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Research | 天羽 将也

A
弱い宇宙検閲官仮説

弱い宇宙検閲官仮説は,物理的な条件のもとで重力崩壊によって生じる特異点は常に事象の地平面内に隠され,したがってこの地平面の外にいる観測者にとって時空の予測可能性が維持されることを主張する.この仮説は,一般相対性理論で裸の特異点が物理法則の決定論的な性質を損なうことを防ぐ役割を果たす.

極限Kerrブラックホール(\(J=M^2\))には,どんなに高い軌道角運動量を持った点粒子(質量 \(\delta M\),軌道角運動量 \(\delta J\))を投げ入れても超回転Kerrブラックホール(\(J+\delta J>(M+\delta M)^2\))を形成できず,弱い宇宙検閲官仮説を支持することが古くから知られている(Wald 1974).このことは,\(\delta M\)に対して\(\delta J\)が大きすぎると点粒子は大きな遠心力によってブラックホールに落ちることができないためである.

本研究では,近年ブレーンワールドホログラフィーの文脈において注目されている3次元量子BTZ時空を拡張し,その計量に同様の議論を適用することで,弱い宇宙検閲官仮説の破れが示唆されることを確認した.従来の量子BTZ時空については弱い宇宙検閲官仮説を支持する結果が得られている.3次元量子BTZ時空の計量パラメータの範囲を拡張した拡張量子BTZ時空を新しく考え,その極限回転解に粒子を投げ入れた結果,ホライズンが消滅して裸の特異点が出現した.ただし,これらの研究では粒子を投げ入れる際に発生しうる重力波の効果や自己力の寄与を無視しているため,これらを適切に考慮するとホライズンが破壊されない可能性があることに留意する.

B
拡張ブラックホール熱力学

近年注目を集めている宇宙項入りブラックホール熱力学において,宇宙項の自由度に対応した熱力学的体積という物理量が重要な役割を担うことが明らかにされているが,その性質は未解明のところが多い. 論文 [Cvetič et al. 2011] において,一般にブラックホールのエントロピー \(S\), 熱力学的体積 \(V\) の間に \( 9\pi\,V^2 - 16\,S^3 \ge 0 \) という関係が成り立つことが提唱された(逆等周不等式予想,Reverse Isoperimetric Inequality Conjecture).この予想はエントロピーの最大値を与えることから,どのような解が熱力学的に最も安定であるかの理解に繋がる.
→逆等周不等式予想の詳細の説明PDFへのリンク

我々の研究 [Amo et al., Phys. Rev. Lett. (2023)] では,角運動量を用いて逆等周不等式予想を改良し,4つのパラメータ(質量 \(M\),エントロピー \(S\),熱力学的体積 \(V\),角運動量 \(J\))について,\( 9\pi\,M^2\,V^2 - 16\,M^2\,S^3 - 16\pi^3\,J^4 \ge 0 \) という不等式が成り立つという予想を立てた.一般相対性理論の枠組みで許される様々なブラックホール解について検証を行い,それら全てについて我々の予想が正しいことを確かめた.エントロピーは広く注目されている概念であるため,本研究は古典重力から超ひも理論,量子情報まで,多くの分野で関連性を持ち,学際的な新しい研究の道を開く可能性を持つ.

C
無限遠近傍における時空の幾何学量の漸近展開

一般相対性理論では,重力の影響によって無質量粒子ですら 測地線方程式 という数式にしたがって曲げられることが知られている.重力が弱いほどその軌道は曲げられにくいことから,無限遠近傍から強重力天体の無い方向に放った無質量粒子はすべて,無限に時間が経てば無限遠まで届くと考えられてきた.我々は,測地線方程式を無限遠近傍解析的に評価し,4次元時空でのみ無限遠に到達しない可能性がある,という非自明な性質を導き [Amo et al., Phys. Rev. D (2021)],無質量粒子が無限遠に到達するための条件の幾何学的意義を明らかにした [Amo et al., Phys. Rev. D (2022)].

本研究の特色は,無質量粒子の軌道の無限遠近傍の近似展開の手法を開発し,無質量粒子が無限遠に到達するための十分条件を示した点である.特に,近似の主要項に4次元時空の場合のみ重力の影響が寄与することを解明した点は,我々の住む4次元時空の特殊性を示すものである.

D
光子球面の一般化

近年Event Horizon Telescope によりブラックホールの影が撮影され,今後も様々な謎の解明が期待されている.静的・球対称な時空では,光子球面(ブラックホールの周りを回り続ける光の軌道の集まりがなす球面)がブラックホールの影の境界をなすため,理論・観測両方において光子球面が注目を集めている.しかし,実際のブラックホールでは静的・球対称という条件は成り立たないため,一般の時空では従来の光子球面の定義が適用できない.この問題を解決すべく,光子球面の定義を改良する概念を構築し,その性質を探査する研究を行った.

光子球面の課題の解決にあたって,ダークホライズンという概念を新しく導入すれば解決できると考えた [Amo et al., Eur. Phys. J. C (2024)].ダークホライズンとは,我々が開発した独自の概念で,光子球面の一般化となっており,かつ光源の運動を反映した定義である.我々は,ブラックホール時空におけるダークホライズンの存在定理を,物理的に妥当な条件の下で証明した.また,現実的な時空モデルでダークホライズンの形をプロットし,ダークホライズンが光源の運動の影響を反映した概念であることを明らかにした.ダークホライズンは,現実的で厳密に定義され,光源の運動の影響も取り入れていることから,現実に即した概念であることを期待している.