サブページ画像
designed by Freepik

第16回木村利栄理論物理学賞 受賞者紹介

 この度、2022年度(第16回)湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞の受賞者を仏坂健太氏(東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター・准教授)に決定しました。

仏坂 健太 准教授(東京大学大学院理学系研究科)

授賞研究課題 「中性子星連星の合体に対する電磁波対応天体に関する研究」

授賞理由

2017年8月17日に発見された2つの中性子星の合体による重力波イベントGW170817は、マルチメッセンジャー宇宙物理学の本格的な始まりを告げる歴史的なマイルストーンとなった。 連星中性子星の合体の初の発見というだけでなく、電波からガンマ線に至る全ての波長域にわたって電磁波対応天体が観測され、世界中の物理学者や天文学者を巻き込んだ一大イベントとなった。 様々な電磁波対応天体が観測されたことによって、これまでにない豊富な知見がもたらされ、大きな進展があった。特に、紫外線・可視光・赤外線帯では、キロノバ・マクロノバと呼ばれる放射が観測され、 連星合体時に飛び散る中性子過剰物質の中で合成された重元素の放射性崩壊熱によって輝いていることが分かってきた。これは、元素の起源に関する重要な進歩であった。 また、X線・ガンマ線・電波の観測からは、合体時に(継続時間の短い)ガンマ線バーストが起こったことが決定的となり、長年にわたって仮説にすぎなかったガンマ線バーストの起源の一つが証明された。 さらに、重力波観測とガンマ線バーストジェットの残光に対する高解像度電波観測を組み合わせることにより、ハッブル定数がこれまでとは全く独立な方法で測定されたことも特筆すべきである。

仏坂氏は、このようなマルチメッセンジャー時代の幕開けに先駆けて、電磁波対応天体の理論研究を開拓し重要な成果を挙げてきた世界的リーダーの一人である。 重要な論文を多数書いているが、その中でも3つのテーマを挙げるとすると以下になる。

1. 連星中性子星の合体による質量放出現象

連星中性子星の合体に伴う質量放出現象を数値相対論を用いて世界に先駆けて研究し、GW170817の電磁波対応天体の観測結果を解釈する上で基盤となる予言を与えた。 質量放出は、それ自体が重元素の起源になるだけでなく、放射性崩壊熱によってキロノバ放射につながる。さらに、ガンマ線バーストのジェットはガンマ線を放出する前に、この放出物質を突き破る必要がある。 それゆえ、質量放出現象は、電磁波対応天体の理解の出発点になるもので、数値相対論を用いて初めて計算した本研究は極めて重要なものである。 (論文[1])

2. rプロセス元素の起源

rプロセス元素の崩壊で光るキロノバの光学的な性質や放射性崩壊の性質を調べた。GRB130603Bでは赤外線対応天体がキロノバモデルで自然に解釈できることを示し、GW170817を解釈するための理論的基盤を与えた。 また、キロノバの放射性崩壊の性質と生成される放射線の熱化過程を調べた。これらの結果と原子構造計算を使って、キロノバ後期の重元素による輝線スペクトルとその時間発展の計算も世界で初めて行っている。 さらに、天文・地学データを用いて中性子星合体から放出される質量を推定した研究も独創性が高い。(論文 [2, 3])

3. ハッブル定数

GW170817 の発見前から、可能性のある電波対応天体を系統的に調べ、それらを検出するための戦略を提案した。GW170817 の発見時には、VLA による電波対応天体の発見に携わり、観測結果の理論的解釈を主導した。 特に、VLBI 観測されたジェットの残光が超光速運動することから、ジェットに対する見込み角を精度よく測定することで、ハッブル定数の測定精度が大幅に向上可能なことを示した。これは、天体物理に留まらず、宇宙論に対しても大きなインパクトのある研究となった。(論文 [4,5])

これら一連の研究は、歴史に残る基礎的なものである。連星中性子星の合体やマルチメッセンジャー宇宙物理学の研究に対する彼の貢献は大変幅広く独創的であり、世界的にみても非常に大きい。また理論研究だけでなく、一級の観測研究者と密接に連携し、自ら発展させた理論を検証する研究を行っている点も特筆すべき点である。 今後重力波望遠鏡の感度が向上するにつれ、マルチメッセンジャー天体現象が続々と観測されることは間違いなく、今後の活躍も大いに期待できる。これらの理由から、仏坂氏は木村利栄理論物理学賞の受賞にふさわしい研究者であると判断した。

  • [1] K. Hotokezaka, et al., "Mass ejection from the merger of binary neutron stars", Physical Review D, 87, 024001 (2013).
  • [2] M. Tanaka and K .Hotokezaka, "Radiative Transfer Simulations of Neutron Star Merger Ejecta", Astrophysical Journal, 775, 113 (2013).
  • [3] K. Hotokezaka, T. Piran, & M. Paul, "Short-lived 244Pu points to compact binary mergers as sites for heavy r-process nucleosynthesis", Nature Physics, 11, 1042 (2015).
  • [4] K. Hotokezaka, et al., "A Hubble constant measurement from superluminal motion of the jet in GW170817", Nature Astronomy, 3, 940 (2019).
  • [5] K. Hotokezaka, et al., "Radio Counterparts of Compact Binary Mergers Detectable in Gravitational Waves: A Simulation for an Optimized Survey", Astrophysical Journal, 831, 190 (2016).

受賞講演

講演動画とスライド (2次利用を禁止します)

授賞式の様子

TOP