物質が示す多彩な現象を理論的手法を用いて研究しています. 現在の主な研究テーマは,固体中のディラック電子が示す トポロジカル効果や輸送現象, 銅酸化物高温超伝導体などの強相関電子系における超伝導機構の解明, ボース・アインシュタイン凝縮を用いたブラックホール アナロジー系などです. 佐野助教は、非線形物理学・非平衡統計物理学を専門としています。 (研究内容の詳細)

固体中のディラック電子

2010年のノーベル物理学賞 をGeimとNovoselovが受賞しました. 彼らは世界で初めて,1つの層だけからなるグラファイト, グラフェンを実現したのです. グラフェンでは,電子の運動は相対論的ディラック方程式で 記述されます.通常,固体中の電子の速度は光速に比べると遅く, 非相対論的近似で十分です.学部で習うシュレーディンガー方程式を 適用すれば事足ります. しかし,グラフェンの電子には適用できません. 電子のエネルギー分散が線形になっており, ディラック方程式による記述が不可欠なのです. 同様のディラック電子系として,有機導体で実現する系があります. 当研究室では,有機導体系および鉄系超伝導体で現れるディラック電子の 輸送現象を研究しています. ( 日本物理学会2010年秋季大会、大阪府立大学中百舌鳥キャンパス でのスライド(招待講演))

鉄系超伝導体の反強磁性相で現れるDirac電子

銅酸化物高温超伝導

1986年,スイスのIBM研究所のBednorzとMüllerが銅酸化物の超伝導体を 報告しました.この最初の報告では超伝導転移温度は約30Kでしたが, その後,同種の系で液体窒素温度を初めて突破する超伝導体が見つかり 現在,高圧下で164Kの超伝導体が実現しています.銅酸化物高温超伝導体 を除いたとき,2番目に高い転移温度を持つのは鉄系超伝導体ですが 最高で55Kです.発見以来,世界全体を巻き込んで精力的な研究がなされて 来ましたが,銅酸化物高温超伝導の理論は未だ確立していません. この難問に対して,当研究室ではスカーミオン理論 を提唱しています.この理論の現時点でのレビューを The Multifaceted Skyrmion (World Scientific, 2010) Eds. G.E. Brown and M. Rho. の13章に書きました.( T.Morinari, Half-Skyrmion theory for high-temperature superconductivity:arXiv:0908.3385) 現在,スカーミオンの微視的な形成機構の解明と, スカーミオン励起描像による現象論によって様々な実験を説明する 相補的な2つのアプローチによってスカーミオン理論の確立を 目指しています.

銅酸化物高温超伝導体のホール周りに形成さえるskyrmion

ボース・アインシュタイン凝縮を用いたブラックホールアナロジー

ブラックホールというと,何でも吸い込んでしまうというのが 一般的なイメージです.しかし,ブラックホールから 量子効果によって わずかながら輻射が出ているということをホーキングが予言しました. しかし,宇宙にブラックホールがあったとしてもこの輻射による 温度はnKのオーダーになってしまいます.宇宙背景輻射の 温度スケールが3Kなので,実際に実験的に検証する事は絶望的です. ところが,このホーキング輻射の物理の本質が量子流体を用いて 検証できる可能性があります. ブラックホール中での量子場と, 超音速で流れる流体でのゆらぎとが,同じ方程式に従うのです. (わかりやすい解説として, 阪上雅昭,大橋 憲「流体でのHawking輻射」物性研究 76, 328 (2001). があります.) 冷却原子系のボース・アインシュタイン凝縮体を用いた ホーキング輻射検証の可能性を数値シミュレーションを用いて 研究しています. (「熱場の量子論とその応用」(於基礎物理学研究所,2010年)会議録(招待講演))

量子流体を用いたblack holeアナロジー系でのHawking輻射. Planck分布に従う粒子生成が起きていることを示す数値シミュレーション結果

その他

他にも多層系超伝導体,ν=5/2の分数量子ホール系の研究などを 手がけています. テーマについては間口を広くとって,様々な研究を展開しています.