第19回 木村利栄理論物理学賞 受賞者紹介
この度、2025年度(第19回)湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞の受賞者を谷崎佑弥氏(京都大学基礎物理学研究所・助教)に決定しました。
谷崎 佑弥 助教(京都大学基礎物理学研究所)
授賞研究課題 「トポロジーと量子異常の場の量子論への応用」
授賞理由
ゲージ理論の低エネルギーダイナミクスの解明は、長年にわたり理論物理学の中心的課題の一つである。 谷崎氏はこの問題に、離散対称性に付随した't Hooftアノマリーに代表される現代的な視点を適用することで、極めてオリジナルな研究成果を挙げ続けてこられた。
授賞選考でまず取り上げられた論文[1-3]では、時空間のコンパクト化に伴うゲージ理論の低エネルギー物理への影響が考察されている。論文[1]では、 't Hooftアノマリーの情報を失う通常の周期的境界条件に対し、't Hooftアノマリーを保存するツイストされた境界条件の方法が一般的に構成されている。 これはゲージ理論におけるアノマリーマッチングの適用範囲を系統的に拡げるものである。
論文[2]では、漸近的自由性に訴えることで、時空間のコンパクト化によるYang-Mills理論ダイナミクスの半古典的解析が行われている。 これ自体は古くからあるアイデアだが、素朴な1次元コンパクト化は有限温度に対応しゲージ理論の低エネルギー物理を反映しない。谷崎氏は、 ツイストされた境界条件を持つ2次元コンパクト化がこの困難を整合的に解消することを指摘し、半古典的描像でのトポロジカル渦糸が、クォークの閉じ込め、 真空エネルギーの非自明な周期性を説明することを示した。
論文[3]では、この2次元コンパクト化に基づく描像が、1次元コンパクト化におけるモノポール凝縮の描像と連続的に繋がっていることを示した。 こうした研究は、通常の格子ゲージ理論に基づく数値的研究に対する相補的な理論的研究と見なすことができる。谷崎氏の研究において特筆すべきなのはその高いレベルでの整合性であり、 これは氏の場の量子論に対する深い理解から来ているものと考えられる。この高いレベルの整合性の例としては、論文[4]でのmassless QCDにおける新しい't Hooftアノマリーの発見と そのスキルミオンによるアノマリーマッチングが挙げられる。このアノマリーマッチングは、massless QCDにおけるカイラル対称性の自発的破れのある種の可能性を排除した強力な手法を与える。 また、この分野の近年の発展の極めて初期に発表された、't Hooftアノマリーとglobal inconsistencyに関する論文[5,6]も特筆すべき成果である
これら以外にも谷崎氏の研究業績は理論物理学の多岐に渡っており、今後も活躍が大いに期待される。以上の理由から、谷崎氏は木村利栄理論物理学賞の受賞にふさわしい研究者であると判断した。
- [1] Y. Tanizaki, T. Misumi and N. Sakai, "Circle compactification and 't Hooft anomaly," JHEP 12, 056 (2017).
- [2] Y. Tanizaki and M. Unsal, "Center vortex and confinement in Yang-Mills theory and QCD with anomaly-preserving compactifications," PTEP 2022, no.4, 04A108 (2022).
- [3] Y. Hayashi and Y. Tanizaki, Unifying Monopole and Center Vortex as the Semiclassical Confinement Mechanism," Phys. Rev. Lett. 133, no.17, 171902 (2025).
- [4] Y. Tanizaki, "Anomaly constraint on massless QCD and the role of Skyrmions in chiral symmetry breaking," JHEP 08, 171 (2018).
- [5] Y. Tanizaki and Y. Kikuchi, "Vacuum structure of bifundamental gauge theories at finite topological angles," JHEP 06, 102 (2017).
- [6] Y. Kikuchi and Y. Tanizaki, "Global inconsistency, 't Hooft anomaly, and level crossing in quantum mechanics," PTEP 2017, no.11, 113B05 (2017).