Notes on Judaism

 

モーセ Mose / BC16 or 13世紀

ユダヤ教の教祖。地中海文明の源泉であるエジプトより現れたという伝承がある。トーラー(Torah)(=ヘブライ語で「指示する」「教える」を意味する動詞から派生したもの)を残した。

モーセの十戒 ➡ [参考リンク]

出エジプト後、シナイ山の山頂でモーセが神から授けられたとされる。

  1. 他の神を信じてはならない
  2. 偶像を作ってはいけない
  3. 神の名をみだりに唱えるな
  4. 週の7日目を安息日とせよ
  5. 父母を敬うこと
  6. 殺してはならない
  7. 姦淫してはならない
  8. 盗んではならない
  9. 偽証してはならない
  10. 人の物を欲しがるな

トーラー

書物としてのトーラーは「モーセの五書」でありヘブライ語で書かれている。『旧約聖書』とも呼ばれる。

『創世記』Genesis ➡ [外部リンク]

神(創造主)であるヤハウェが天地を創造し、イスラエルの民がエジプトに移住するまでの物語。

登場人物
名前 説明
ノア洪水で生き残った
アブラハム神からカナンの地を与えられた
イサク、イシュマエルアブラハムの息子
エサウ、ヤコブ(イスラエルと改名)イサクの双子の息子
ヨセフヤコブの息子でエジプトに移住

ヤハウェ YHWH

神=世界の創造主。子音4つを並べて表記される。

創造主の呼称
言語 表記 読み 補足
ヘブライ語 יהוה ヤハウェ 今日のユダヤ人は「アドナイ(我が主)」とも呼ぶ。
セム語/アッカド語/アラビア語 ’ēl/’ilu/ilāh エル/イル/イラーフ ミカエル、ガブリエル、ラファエルなどの天使の呼称に含まれる。
英語 Jehovah エホヴァ(エホバ)

天地創造

ヤハウェは世界を七日間で創造した。

天地創造の一週間
第x日 創造物 神の発言 (創世記 - 章1)
天と地、光と闇 「光あれ」
大空 「水の間におおぞらがあって、水と水とを分けよ」
陸、海、草木 「天の下の水は一つ所に集まり、かわいた地が現れよ」「地は青草と、種をもつ草と、種類にしたがって種のある実を結ぶ果樹とを地の上にはえさせよ」
太陽、月、星 「天のおおぞらに光があって昼と夜とを分け、しるしのため、季節のため、日のため、年のためになり、天のおおぞらにあって地を照らす光となれ」
水棲動物、鳥 「水は生き物の群れで満ち、鳥は地の上、天のおおぞらを飛べ」「生めよ、ふえよ、海の水に満ちよ、また鳥は地にふえよ」
陸上動物、人間 「地は生き物を種類にしたがっていだせ。家畜と、這うものと、地の獣とを種類にしたがっていだせ」「われわれのかたちに、われわれにかたどって人を造り、これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう」「生めよ、ふえよ、地に満ちよ、地を従わせよ。また海の魚と、空の鳥と、地に動くすべての生き物とを治めよ」
なし(安息日) 第七日を祝福して聖別し創造のわざを終って休まれた。

アダム Adam

神ヤハウェによって土から創られた人間、男性。聖書では名前が付けられていない。

神は土のちりで人を造り、命の息をその鼻に吹きいれられた。そこで人は生きた者となった。(創世記 - 章2)

(SY comment)
妻のイヴとともにしばしば最初の人間とする記述があるが、厳密に言えば旧約聖書においてアダムとイブは最初の人間ではなく天地創造6日目にして神ヤハウェは人間を造っている。ユダヤ教においてはアダムはユダヤ人の祖であり、その他の人間は命の息を吹き入れられておらず本当の理性を持たない人(ゴイム)とされるようである(cf. [外部リンク])。

(SY comment II)
旧約聖書の一部(大洪水ノアの箱舟の話など)はギルガメシュ叙事詩に原型があることが知られているが、ユダヤ人の祖であるアダムが神ヤハウェによって土から創られた、という部分もギルガメシュ叙事詩における、ギルガメシュと行動を共にする英雄エンキドゥが大地の女神アルルによって粘土から造られた、という部分とよく似ている。このエンキドゥはギルガメシュから送り込まれた娼婦によって人間の衣食住の作法を教わるが、この娼婦の役割を旧約聖書ではイヴが果たしている。(2019/8/29記)

エデンの園

アダムに与えられた土地。

神は東のかた、エデンに一つの園を設けて、をそこに置かれた。...これ(SY:エデン)を耕させ、これを守らせられた。(創世記 - 章2)

善悪を知る木

神ヤハウェが食べてはいけないとした木。

神は、見て美しく、食べるに良いすべての木を土からはえさせ、更に園の中央に命の木と、善悪を知る木とをはえさせられた。...神はその人に命じて言われた、「あなたは園のどの木からでも心のままに取って食べてよろしい。しかし善悪を知る木からは取って食べてはならない。それを取って食べると、きっと死ぬであろう」(創世記 - 章2)

イヴ Eve

アダムの妻。神ヤハウェが他の動物を土から創った後、アダムの骨からイヴを創られた。

「人がひとりでいるのは良くない。彼のために、ふさわしい助け手を造ろう」...神は人を深く眠らせ、眠った時に、そのあばら骨の一つを取って、その所を肉でふさがれた。主なる神は人から取ったあばら骨でひとりの女を造り、人のところへ連れてこられた。...それで人はその父と母を離れて、妻と結び合い、一体となるのである。人とその妻とは、ふたりとも裸であったが、恥ずかしいとは思わなかった。 (創世記 - 章2)

アダムの妻の呼称
言語 表記 読み 補足
ヘブライ語 חַוָּה ハヴァ 「生きる者」「生命」を意味する。
英語 Eve イヴ(エヴァ)

原罪

イヴは蛇との会話を通じて善悪を知る木の実が危険でないことを知り、神ヤハウェとの約束を破り夫のアダムとともにそれを食べてしまう。

へびは女に言った、「園にあるどの木からも取って食べるなと、ほんとうに神が言われたのですか」。女はへびに言った、「わたしたちは園の木の実を食べることは許されていますが、ただ園の中央にある木の実については、これを取って食べるな、これに触れるな、死んではいけないからと、神は言われました」。へびは女に言った、「あなたがたは決して死ぬことはないでしょう。それを食べると、あなたがたの目が開け、神のように善悪を知る者となることを、神は知っておられるのです」。女がその木を見ると、それは食べるに良く、目には美しく、賢くなるには好ましいと思われたから、その実を取って食べ、また共にいた夫にも与えたので、彼も食べた。すると、ふたりの目が開け、自分たちの裸であることがわかったので、いちじくの葉をつづり合わせて、腰に巻いた。(創世記 - 章3)

神罰失楽園

二人は約束を破ったことを神ヤハウェに知られてしまい罰として楽園を追放される。

...園の中に主なる神の歩まれる音を聞いた。そこで、人とその妻とは主なる神の顔を避けて、園の木の間に身を隠した。主なる神は人に呼びかけて言われた、「あなたはどこにいるのか」。彼は答えた、「園の中であなたの歩まれる音を聞き、わたしは裸だったので、恐れて身を隠したのです」。(創世記 - 章3)

(SY comment)
裸だったからというよりかは悪いことをしたことを自覚しているから隠れたのである。

神は言われた、「あなたが裸であるのを、だれが知らせたのか。食べるなと、命じておいた木から、あなたは取って食べたのか」。人は答えた、「わたしと一緒にしてくださったあの女が、木から取ってくれたので、わたしは食べたのです」。そこで主なる神は女に言われた、「あなたは、なんということをしたのです」。女は答えた、「へびがわたしをだましたのです。それでわたしは食べました」。(創世記 - 章3)

(SY comment)
はへびからだまされたと言っているが、実際にはへびは騙してはいない。質問をして事実を教えただけである。

神罰の内容
対象 神の発言 (創世記 - 章3)
へび 「...すべての家畜、野のすべての獣のうち、最ものろわれる。おまえは腹で、這いあるき、一生、ちりを食べる...。彼はおまえのかしらを砕き、おまえは彼のかかとを砕く...」
イブ 「...産みの苦しみを大いに増す。あなたは苦しんで子を産む。それでもなお、あなたは夫を慕い、彼はあなたを治めるであろう」
アダム 「...地はあなたのためにのろわれ、あなたは一生、苦しんで地から食物を取る。地はあなたのために、いばらとあざみとを生じ、あなたは野の草を食べるであろう。あなたは顔に汗してパンを食べ、ついに土に帰る、あなたは土から取られたのだから。あなたは、ちりだから、ちりに帰る」。

カインとアベル Cain & Abel

楽園追放後、アダムとイブの下にカインとアベルが産まれ、兄カインは羊飼いになり、弟アベルは農業者となった。

カインのアベル殺害

二人は神ヤハウェにお供え物をしたがアベルのものだけが喜ばれたのでカインは怒りアベルを殺害する。

日がたって、カインは地の産物を持ってきて、主に供え物とした。アベルもまた、その群れのういご(SY:赤子)と肥えたものとを持ってきた。主はアベルとその供え物とを顧みられた。しかしカインとその供え物とは顧みられなかったので、カインは大いに憤って、顔を伏せた。そこで主はカインに言われた、「なぜあなたは憤るのですか、なぜ顔を伏せるのですか。正しい事をしているのでしたら、顔をあげたらよいでしょう。...」(創世記 - 章4)

カインへの神罰

神ヤハウェはカインが呪われており土地を耕しても実を結ばないことを告げ、エデンを離れ地上の放浪者となるよう迫る。殺害されることを恐れるカインに対し、神ヤハウェはカインを殺す者は七倍の復讐を受けるようしるしをつける。

カインはその後エデンの東ノドの地に移り住み、多くの子孫を残す。

神罰大洪水

人口が増大し人々の心が悪事で満たされていることを神ヤハウェが知り人を造ったことを後悔し全てを大洪水で滅ぼすことを決意する。

主は人の悪が地にはびこり、すべてその心に思いはかることが、いつも悪い事ばかりであるのを見られた。主は地の上に人を造ったのを悔いて、心を痛め、「わたしが創造した人を地のおもてからぬぐい去ろう。人も獣も、這うものも、空の鳥までも。わたしは、これらを造ったことを悔いる」(創世記 - 章6)

(SY comment)
大洪水と箱舟の話はギルガメシュ叙事詩に由来があることから恐らくチグリス・ユーフラテス川の大氾濫をmotifにしているものと推察される。

洗礼 英: baptism 希: baptisma

神罰大洪水の物語から洪水は神が人間を裁く象徴となり、水に体を浸し清めをする洗礼の儀式へと発展した。

ノア Noah

アダムから数えて10代目の子孫。敬虔(神ヤハウェに従順)であった。

ノアの箱舟

神ヤハウェはノアにその決意を伝え、箱舟を作って妻、子(セム、ハム、ヤペテ)、あらゆる動物の雄と雌の一対を入れて洪水から逃れるよう指示する。

...神はノアに言われた、「...あなたは、いとすぎの木で箱舟を造り、箱舟の中にへやを設け、アスファルトでそのうちそとを塗りなさい。その造り方は次のとおりである。すなわち箱舟の長さは三百キュビト、幅は五十キュビト、高さは三十キュビトとし、箱舟に屋根を造り、上へ一キュビトにそれを仕上げ、また箱舟の戸口をその横に設けて、一階と二階と三階のある箱舟を造りなさい。...あなたは子らと、妻と、子らの妻たちと共に箱舟にはいりなさい。またすべての生き物、すべての肉なるものの中から、それぞれ二つずつを箱舟に入れて、あなたと共にその命を保たせなさい。それらは雄と雌とでなければならない。...」(創世記 - 章6)

その七日後、四十日間雨が降り百五十日間地上は水で満たされ箱舟の外にいた生きとし生けるものは全てぬぐい去られた。箱舟は七月十七日にトルコ東部にあるアララテの山(Ararat)にとどまった。

(SY comment)
ギルガメシュ叙事詩/矢島文夫著』によれば該当部分は第十一の書板に書かれており、エンキドゥの死によって自己の死の運命と向き合い永遠の生命を求めるようになったギルガメシュは、これまでにただ一人不死を得たとされる聖王ウトナピシュティムを訪ねあてると、彼から過去の洪水の物語を聞かされる。洪水を予言し船を造ることをウトナピシュティムに告げたエア神の言葉は次のようである:「...家を打ち壊し、船を造れ。持ち物をあきらめ、お前の命を求めよ。品物のことを忘れ、お前の命を救え。すべての生き物の種子を船へ運べ。お前が造るべきその船はその寸法を定められた通りにせねばならぬ。その間口とその奥行きは等しくせねばならぬ。アプスーを覆いかぶせる。(『ギルガメシュ叙事詩/矢島文夫著』)」エア神の助言を忠実に実行したウトナピシュティムはノア同様に生きながらえたのだった。

虹の契約

二月二十七日になって地が乾くと神ヤハウェはノアに箱舟から出るよう指示する。ノアは箱舟から出ると祭壇を築いてお供え物をする。そして神は洪水によって人を滅ぼさないことを契約しそのしるしに虹を置く。

神はノアとその子らとを祝福して彼らに言われた、「生めよ、ふえよ、地に満ちよ。地のすべての獣、空のすべての鳥、地に這うすべてのもの、海のすべての魚は恐れおののいて、あなたがたの支配に服し、すべて生きて動くものはあなたがたの食物となるであろう。さきに青草をあなたがたに与えたように、わたしはこれらのものを皆あなたがたに与える。しかし肉を、その命である血のままで、食べてはならない。あなたがたの命の血を流すものには、わたしは必ず報復するであろう。いかなる獣にも報復する。兄弟である人にも、わたしは人の命のために、報復するであろう。人の血を流すものは、人に血を流される、神が自分のかたちに人を造られたゆえに。 ...」(創世記 - 章9)

(SY comment)
肉のくだりはユダヤ教の食物規定(コーシェル)やイスラム教のそれ(ハラール)と関係するのだろう。

...神は言われた、「これはわたしと、あなたがた及びあなたがたと共にいるすべての生き物との間に代々かぎりなく、わたしが立てる契約のしるしである。すなわち、わたしは雲の中に、にじを置く。これがわたしと地との間の契約のしるしとなる。わたしが雲を地の上に起すとき、にじは雲の中に現れる。こうして、わたしは、わたしとあなたがた、及びすべて肉なるあらゆる生き物との間に立てた契約を思いおこすゆえ、水はふたたび、すべて肉なる者を滅ぼす洪水とはならない。」(創世記 - 章9)

バベルの塔

虹の契約の後ノアの一族は神ヤハウェの「生めよ、ふえよ、地に満ちよ。」の言葉に従い子孫を増やした。

(SY comment)
ノアの一族の中には(2019年4月現在)ガザに居住制限されているアラブ人の起源であるペリシテ族も含まれている。

人々は東シナルの地に平野を得てそこに住むと、石の代りにレンガを、しっくいの代りにアスファルトを造る術を学びそれによって町と塔とを建ててそれを天に届かせようとした。その企てを見た神ヤハウェは快しとせず人々の言葉を乱して互に言葉が通じないようにすると、彼らは町を建てるのを中断し世界へ散らばっていった。このことからこの町は「バベル」と呼ばれた。

バビロン

バベル(Babel)の町の名前はヘブライ語の"balal(混乱)"から取られたとされメソポタミアバビロンを指し、バベルの塔はジッグラトを指すものと考えられている。

アブラム -> アブラハム Abram -> Abraham

ノアから10代目に当たる子孫。メソポタミアのウルから現トルコのハランに移りそこで神ヤハウェによってカナンの地に導かれその地を与えられる。このことからカナンは「約束の地」とも呼ばれる。代表的アラム人で「ユダヤ教の父」とされる。

時に主はアブラムに言われた、「あなたは国を出て、親族に別れ、父の家を離れ、わたしが示す地に行きなさい。わたしはあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福し、あなたの名を大きくしよう。あなたは祝福の基となるであろう。あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたをのろう者をわたしはのろう。地のすべてのやからは、あなたによって祝福される。」(創世記 - 章12)

後に神ヤハウェによってアブラハムに改名されることを告げられる。

「わたしはあなたと契約を結ぶ。あなたは多くの国民の父となるであろう。あなたの名は、もはやアブラムとは言われず、あなたの名はアブラハムと呼ばれるであろう。わたしはあなたを多くの国民の父とするからである。わたしはあなたに多くの子孫を得させ、国々の民をあなたから起そう。また、王たちもあなたから出るであろう。わたしはあなた及び後の代々の子孫と契約を立てて、永遠の契約とし、あなたと後の子孫との神となるであろう。わたしはあなたと後の子孫とにあなたの宿っているこの地、すなわちカナンの全地を永久の所有として与える。そしてわたしは彼らの神となるであろう」。 (創世記 - 章17)

割礼 circumcision

男性の性器の包皮の前部を切除すること(包茎手術)で神ヤハウェとの契約のしるしになる。

神はまたアブラハムに言われた、「あなたと後の子孫とは共に代々わたしの契約を守らなければならない。あなたがたのうち男子はみな割礼をうけなければならない。これはわたしとあなたがた及び後の子孫との間のわたしの契約であって、あなたがたの守るべきものである。...割礼を受けない男子、すなわち前の皮を切らない者はわたしの契約を破るゆえ、その人は民のうちから断たれるであろう」。(創世記 - 章17)

(SY comment)
割礼は2019年現在でもアジアやアフリカ、特にユダヤ教やイスラム教を信仰する国々で広く行われている。(cf [外部リンク])

神罰疫病

アブラムは妻サライと弟の子ロトらと共にカナンの地に移住しネゲブに移ったとき飢饉が起きたためエジプトに寄留する。エジプトに近づいた時アブラムは妻サライに、妻ではなく妹だと偽るよう伝える。それによりアブラムが殺されてサライが略奪されることを防ぐためであるという。エジプトのパロ(ファラオ)は美しいサライを招き入れアブラムを厚くもてなす。その事態を望まない神ヤハウェは激しい疫病をパロの家に下す。そしてサライはアブラムの妻であることがパロに知られてしまい家を追い出される。

神罰大噴火

アブラムはロトと共にカナンの地に戻る。彼らは多くの財産をもち彼らの牧者たちの間で争いがあり離別し、アブラムはカナンの地に留まり、ロトは死海周辺のソドムに天幕を張り拠点とする。しかしソドムの人々は罪悪にまみれていたため神ヤハウェはソドムとゴモラを滅ぼすことを決意する。

主はまた言われた、「ソドムとゴモラの叫びは大きく、またその罪は非常に重いので、わたしはいま下って、わたしに届いた叫びのとおりに、すべて彼らがおこなっているかどうかを見て、それを知ろう...もしソドムで町の中に五十人の正しい者があったら、その人々のためにその所をすべてゆるそう」。(創世記 - 章18)

アブラハムは神に50人から10人に負けてくれるよう箴言すると受け入れられた。ロトの下に神の使いが二人行くと、町の住人は使いだけでなく使いを守ろうとするロトにまでも暴力を加えようとする。その様子を直に目撃した神の使いは神罰は避けられれないと考えロトに家族共々街を離れるよう伝える。そしてロトがゾアルに着くと神罰が実行された。

主は硫黄と火とを主の所すなわち天からソドムとゴモラの上に降らせて、これらの町と、すべての低地と、その町々のすべての住民と、その地にはえている物を、ことごとく滅ぼされた。しかしロトの妻はうしろを顧みたので塩の柱になった。(創世記 - 章18)

ロト親子はほら穴の中に住み二人の娘はロトの子を身ごもりモアブ人の先祖とアンモン人の先祖となる子を産んだ。

サライとハガルの確執 Sarai & Hagar

一方、アブラムとサライの間には子が出来なかったため、サライはアブラムにエジプト人召使いのハガルと子をもうけるよう促すとアブラムは聞き入ってハガルはアブラムの子を孕む。するとハガルはサライを見下すようになったため、サライはそのことをアブラムに訴えると、アブラムは「あなたのつかえめはあなたの手のうちにある。あなたの好きなように彼女にしなさい」と伝えサライはハガルに辛く当たる。

エル・ロイ (EL ROI: 見ておられる神)

ハガルは逃げ出すとの使いが現れ「...あなたはどこからきたのですか、またどこへ行くのですか」とハガルに問いハガルがサライから逃げ出してきた旨を述べると、「あなたは女主人のもとに帰って、その手に身を任せなさい...わたしは大いにあなたの子孫を増して、数えきれないほどに多くしましょう」と伝える。さらに続けて「あなたは、みごもっています。あなたは男の子を産むでしょう。名をイシマエルと名づけなさい。主があなたの苦しみを聞かれたのです。彼は野ろばのような人となり、その手はすべての人に逆らい、すべての人の手は彼に逆らい、彼はすべての兄弟に敵して住むでしょう」と伝える。ハガルはの使いを「エル・ロイ(見ておられる神)」と呼びその言葉に従いサライの下に戻りイシマエルを産む。

イシマエルとイサク Ishmael & Isaac

イシマエル(イスマイール)はアブラムとエジプト人召使いハガルとの間に生まれた子でアラブ人の祖と考えられている。その一方、イサクはアブラハムが99歳の時にサラとの間にの思し召しによってできた子である。

神はまたアブラハムに言われた、「あなたの妻サライは、もはや名をサライといわず、名をサラと言いなさい。わたしは彼女を祝福し、また彼女によって、あなたにひとりの男の子を授けよう。わたしは彼女を祝福し、彼女を国々の民の母としよう。彼女から、もろもろの民の王たちが出るであろう」。アブラハムはひれ伏して笑い、心の中で言った、「百歳の者にどうして子が生れよう。サラはまた九十歳にもなって、どうして産むことができようか」。そしてアブラハムは神に言った、「どうかイシマエルがあなたの前に生きながらえますように」。神は言われた、「いや、あなたの妻サラはあなたに男の子を産むでしょう。名をイサクと名づけなさい。わたしは彼と契約を立てて、後の子孫のために永遠の契約としよう。またイシマエルについてはあなたの願いを聞いた。わたしは彼を祝福して多くの子孫を得させ、大いにそれを増すであろう。彼は十二人の君たちを生むであろう。わたしは彼を大いなる国民としよう。しかしわたしは来年の今ごろサラがあなたに産むイサクと、わたしの契約を立てるであろう」。(創世記 - 章17)

ハガルとイシマエルの追放

イシマエルとイサクが乳離れし仲良く遊ぶ姿を見てサラはハガルとハガルの子イシマエルを追い出すようアブラハムに言うとアブラハムは彼らを心配するもはサラの言葉を聞き入れるよう告げる。

神はアブラハムに言われた、「あのわらべのため、またあなたのはしためのために心配することはない。サラがあなたに言うことはすべて聞きいれなさい。イサクに生れる者が、あなたの子孫と唱えられるからです。しかし、はしための子もあなたの子ですから、これをも、一つの国民とします」。そこでアブラハムは明くる朝はやく起きて、パンと水の皮袋とを取り、ハガルに与えて、肩に負わせ、その子を連れて去らせた。(創世記 - 章21)

ハガルはベエルシバの荒野を彷徨い皮袋の水が尽きると子イシマエルの死を予感し置き去りにする。子が泣き出すと神の使いが現れハガルに再び抱いて連れていくよう促す。するとハガルは水の井戸があるのを見い出し皮袋に水を満たして飲ませイシマエルは成長していった。

試練:イサクの生贄化

ハガルとイシマエル追放の後、はアブラハムを試すためイサクを山へ連れていって生贄として捧げるよう命じアブラハムはそれに従う。

アブラハムは生贄のたきぎを取って、その子イサクに負わせ、手に火と刃物とを執って、ふたり一緒に行った。やがてイサクは父アブラハムに言った、「父よ」。彼は答えた、「子よ、わたしはここにいます」。イサクは言った、「火とたきぎとはありますが、生贄の小羊はどこにありますか」。アブラハムは言った、「子よ、神みずから生贄の小羊を備えてくださるであろう」。...彼らが神の示された場所にきたとき、アブラハムはそこに祭壇を築き、たきぎを並べ、その子イサクを縛って祭壇のたきぎの上に載せた。(創世記 - 章22)

アブラハムが刃物を執ってイサクを殺そうとしたその瞬間、の使いが現れ屠るを止めるよう指示し試練は終わる。アブラハムが目をあげると、角をやぶに掛けている一頭の雄羊がおりアブラハムはその雄羊を捕えイサクの代わりに生贄としてささげた。

イサクの嫁: リベカ 英: Rebecca 独: Rebekka 仏: Rébecca

アブラハムの兄弟ナホルの妻ミルカの子ベトエルの娘。愛称はベッキー(Becky)。アブラハムが使いにイサクの嫁を探すよう命じると、使いは旅の途中の井戸で自分とらくだに水を飲ませてくれる女性をイサクの嫁にしようと宣言しようとすると、それを言い終わる前にリベカが水がめを肩に載せて出てきて使いとらくだに水を与えた。使いはリベカを連れていきイサクの妻となった。

エサウとヤコブ Esau & Jacob

イサクとリベカの間に出来た双子。彼らには子供が出来なかったが、妻のためにイサクはに祈り願うと妻リベカは二人をみごもる。

ヤコブの呼称
言語 表記 読み
ヘブライ語 יעקב ヤアコブ
英語 Jacob/James ジェイコブ/ジェームズ
フランス語 Jacques ジャック
ドイツ語 Jakob ヤーコプ
イタリア語 Giacomo/Jacopo ジャコモ/ヤコポ
スペイン語 Jaime/Diego ハイメ/ディエゴ

ところがその子らが胎内で押し合ったので、リベカは言った、「こんなことでは、わたしはどうなるでしょう」。彼女は行って主に尋ねた。主は彼女に言われた、「二つの国民があなたの胎内にあり、二つの民があなたの腹から別れて出る。一つの民は他の民よりも強く、兄は弟に仕えるであろう」。彼女の出産の日がきたとき、胎内にはふたごがあった。...その子らは成長し、エサウは巧みな狩猟者となり、野の人となったが、ヤコブは穏やかな人で、天幕に住んでいた。イサクは、しかの肉が好きだったので、エサウを愛したが、リベカはヤコブを愛した。 (創世記 - 章25)

長子特権の譲渡

エサウは長子で特権を持っていたが、空腹のあまり食べ物と引き換えにそれをヤコブに譲り渡してしまう。

ある日ヤコブが、あつものを煮ていた時、エサウは飢え疲れて野から帰ってきた。エサウはヤコブに言った、「わたしは飢え疲れた。お願いだ。赤いもの、その赤いものをわたしに食べさせてくれ」。彼が名をエドムと呼ばれたのはこのためである。ヤコブは言った、「まずあなたの長子の特権をわたしに売りなさい」。エサウは言った、「わたしは死にそうだ。長子の特権などわたしに何になろう」。ヤコブはまた言った、「まずわたしに誓いなさい」。彼は誓って長子の特権をヤコブに売った。そこでヤコブはパンとレンズ豆のあつものとをエサウに与えたので、彼は飲み食いして、立ち去った。このようにしてエサウは長子の特権を軽んじた。 (創世記 - 章25)

(SY comment)
二人の間にはフィリア(philia)がない。

『出エジプト記』

イスラエルの民たちが飢饉によりエジプトに移住してから300年ほどすると奴隷になったため、モーセに率いられてエジプトを出てシナイ半島で十戒を授かる。

『レビ記』

祭司(レビ)にかかわる書、神ヤハウェがイスラエルの民(祭司)に命じた戒め、律法

『民数記』

出エジプトののち、カナンの手前のモアブに達するまで荒野を40年間さまよった時の出来事をまとめたもの

『申命記』

イスラエルの民がモアブに到着し、そこでモーセが行う告別説教で、出エジプトの旅路を回顧し、約束の地における律法に適った生活を勧告している。

ユダヤ教の特徴

ユダヤ教は一つの「有機体」であり、他の部分と切り離しては考えることができない。

7つの紐

ユダヤ教を一つの紐に例えると、その一つの紐は次のような7本以上からなる別の紐が撚り合わさってできている。

  1. 神ヤハウェ、宇宙、人間についての教え(しかし、特定の教義はない)
  2. 個人と社会に対する道徳観(価値観)
  3. 典礼、習慣、儀式の実践(ユダヤ人のあらゆる生活に関与)
  4. 法体系(宗教法、刑法、民法など)
  5. 聖なる文学(聖書やその他の聖典)
  6. 前記の事柄を具体的に表すための諸制度
  7. イスラエルの民

伝統主義者と近代主義者

伝統主義者は、父祖たちの進行、道徳観、慣習から一歩たりとも逸れることを良しとしないユダヤ人で、近代主義者は近代思想と現在の状況に合わせて変わっていくべきだ、と考える。伝統主義者にとってトーラーとは、すべての物事についての善、倫理、真実を計るために、最初にして最後の信頼できる不変的な基準である。その一方、近代主義者にとってのトーラーとは動物や生物が長い年月をかけて進化していったこと同様に変化し成長していくべきものであると考える。特に、近代主義者はトーラーを別の基準(理性や経験)から見直し、それらと調和する場合のみその部分に権威を認める。いずれにせよ、トーラーは伝統主義者、近代主義者双方にとって「神ヤハウェの啓示」であることに変わりはない。

(SY comment)
このことを日本における「憲法」に置き換えて考えると興味深い。「憲法」を不変なものと位置づける人々(現憲法学者に多い)と「憲法」は時代に即応して変化させていくべきと考える人々に別れる。前者は、憲法に現状と矛盾する部分があってもその条文は不変にしたまま解釈を用いて時代に即応させようとする。

賢者たちが見た「原理」

「自分自身に害となるようなことを、隣人になすなかれ。」

西暦紀元の始まる少し前に生きたイスラエルの賢者であり聖者であったヒレルは、異教徒から片足で立っていられる程の短い間にユダヤ教のすべてについて教えてほしいという挑戦を受けて答えた言葉。この言葉の後に「これが教えの全てである。他は注釈だ。さあ行って学びなさい。」と伝え、学びを促したとされる。

(SY comment)
私は大学の教養時代社会思想史を聴講したことがあり、5、6コマ目ですでにホッブズやジョン・ロックなど様々な思想家が出てきた記憶がある。当時その時点で講義の目的がよくわからなくなり講義後に、『「自分が嫌なことを他人にもしない」ではダメなのか。』と、講師に質問をしたことがある。そのときの講師の最初の返答が「アニメでもよくあるね」という感じで一蹴されてしまった記憶がある。私が返答に窮していると、その講師は、私の考え方は私が生まれた社会に依存しているのだ、ということを付け加えた。

「自分自身を愛するように隣人を愛しなさい。」

二世紀、ヨセフの子アキバというラビが、レビ記に書かれた律法の中に発見した言葉。

「これは人の系図である。神は人を創造された日、神に似せてこれを造られた。」

アキバの同時代の人で同僚でもあったアザイの子シメオンというラビはもう一つの偉大な原理として述べた「創世記」の一節。このことは人間の愛よりも、人間が神と血縁関係にある事を自覚する方がより根源的であると説いた。

ツェダカー

ユダヤ教の倫理システムの一つ。 「憐れみを伴った正義」という意味。この言葉は「正義」を意味する男性名詞「ツェデク」の女性形である。これは「慈善(Charity)」とは異なる。違いは、慈善は義務を超えた寛大な行為であるが、ツェダカーは義務であり、ツェダカーを与えないユダヤ人は不正義の行為を働いていることを意味する。
トーラーは三千年以上前にツェダカーを律法化した。具体的に定めたものは以下の通り。

ツェダカーの額としては自分の蓄積の十分の一が標準的な額。

しかしながら、ツェダカーを受けないように日々努めなければならない。そして他人の援助を受けるよりは欠乏に甘んじるべきである。

ユダヤ教の教えの結論

神と人を同時に愛すること。これはユダヤ教の最初の基本原理であり最終的な結論である。出発点であり、到達点である。ユダヤ教の根であり味である。


主要参考文献・サイト ⇧ top ⇧

WordProject 『聖書日本語』
聖書と歴史の学習館 『旧約』
ミルトン・スタインバーグ 『ユダヤ教の基本』 ユダヤ教の特徴をまとめる際に参考にした。
デニス・ブレガー、ジョーゼフ・テルシュキン 『現代人のためのユダヤ教入門』 同上。