基研・iTHEMS国内モレキュール型研究会 2022

講演概要リスト

1dayワークショップ招待講演

  • 遠藤 晋平 (東北大学):"冷却原子におけるエフィモフ状態とその普遍性"
     冷却原子においてエフィモフ状態と呼ばれる量子3体束縛状態が観測されている。本発表の前半部では、エフィモフ状態の基本的な性質や、その観測を可能にした冷却原子実験の高い制御性を紹介する。その後、エフィモフ状態の普遍性(universality)について解説する。特に、原子の種類やスピン状態によらずにエフィモフ状態が同じ挙動を示すという普遍性や原子核における類似の現象を紹介する。
  • 仲野 英司 (高知大学):"冷却原子系ポーラロンと周辺の話題"
     もともとポーラロンは結晶媒質中の伝導電子がフォノン(分極的素励起)と相互作用することで準粒子化したものをいう(ランダウ提唱)。準粒子としてのポーラロンは、例えば、バーチャルなフォノン励起による反跳効果で真空よりも重い有効質量を獲得する。この状況を媒質中の不純物粒子問題として一般化すると、いろいろな系に適用できる。近年では、冷却原子多体系におけるボーズ・アインシュタイン凝縮体(BEC)に不純物原子を導入した系が理論・実験の両面で研究されている。この場合、不純物原子はボゴリューボフ・フォノン(BECにおける素励起)と相互作用することで準粒子(ボーズ・ポーラロン)となる。BECの代わりにフェルミ縮退原子ガスに不純物原子を導入した場合は、フェルミ・ポーラロンと呼ばれる。本講演では、これら冷却原子系ポーラロンの基本的な解説をしたあと、最近の我々の研究結果や核物質への応用、強結合領域における少数多体系と不純物粒子問題のかかわりを紹介する。
  • 藤井 啓資 (ハイデルベルグ大学):"超流動中のポーラロン間に働く普遍的誘導相互作用"
     粒子間に働く力は,物性物理学から高エネルギー物理学に至るまで,最も基本的な概念の一つである.ゲージボゾンを媒介とする素粒子間の相互作用だけでなく,準粒子間の誘導相互作用も現代物理学において重要な役割を担っている.近年,超流動体中の不純物であるポーラロンが冷却原子系において注目を集めている.特に,冷却原子中の2つのポーラロン間の相互作用は,冷却原子の持つ高い実験的な制御性のおかげで,実験的に制御し測定できる可能性があり,魅力的なトピックとなっている.
     本研究では,超流動体中の2つの重い不純物間に働く相互作用の長距離的な振る舞いを調べる.有効場の理論を用い,超流動媒質によって誘導される相互作用は,ゼロ温度と有限温度のどちらにおいても普遍的にべき乗則に従うこと,また,そのポテンシャルの大きさは音速を通してのみ媒質の性質に依存することを示す [1].有効場の理論を用いた我々の定式化は,ポーラロンの物理への新たなアプローチを提供し,媒質粒子間の相互作用の強さに関係なく有効である.我々は,この結果をBCS-BECクロスオーバーを示すフェルミ超流動を媒質とする系に適用し,得られたポテンシャルの大きさを音速の実験データを用いて評価する. 我々の結果は,超流動フォノンを媒介としたCasimir力として理解でき,冷却原子系におけるポーラロンの物理だけでなく,対称性の破れた相に生じる誘導力としても新たな知見を与える.
    [1] K. Fujii, M. Hongo, and T. Enss, "Universal van der Waals force between heavy polarons in superfluids," arXiv:2206.01048 [cond-mat.quant-gas].
  • 中川 大也 (東京大学):"冷却原子系における近藤効果"
     近藤効果は、遍歴するフェルミオン多体系が局在した不純物スピンと相互作用する際に発現する普遍的な現象であり、物性物理から高エネルギー物理に至る幅広い分野で現れる。近藤効果の普遍性はくりこみ群の物理の現れであり、適切なマッピングの下で境界つき量子臨界現象として理解することができる。本講演では、近年近藤効果の新たな実現舞台として注目を集めている冷却原子系について、近藤効果の実現法・実験の現状についてのレビューを行い、冷却原子系を用いて新たに探索が可能になる近藤効果の物理について議論する。特に、冷却原子系に特徴的な現象である原子ロスを開放量子系として取り扱うことにより、非エルミートな近藤模型が実現されエルミート系では不可能なくりこみ群フローが可能となることを示す。

インフォーマルレクチャー

  • 西田 祐介 (東京工業大学):"エフィモフ効果と荷電粒子系における類似物"
     エフィモフ効果とは、ある短距離ポテンシャルで相互作用する電荷を持たない3粒子が、離散的スケール不変性に従う無限個の束縛準位を形成する現象である。しかし、クーロンポテンシャル中の荷電ディラック粒子や、クーロンポテンシャルで相互作用する荷電3粒子においても、類似の現象を見出すことができる。本講演では、エフィモフ効果と荷電粒子系における類似物について、インフォーマルにレクチャーする予定である。
  • 兵藤 哲雄 (東京都立大学):"共鳴状態の理論とハドロンへの応用"
     300種を超えるハドロンのうちほとんどの状態は強い相互作用に対し不安定であり、共鳴状態として記述する必要がある。本講演では共鳴状態の記述に関する基礎的な事項を導入し、ハドロンへの応用を紹介する。特に束縛状態から共鳴状態への遷移と、関連する物理について議論する。