藤井 啓資 (ハイデルベルグ大学):"超流動中のポーラロン間に働く普遍的誘導相互作用"
粒子間に働く力は,物性物理学から高エネルギー物理学に至るまで,最も基本的な概念の一つである.ゲージボゾンを媒介とする素粒子間の相互作用だけでなく,準粒子間の誘導相互作用も現代物理学において重要な役割を担っている.近年,超流動体中の不純物であるポーラロンが冷却原子系において注目を集めている.特に,冷却原子中の2つのポーラロン間の相互作用は,冷却原子の持つ高い実験的な制御性のおかげで,実験的に制御し測定できる可能性があり,魅力的なトピックとなっている.
本研究では,超流動体中の2つの重い不純物間に働く相互作用の長距離的な振る舞いを調べる.有効場の理論を用い,超流動媒質によって誘導される相互作用は,ゼロ温度と有限温度のどちらにおいても普遍的にべき乗則に従うこと,また,そのポテンシャルの大きさは音速を通してのみ媒質の性質に依存することを示す [1].有効場の理論を用いた我々の定式化は,ポーラロンの物理への新たなアプローチを提供し,媒質粒子間の相互作用の強さに関係なく有効である.我々は,この結果をBCS-BECクロスオーバーを示すフェルミ超流動を媒質とする系に適用し,得られたポテンシャルの大きさを音速の実験データを用いて評価する.
我々の結果は,超流動フォノンを媒介としたCasimir力として理解でき,冷却原子系におけるポーラロンの物理だけでなく,対称性の破れた相に生じる誘導力としても新たな知見を与える.
[1] K. Fujii, M. Hongo, and T. Enss, "Universal van der Waals force between heavy polarons in superfluids," arXiv:2206.01048 [cond-mat.quant-gas].