました。そのコードを用いて、ニュートリノ輻射輸送をきちんと解いた 3 次元の計算を世界に先駆けて行いました (Takiwaki, Kotake, & Suwa 2012)。このコードを用いて、現在「京」コンピュータによるさらに高分解能の計算が進んでいます。

 超新星爆発では、既知の 4 つの相互作用(重力、電磁気力、弱い力、強い力)の全てが重要な働きを及ぼします。そのため、超新星の物理を理解するには様々な効果がダイナミクスにどのような影響を及ぼしうるのかを明らかにする必要があります。私は、核物質の状態方程式を複数用いてシミュレーションすることで、どのような状態方程式であれば爆発を起こしやすいのかを調べました (Suwa et al. 2013)。その結果、形成された原始中性子星がより早く収縮する状態方程式であれば、爆発をより起こしやすい傾向にあることが分かりました。

 

 日本語での解説記事も書いていますので、興味のある方はそちらもご参照ください。

日本天文学会誌 天文月報 2011 年 6 月号の記事
日本流体力学会誌「ながれ」2012 年 10 月号記事

 

 以下に、シミュレーション動画もあります。国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクトにて可視化していただきました。

 

平成26年4月18日にウェブリリースを行いました。
スーパーコンピュータ「京」を用いた計算で超新星爆発のニュートリノ加熱説が有望に

 
 
 
 

ガンマ線バースト中心エンジン

GRB からの重力波スペクトル。クリックで拡大できます。

 ガンマ線バースト (GRB) は宇宙で最も激しい爆発のひとつです。しかし、そのメカニズムは全く明らかになっていません。中心エンジンの最も有力な候補はコラプサーモデルと呼ばれるものです。このモデルでは、~20 太陽質量以上の質量を持つ大質量星の鉄コアが重力崩壊の結果ブラックホールとなり、その周りに高い降着率をもつ降着円盤が形成されます。このモデルにおける最大の問題は GRB を起こすのに必要な超相対論的ジェットの生成機構です。どういった機構によってジェットが生成されているかは、いくつかのモデルがあるものの、観測的検証法はまだ確立していません。そのような中で私は解析的手法を用いて、ジェット生成メカニズムは重力波を用いることで観測的に検証可能であることを示しました (Suwa & Murase 2009)。

 コラプサーモデルにおけるジェット生成メカニズムの候補は大別して二つあります。一つは磁場が駆動するもので、もう一つは降着円盤から放出される膨大なニュートリノが回転軸上で対消滅することでジェットを生成するものです。後者については、降着円盤によるニュートリノ捕獲効果を考慮すると加熱効率が十分ではない、などの反論が報告されていました。そこで、私はニュートリノ輻射輸送方程式を解くことで、降着物質による非熱的ニュートリノの生成が自然に起こることを示し、またニュートリノ対消滅の効率が 10 倍以上も上がる可能性を指摘しました (Suwa 2013)。

 GRB の中でも継続時間の短いものをショートガンマ線バースト (SGRB) と呼びます。このような短いバーストは中性子星やブラックホールといったコンパクトな星が合体するときに作られると考えられています。また、SGRB は重力波の源としても有力視されており、近年非常に注目を浴びています。私たちは、中性子星が通常の電波パルサー程度の磁場 (~1012G) を持っていれば、合体のときに生じる差動回転によって一般に磁気駆動ジェットが発生することをシミュレーションによって示しました (Shibata, Suwa, et al. 2011a)。

 
 
 
 

初代星の重力崩壊

初代星からの背景重力波スペクトル。クリックで拡大出来ます。

 宇宙で最初に形成された星(初代星)は現在の星に比べて非常に重かったと考えられています。これらの天体は宇宙の構造形成史に大きな影響を持っているため、その形成に関する理論的な研究は精力的になされていますが、観測手法は未だ確立していません。非常に遠方にあるため主系列段階を観測するのは困難です。そのような背景のもと、私は初代星の重力崩壊のシミュレーションを行いました (Suwa et al. 2007a)。さらに、その際に放出されるニュートリノ、重力波に着目し、その観測可能性を検証しました。その結果、単発の重力崩壊は観測するのは困難ですが、多くの初代星からの信号の足し合わせならば、背景成分として観測可能性があることを示すことができました (Suwa et al. 2007b, Suwa et al. 2009)。

 
 
 
 

初代星からのガンマ線バースト

 コラプサーの中心ブラックホールに質量降着が起こりジェットが生成された際に、そのジェットが星の外層を貫いて GRB を作ることができるのかどうかを調べるための解析的手法を構築しました。その手法を用いて、コラプサーが初代星の重力崩壊の際に形成されれば GRB を起こすことができることを示しました (Suwa & Ioka 2011)。これまで、初代星が GRB を起こすことを仮定した上での研究は多くなされ、どういったことが観測的に検証できるかについては調べられていました(例えば、星形成率や再イオン化、宇宙論パラメータなど)。しかし、初代星が本当に GRB を起こすことができるのかどうかは全く未着手でした(むしろ、初代星は莫大な質量の水素外層を持っているため、GRB を起こせないのではないか、と懸案されてさえいました)。この研究は、初期宇宙における天体形成を GRB を利用して直接観測できるかどうかの検討という意味で非常に重要であると考えています。

 上記の解析的モデルでは様々な仮定が用いられており、どの程度実際の現象を記述できているのかを明らかにする必要があります。モデルの妥当性を検証するために、私たちは 2 次元軸対称特殊相対論的流体シミュレーションを行いました (Nagakura, Suwa, & Ioka 2012)。数値計算結果と解析的モデルを詳細に比較することで、解析的モデルが数値計算結果を再現することを示しました。

 2010 年以降、初代星の典型的質量は、かつて考えられていたような数百太陽質量ではなく、数十太陽質量であるという研究が報告されるようになりました。そこで、私たちは解析的モデルをそれらの質量の初代星に用いて、ガンマ線バースト生成可能性を検討しました (Nakauchi, Suwa, et al. 2012)。その結果、数十太陽質量であっても十分コンパクトで青色赤色巨星になるような星であれば GRB を起こすことが可能であることを示しました。また、近傍 GRB の経験的関係式を用いて、初代星 GRB の観測的特徴を予言しました。また、青色超巨星の中でジェットが伝搬している間にコクーンと呼ばれる成分に注入されたエネルギーが光球放射をすれば、十分遠方の GRB でも将来計画の望遠鏡で観測可能であることを示しました (Kashiyama, Nakauchi, Suwa, et al. 2013)。このメカニズムは近年注目されている超光度超新星を説明するモデルにもなっています。

 
 
 
 

その他

上記の高エネルギー天体物理研究以外にも、以下の研究も行っています。

- 初期宇宙からの背景重力波と再加熱温度 (Nakayama et al. 2008a, 2008b)

- マグネター形成時の粒子加速と高エネルギーニュートリノ放射 (Horiuchi, Suwa, et al. 2008)

- 共変的輻射輸送方程式の定式化 (Shibata et al. 2011b)

- パルサー方程式の新しい解法 (Takamori et al. 2014)