基研研究会・iTHEMS研究会 2022

講演概要リスト

招待講演

  • 鈴木 博 (九州大学):"グラディエントフロー厳密くりこみ群"
     K. ウィルソンにより創始された厳密くりこみ群は、スケール変換の元での物理系の応答を系統的に捉える枠組みである。特にこの厳密くりこみ群は場の量子論を(摂動論を越えた範囲でも)定式化する意味で極めて重要である。しかしながら通常の厳密くりこみ群は運動量切断を用いて定式化されるため、素粒子理論で基本的であるゲージ対称性を明白に保つことができない。ここでは我々が近年提唱しているグラディエントフロー厳密くりこみ群を紹介する。この定式化は運動量切断の代わりにゲージ共変な拡散方程式(グラディエントフロー方程式)を用いることで、明白なゲージ対称性を保つ点に特徴がある。もし可能であれば、さらにこの定式化のカイラルアノマリーへの応用を議論したい。
  • 山口 哲 (大阪大学):"連続理論と格子理論での指数定理とη不変量"
     指数定理は、質量のないDirac方程式の解の数と、ゲージ場のトポロジカル数を関係付ける定理で、伝統的にはカイラルアノマリーなどで重要な役割を果たす。一方、境界のある空間の指数定理であるAtiyah-Patodi-Singer指数定理を記述するために導入されたη不変量も最近のアノマリーの発展において重要な役割を果たすことが分かってきた。この講演では、指数とη不変量について連続理論の場合と格子理論の場合の違いに着目しながらレビューする。
  • 三角 樹弘 (近畿大学):"格子フェルミオン再考 -グラフ理論と位相不変量の立場から-"
     この講演では,既知のものを含む格子フェルミオン定式化のさまざまな手法を概説した後,格子フェルミオンがグラフ理論におけるspectral graphとして解釈できることを示す.その上で,フェルミオンを定義する格子空間のトロポジーとその場合のダブラーの最大個数(トーラスであれば2^d)を結びつける新たな予想について言及し,その予想がグラフ理論の数学的問題に帰着されることを述べる.
  • 桂 法称 (東京大学):"SU(N)ハバード模型における厳密な結果"
     ハバード模型は、固体中の相互作用する電子系を記述するために導入された格子模型であり、固体の多彩な振る舞いを説明すると期待されている。また、近年、冷却原子系の文脈では、ハバード模型のN(>2)成分フェルミオン系への自然な拡張であるSU(N)ハバード模型が盛んに議論されている。これらの模型は、ホッピング項と相互作用項のみからなる単純な形をしているが、その基底状態や励起状態を求めることは一般には困難であり、厳密な結果は限られている。本講演では、強磁性・スピン鏡映正値性・ηペアリング対称性などのSU(2)ハバード模型における既知の厳密な結果について概観した後に、それらの結果のSU(N)ハバード模型における拡張を紹介する。また時間が許せば、散逸のあるハバード模型や量子多体傷跡状態など、非平衡ダイナミクスの観点から重要な話題にも触れる。
  • 日高 義将 (KEK):"ハミルトニアン形式を用いた格子ゲージ理論"
     ハミルトニアン形式を用いた格子ゲージ理論の解析法について議論する.ハミルトニアン形式は,符号問題を避け,実時間や有限密度系の問題へアプローチする上で有用な手法になる可能性がある.一方で,ヒルベルト空間が巨大なため有限次元に近似する必要性やゲージ対称性にともなう余分な自由度の消去など技術的に解決するべき問題が存在する.本講演では,Kogut-Suskind のハミルトニアン形式から出発して,ゲージ自由度を取り除き,比較的取り扱いやすいスピン模型への変形する方法を紹介し,単純な場合の数値計算の結果について議論する.
  • 西野 友年 (神戸大学):"テンソルネットワーク法とその応用"
     テンソルネットワークは、イジング模型など統計力学模型の記述や、ベーテ仮設を用いた1次元 量子力学模型の状態解析などを通じ、主に格子上の物理現象を記述する道具として「自然発生」 したものである。局所的なテンソルの間で、網目のように縮約を取って多自由度系での期待値を 求めることから、ネットワークという名称が今世紀に入って使われるようになった。興味深いこ とに、行列積と呼ばれる1次元的なネットワークは幾つもの分野で時代を超えて「再発見」され ている。現在では標準的な数値計算法と認識されている密度行列繰り込み群も、その背景では行 列積が重要な役割を果たしている。今世紀に入ってからは、解析対象の格子形状など自然な空間 構造を離れて、物理状態が持つエンタングルメントを反映するネットワーク構造を探す方向への 模索が始まり、変分的にかつ精密な数値解析の道具として、応用範囲が広がりつつある。近年の 応用事例から幾つか紹介して行きたい。テンソルを取り扱うに当たって、いわゆる「環境」に平 均場的な要素を部分的に導入する工夫なども提唱されている。それを好むか、変分原理を厳格に 守るかは研究者によって好みが分かれる所であろう。
  • 菊川 芳夫 (東京大学):"格子カイラルゲージ理論の構成法 ― Luscherの積分可能条件とEichten-Preskill-WenのDecoupling条件"
     このトークでは,局所および大局的なゲージアノマリーが相殺しているカイラルゲージ理論の格子定式化として,二つのアプローチを議論する。
     2n+1次元Wilsonフェルミオンによって定式化される格子Domain-wallフェルミオンのカイラルな境界モードは,低エネルギー有効格子理論として,2n次元Overlapフェルミオンで記述される。Overlapフェルミオンの格子ディラック演算子は,格子ゲージ対称性のもとで共変的で,”許容条件”のもとで局所的で,Ginsparg-Wilson関係式を満たす。Ginsparg-Wilson関係式に基づいて定義されるカイラル対称性によって,Diracフェルミオンは,正負カイラリティをもつWeylフェルミオンの自由度に分解される。このとき,次の二つのアプローチによって,格子カイラルゲージ理論の定式化が可能になる:
    (1) カイラル行列式のゲージ不変性および積分可能性を直接,確立する
    (2) Mirrorフェルミオンの自由度に,相互作用によって対称性を破ることなくギャップを与えて,decoupleさせる
     (1)に関するカイラル行列式の積分可能性の条件は,Luscher(1999)によって大局的なゲージアノマリーの相殺条件として定式されていた。一方,(2)に関するギャップ化の条件は,Eichten-Preskill(1986)によって ”古典的”な ’t Hooft anomalyの考察から定式されていた。これら二つの条件は,’t Hooft anomalyとトポロジカル相の関係についての”現代的”な視点・解析方法から見直すことができる。(1)のアプローチでは,2n+1次元Domain-Wallフェルミオンと2n次元Overlapフェルミオンの関係がDai-Freed 定理に対応し,2n+2次元Domain-Wallフェルミオンと2n+1次元Overlapフェルミオンの関係がAPS指数定理に対応することから,積分可能条件は”格子η不変量”の満たすべき条件として再定式化できる。(2)のアプローチは,相互作用によって自明になるトポロジカル相の境界理論のふるまいと関わってくる。本来ギャップ化されているべき自明なトポロジカル相の境界で,なぜ,どのようにmassless のWeylフェルミオンが現れうるのかという問題については,Block-spin変換によるEichten-Preskill 模型のFixed point構造の解析が参考になる。
     また,Euclidean Path Integral formalismのほか,Hamiltonian formalism についても議論する。
  • 初田 哲男 (理研 iTHEMS):"格子上の散乱理論"
     格子ゲージ理論における複合粒子の散乱理論について、 Haag-Nishijima-Zimermann reduction formula、Borchers class, Nambu-Bethe-Salpeter wave functionを出発点にLuscher法とHAL QCD法の導出とその応用を紹介する。
  • 松井 卓 (九州大学):"Gapped Ground States , Split Property and Entanglement Entropy in 1+1 dim Quantum Spin Systems"
     1+1次元量子スピンにおいてスペクトルギャップのある基底状態ではSplit Property と呼ばれる量子状態の弱いEntanglementが成立することを講演者は示した。Split Property が成立するとハイゼンベルク模型に関するLieb-Mattis Schultzの定理の一般化が成立することや相互作用のあるフェルミ粒子系のギャップのある基底状態の不変量であるZ_2指数とString Orderの関係が導かれることを説明する。

ポスター発表

  1. 早田 智也 (慶應義塾大学):"非エルミートハバード模型の量子モンテカルロ計算"
     実時間格子シミュレーションは非常に重要かつとても難しい問題である。本発表では相互作用係数が純虚数である非エルミートフェルミオンハバード模型について実時間発展を符号問題のない量子モンテカルロ法に基づいて計算する方法について説明し、3次元正方格子の場合に行った我々の計算結果を紹介する。
  2. 田村 健祐 (東京大学):"SU(n) Hubbard模型における平坦バンド強磁性の一般論"
     冷却原子系では SU(n) 対称性を持つフェルミオン系の実現が可能であり、これは格子上の模型である SU(n) Hubbard 模型で記述される。SU(n) Hubbard模型の解析は一般に困難だが、いくつかの厳密な結果が存在する。特にそのような結果の例として平坦バンド強磁性がある。ただし従来の SU(2) Hubbard模型では平坦バンド強磁性の一般論が確立されているのに対し、SU(n) では対応する一般論は確立されていない。そこで我々は SU(2) で知られているこの一般論の SU(n) への拡張を議論する。
  3. 田中 豪太 (静岡大学):"くりこみ群とcMERA"
     cMERAは、量子エンタングルメントによる時空の創発を具現化するものとして期待されている。ここでは、相互作用があるスカラー場の理論に対するcMERAの構成を、くりこみ群に基づいて議論する。まず、波動汎関数のスケール依存性をくりこみ群により明らかにする。そして、異なるスケールにおける波動汎関数をつなぐ演算子からdisentanglerを求めることで、cMERAを構成する。
  4. 桑原 孝明 (静岡大学):"テンソルくりこみ群による3次元SU(2)ゲージ理論の解析"
     テンソルくりこみ群は、符号問題を原理的に生じないため、有限密度QCDを始めとする複素作用系の解析手法として有力視されている。我々は試行作用により重み付けされた配位を用いたテンソルネットワークの構成法を提案した。この手法を3次元SU(2)ゲージ理論に適用し、弱結合展開と強結合展開と整合する結果を得た。これはテンソルくりこみ群により3次元以上の非可換ゲージ理論を解析する初めての研究である。
  5. 松浦 壮 (慶應義塾大学):"Kazakov-Migdal模型とグラフゼータ関数"
     本発表では、任意の連結グラフ上に一般化されたKazakov-Migdal模型を考える。この模型はU(N)ゲージ対称性を持ち、グラフの各辺と頂点の上に、ユニタリー行列で表現されたゲージ場と、随伴表現に属するエルミート行列がそれぞれ定義されている。従来は任意次元の正方格子上に定義されていたこの模型は、エルミート行列を積分することで、格子上の全てのWilson loopが足し上げられることが知られている。一方、グラフ上には辺を繋いで作られるcycleが一般に無限個存在するが、任意の連結cycle(Wilson loop)は、primary cycleと呼ばれる“素”cycleのべき乗で表される。そして、グラフ上の全てのprimary cycleに関するオイラー積を考える事で、グラフ上のゼータ関数が定義される。その際、bump(同じ辺を戻るようなpathの構造)を持たないようなcycleに限定したゼータ関数を伊原ゼータ関数、bumpを含んだより一般のcycleまで考慮に入れたゼータ関数をBartholdiゼータ関数と呼ぶ。本発表では、グラフ上に定義されたKazakov-Migdal模型の分配関数が、ユニタリー行列で重み付けされたグラフゼータ関数のユニタリー行列積分で表されることを示す。これはちょうど、Wilson loopの足し上げを厳密に実行していることに相当する。さらに、特定のグラフに関して、有限のNで分配関数を厳密に評価することができること示す。我々はまた、任意のグラフ上のKazakov-Migdal模型の分配関数をlarge Nの極限において正確に評価できることを示す。これは、Kazakov-Migdal模型という行列模型が、large Nで厳密に解けることを意味する。
  6. 吉井 真央 (東京大学):"拡張されたHarper模型に対する非可換トーラスからのアプローチ"
     近年、実験技術の向上により多彩な薄膜が生成され積層されている。その一方でこのような物質では周期性が壊れるために物性を調べることが困難である。本発表では1次元薄膜積層系の有効模型としてHarper模型を作成し、その上での応答係数を非可換トーラスから議論する。
  7. 青木 匠門 (大阪大学):"Curved domain-wall fermion and its anomaly inflow"
     正方格子上のフェルミオン場に曲がったドメインウォール構造を持つ質量項を与えると、スピン接続が誘導され、重力場中のカイラルフェルミオンを扱うことが可能になる。本研究ではさらにリンク変数を通してゲージ場を与え、その効果を定量的に評価する。特に重力場との混合アノマリーを含むアノマリー流入について議論し、Euler標数を含む、格子理論によるアノマリーの非摂動的な記述を探る。
  8. 深井 康平 (東京大学):"開放端境界条件における一次元XYZ鎖の局所保存量"
     一次元XYZ鎖をはじめとする量子可積分系には無限個の局所保存量が存在するが、その具体的な表式は多くの場合で知られていない。これまでの研究で、周期境界条件における一次元XYZ鎖の全ての局所保存量の具体的な表式が得られた。開放端境界条件における局所保存量は、周期境界条件の場合と同じ構造を持つbulk termと、境界付近に局在するboundary termから構成されることが知られている。開放端境界条件における一次元XYZ鎖のboundary termの具体的な表式は、最初の非自明な局所保存量の場合でしか知られていなかった。今回の研究では、開放端境界条件における一次元XYZ鎖において、新たに幾つかの局所保存量のboundary termの表式を特定し、その構造の一般的な規則性を発見した。
  9. 後藤 ゆきみ (九州大学):"Spontaneous mass generation and chiral symmetry breaking"
     量子色力学において、相互作用が無ければクォークは質量を持たず、保存量カイラリティーを持つ。現実にはクォークは質量を持ち、カイラル対称性も破れている。これは相互作用によって真空の対称性が自発的に破れた結果であると考えられている。本講演では、Kogut-Susskind 型の格子フェルミオンのハミルトニアンを考える。相互作用は4つのクォークの有効相互作用とし、その強結合領域を扱う。空間次元が3以上のとき、この模型において無限体積極限をとることにより、質量項の期待値が非自明な値をとることを証明する。これは連続極限がうまく取れれば、カイラル対称性が自発的に破れることを意味する。
  10. 宮川 侑樹 (九州大学):"GFERGにおけるカイラルアノマリー"
     近年、園田-鈴木によってゲージ不変性を明白に保持する厳密くりこみ群(GFERG)が純Yang-Mills理論に対して提唱された。本発表ではGFERGを、フェルミオン場を含んだベクトル型ゲージ理論に拡張する。その後、量子電磁力学の場合に摂動論的解析を行い、U(1)カイラルアノマリーの導出を行う。
  11. 湯本 純 (秋田大学):"グラフ理論と位相不変量に基づくdoublerの最大個数についての考察"
     格子ゲージ理論において、ダブリング問題はNielsen・二宮のno-go定理により定式化されている。しかし、離散化された一般次元多様体上におけるfermion自由度(doubler)の最大個数は、このno-go定理では説明することができない。したがって、離散化された一般次元多様体上におけるdoublerの最大個数について言及する新たな定理の構成が必要不可欠となった。この新たな定理の構成に向けた議論として、今回の発表では、(1)グラフ理論から着想を得た新たな格子Dirac演算子の解析方法、及びdoublerの個数が格子Dirac演算子の退化次数であることを説明する。(2)位相不変量であるBetti数に着目した新たな定理の予想とその考察について議論していく。
  12. 藤 陽平 (東京大学):"Bridging three-dimensional coupled-wire models and cellular topological states"
     Three-dimensional (3d) gapped topological phases with fractional excitations are divided into two subclasses: One has topological order with point-like and loop-like excitations fully mobile in the 3d space, and the other has fracton order with point-like excitations constrained in lower-dimensional subspaces. These exotic phases are often studied by exactly solvable Hamiltonians made of commuting projectors, which, however, are not capable of describing those with chiral gapless surface states. Here we introduce a systematic way, based on cellular construction recently proposed for 3d topological phases, to construct another type of exactly solvable models in terms of coupled quantum wires with given inputs of cellular structure, two-dimensional Abelian topological order, and their gapped interfaces. We show that our models can describe both 3d topological and fracton orders and even their hybrid and study their universal properties such as quasiparticle statistics and topological ground-state degeneracy.
  13. 鎌田 勝 (木更津高専):"離散複素解析における非線形O(3)シグマ模型"
     BelavinとPolyakovによって考察された非線形O(3)シグマ模型の離散版を、Mercat、 Bobenko及びGuentherの2次元4辺形グラフ上の離散複素解析を用いて構成した。立体射影により定義される複素関数fを用いて、重み付き離散Dirichletエネルギー及び面積を定義し、これらの間に成り立つ不等式を導いた。この不等式が飽和する場合は、fが離散(反)正則の場合に限られる。2次元球面上のタイル張りから得られる重みWを用いて、位相的量子数Nを定義した。対角線が直交する四辺形において、離散(反)正則関数が上記Dirichletエネルギーから導かれるEuler-Lagrange方程式の解であることを示した。菱形格子で離散正則べき関数の位相的量子数Nを計算し、模型の連続極限を調べた。
  14. 今村 征央 (京大基研):"格子可解模型のためのボンド代数入門"
     近年、ボンド代数を用いて可解格子模型の理解にいくつかの進展が見られている。ボンド代数とは与えられたハミルトニアンの局所項を生成子とした代数であり、その生成子間の(反)可換性に着目し双対性や可解性を考察するものである。他にもJordan-Wigner変換の代数的一般化ができたり、さまざまな模型を統一的に扱ったり、Lieb-Robinson boundの計算に用いられたりと、その恩恵は多岐にわたる。本発表ではボンド代数入門として簡単な例を紹介し、最新の結果であるXXZ模型へのボンド代数を用いたアプローチに触れたいと思う。
  15. 深谷 英則 (大阪大学):"What is chiral susceptibility probing?"
     JLQCD共同研究では、メビウスドメインウォールフェルミオン作用を用いて高温QCDのシミュレーションを行なっている。さらに、ゲージ配位を再重みつけ法でオーバーラップフェルミオンに変更、厳密なカイラル対称性を持つ作用を用いてQCD相転移の研究を進めている。本発表では、カイラル感受率に関する最新結果について報告する。カイラル凝縮およびカイラル感受率はSU(2)_L X SU(2)_R対称性の秩序変数としてQCDの相転移の研究に用いられてきた。しかし、私たちの研究により、そのシグナルが、相転移と一見無関係のaxial U(1) 量子異常による寄与で占められていることがわかった。この事実はQCDの相構造にU(1)量子異常が深く関わっていることを示唆する。
  16. 鈴木 恒雄 (大阪大学核物理研究センター):"A gauge-invariant mechansim of color confinement in QCD due to monopoles coming from violation of non-Abelian Bianchi identity"
     A new gauge-invariant color confinement scheme is proposed due to Abelian-like monopoles of the Dirac type corresponding in the continuum limit to violation of the non-Abelian Bianchi identities (VNABI). The simulations done without any additional gauge-fixing show for the first time, in pure SU(3) and SU2, (1) the perfect Abelian dominance , (2) the perfect monopole and (3) Abelian dual Meissner effect. .Existence of the continuum limit with respect to the monopole density is shown beautifully with the help of the block-spin transformation of monopoles and four (SU2) and two (SU3) different smoothing gauges. No gauge dependence is seen among smooth gauges adopted. These results are consistent with the new Abelian picture of color confinement that each one of eight colored electric flux is squeezed by the corresponding colored Abelian-like monopole of the Dirac type corresponding to VNABI.
  17. 大山 修平 (京大基研):"フェルミオンの行列積状態を用いた1+1次元Thoulessポンプ不変量の構成"
     トポロジカル物性において,格子上でshort range entangled状態(SRE状態)と呼ばれる状態のクラスを調べる研究が盛んに行われてきた.特にSRE状態のS^1 familyはgeneralized Thouless pumpと呼ばれる輸送現象を与えると考えられており,この輸送現象を捉える不変量の構成などが研究されている.本発表では相互作用のある1+1次元フェルミオン系のSRE状態に注目し,injective fermionic matrix product state (injective fMPS)を用いてそれらの系におけるgeneralized Thouless pumpの存在を調べる.そのためにまずinjective fMPSの持つ冗長性を決定し,injective fMPSの幾何学的な構造を明らかにする.次にその冗長性を用いてSRE状態のS^1 familyに対する不変量を定義し,その不変量を用いていくつかの模型におけるgeneralized Thouless pumpの存在を調べる.最後に不変量の幾何学的な意味について議論する.なお本発表は塩崎氏・佐藤氏との共同研究 https://arxiv.org/abs/2206.01110 に基づいた内容である.
  18. 金森 逸作 (理研):"2+1 flavor finite temperature domain wall fermion simulation with fine-tuned quark masses"
     QCDの有限温度相転移点付近の振る舞いを調べる現在進行中の JLQCD collaboration によるシミュレーションについて報告する。s-クォークは物理点に固定し、u-,d- クォークの質量は物理単位で固定するようにシミュレーション点を選んでいる。格子化には、カイラル対称性を高い精度で保つメビウス型の domainw fall フェルミオンを用いる。シミュレーション点には、domain wall フェルミオンが持つカイラル対称性の破れとして現れる residual mass が反映されている。
  19. 根村 英克 (京大基研):"ハイペロンを含む核力研究のための格子QCD計算とその実装"
     格子QCD計算(クォークとグルーオンの動力学)にもとづいたバリオン間相互作用の研究が過去約15年にわたって精力的に行われ、最近ではほぼ物理点近傍での数値計算も行われている。一方で、核子(バリオン)を基本自由度とし、散乱位相差や重陽子の束縛エネルギーを再現するように、現象論的核力を精密に決定した上で $^4$He から $^{12}$C などまでの軽い原子核の結合エネルギーが、3核子力を含めてどのように再現できるかが研究されている。これら二つの階層をつなぎ、ストレンジネスを含めたバリオン多体系である軽い原子核(ハイパー核)の精密物理をクォーク・グルーオンの力学に基づいて研究するための取組みについて発表を行う。
  20. 渡邉 真隆 (京大基研):"Lattice, Boundary, and Anomaly"
     I am going to argue that the non-vanishing gravitational anomaly in 2D CFT obstructs the existence of the lattice regularization, generalizing the Nielsen-Ninomiya theorem. I will also argue for the non-existence of the tensor product structure of the Hilbert space in such anomalous CFTs. I will also generalise the theorem to 6D. I might comment on the consequence of the theorem to the computation of entanglement entropy or quantum gravity through AdS/CFT. I will conclude with future directions, touching upon the Villain construction as a counterexample to the global symmetry version of the Nielsen-Ninomiya theorem. I might be able to give you an explicit construction of boundary conditions of the Villain lattice with various preserved symmetry at the boundary.
  21. 渡辺 展正 (KEK):"ラージN理論での部分閉じ込め"
     本発表ではラージNゲージ理論の有限温度系で起こる非閉じ込め相転移と部分閉じ込めについて議論する。部分閉じ込めとは、相転移の過程で自由度がカラー空間において二相共存する現象である。ラージNの理論では、この共存現象はHagedorn相転移とGross-Witten-Wadia相転移という2つの相転移によって特徴づけられることがわかっている。本発表では、Gaussian matrix modelと呼ばれる0+1次元の行列量子力学の具体例を見ながら、部分閉じ込めを議論する背景・動機とその基本的性質、及び解析的・数値的な具体例を紹介する。