皆様

基礎物理学研究所は、2022年4月に所内に「重力量子情報研究センター」を新たに設置しました。

基礎物理学研究所は、発足以来、理論物理学すべての分野をカバーする国内唯一の共同利用研、現在は共同利用・共同研究拠点として、我が国の物理学の発展に大きな貢献をしてきました。古くは我が国の宇宙物理学や生物物理学の創成に中心的役割を果たし、また、2016年4月には重力物理学研究センターを設置し、「重力」をキーワードに所の研究領域・内容をさらに充実させ、物理学の新展開を目指しました。近年、量子技術の基礎となる「量子情報」が重力理論のミクロな本質を解明する糸口になることが判明するなど、「物理学と量子情報の分野融合」が物理学の将来を拓く鍵として注目を集めています。基礎物理学研究所は、2018年に新たに量子情報理論分野を立ち上げ、また、2020年には学内部局連携組織である「研究連携基盤・量子情報ユニット」の幹事部局となるなど、この新たな方向性に対応してきましたが、理論物理学全分野に量子情報分野が加わった当研究所の強みを活かし、物理学と量子情報の異分野融合研究を行う国内初の拠点として、新たに「重力量子情報研究センター」を設置しました。

ご存じのように、20世紀の物理学の2つの柱である量子力学と一般相対性理論の発展は、自然科学だけでなく、我々の社会にもさまざまな影響を及ぼしています。しかしながら、宇宙がどのように無から誕生したかという「宇宙創成」など物理学の究極の問題を解明するには、量子論と一般相対論を融合した「量子重力理論」の構築が必要ですが、これは未に成功していない大問題で、既存の物理学の枠組みでは解決が困難に思われています。ところが、最近の研究で、ミクロな世界の情報を意味する「量子情報」がこの難問を解決する鍵であることが判明してきており、重力理論の宇宙が量子情報から創発するという研究成果につながっています。また、物性物理学においてもトポロジカル物質の研究でその重要性が認識され、さらに、トポロジカル物質が量子計算機の素材開発や量子計算の理論的研究にも密接に関連することがわかってきています。

「重力量子情報研究センター」は、このような状況を踏まえ、基礎物理学研究所の今後の発展に不可欠である「理論物理学」と「量子情報」との分野融合研究を促進すると同時に、物理学の理論的研究から量子情報やその応用である量子技術への重要な貢献を行うという双方向の活動を目的として発足しました。

本センターでは、上の目的のため、国内外の幅広い研究機関等と連携しつつ広範囲の理論物理学及び量子情報における国際共同研究を進め、異分野融合の国際交流拠点を構築することを目指しています。そのためのプログラムも順次整備していく予定です。

皆様へは本センターの諸事業への参加はもちろんのこと、本センターをはじめとする基礎物理学研究所の諸事業へのご助言やご支援もよろしくお願いいたします。

2022年4月 青木 愼也