第14回木村利栄理論物理学賞 受賞者紹介
この度、2020年度(第14回)湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞の受賞者を福嶋健二氏(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻・教授)に決定しました。
福嶋 健二 教授(東京大学大学院理学系研究科)
授賞研究課題 「カイラル磁気効果の理論的研究」
授賞理由
相対論的重イオン衝突実験の初期に生成される磁場とカイラリティーの揺らぎが、量子アノマリーを通じて、電荷の輸送現象を引き起こすことを2007年にKharzeev, McLerran, Warringaが提唱し、 カイラル磁気効果(Chiral Magnetic Effect)と呼ばれている。福嶋氏は、Kharzeev氏とWarringa氏と共同でこのカイラル磁気効果に対し、カイラル化学ポテンシャルを導入することで、 場の理論の枠組みから一般的な公式を導いた(論文[1])。これは、量子アノマリーによって、カイラル化学ポテンシャルと磁場の積に比例して、磁場と平行に電流が誘起されるというシンプルな公式である。 この論文において、福嶋氏が重要な寄与を行ったことは、福嶋氏自身の回想(論文[2])からも伺い知ることができる。またカイラル磁気効果に関する理論的側面は福嶋氏によるレビュー(論文[3])で詳しく解説されている。
この福嶋氏らの成果により、カイラル磁気効果は、相対論的重イオン衝突実験に限らず、素粒子物理、物性物理、宇宙物理を含む広い分野への応用が可能となり、千を超える非常に多くの文献に引用されてきた。 例えば、ボルツマン方程式のような運動学的理論でカイラル磁気効果を記述する、カイラル運動理論が生まれ、宇宙初期や超新星爆発等へも応用も試みられている。 また、カイラル磁気効果は量子アノマリーを流体力学に取り入れる重要な研究の方向性も触発した。またカイラル磁気効果の類似現象であるカイラル渦効果の研究も活発に行われている。
福嶋氏はこの論文の後も、継続してカイラル磁気効果の研究で活躍し、この分野をリードする研究者として国際的によく知られている。 そのほかにも福嶋氏は場の理論の手法を用いた原子核理論の研究に関して多くの重要な研究業績を挙げてきた。以上の理由で福嶋氏は、木村賞の受賞者としてふさわしい研究者である。
- [1] Kenji Fukushima, Dmitri E. Kharzeev, Harmen J. Warringa, “Chiral magnetic effect,” Physical Review D 78, 074033, (2008).
- [2] Kenji Fukushima, “Views of the Chiral Magnetic Effect” Lect. Notes Phys. 871 (2013) 241-259.
- [3] Kenji Fukushima, “Extreme matter in electromagnetic fields and rotation” Prog. Part. Nucl. Phys. 107 (2019) 167-199.