観測的宇宙論と重力波検出
宇宙マイクロ波背景放射などの多くの観測から、宇宙は過去にインフレーションと呼ばれる急激な加速膨張を経験したと考えられており、現在観測される銀河・銀河団からなる宇宙大規模構造は、インフレーション時の量子ゆらぎが起源となって形成・進化したものと説明されています。その考えに従うと、時空のさざ波である重力波も量子ゆらぎにより生成されたはずであり、その痕跡は背景重力波として現在の宇宙にも残っていると考えられています。このような背景重力波を検出できれば、宇宙初期に起こったインフレーションの決定的証拠になるばかりか、宇宙の成り立ちを解明するきわめて重要な手がかりになります。現在各国で計画が進められているレーザー干渉計による直接検出や、宇宙マイクロ波背景放射のB-モード偏光による将来観測に向けて、本分野では背景重力波から初期宇宙の情報を引き出すための基礎理論の構築を進めています。重力波の位相・振幅の統計的情報を活かして、背景重力波の偏極特性、非等方性を検出する方法論などの開発を行い、宇宙初期にまでさかのぼって重力理論をテストする試みを考えています。
また、地上や宇宙レーザー干渉計を用いて将来、遠方の連星中性子星からの重力波が多数観測されると、そうした重力波を「標準音源」として用いることで宇宙膨張の精密測定が可能になると考えられています。本分野では、重力波を宇宙論観測の新たな「目」として活用すべく、このような「標準音源」をもとに、宇宙論パラメーターの高精度推定方法や、重力レンズ効果の影響から宇宙大規模構造を診断する方法論などの開発も進めています。
成果報告
2014年前期
将来の高感度検出器を用いると、宇宙マイクロ波背景放射の偏光観測以外に、重力レンズ効果を通じても宇宙論的背景重力波の検出が可能であることを明らかにした。
最近の研究論文
``Future detectability of gravitational-wave induced lensing from high-sensitivity CMB experiments''
``Geometrical aspects on parameter estimation of stochastic gravitational wave background: beyond the Fisher analysis''
``Cosmology with space-based gravitational-wave detectors --- dark energy and primordial gravitational waves ---''
``Tracing the redshift evolution of Hubble parameter with gravitational-wave standard sirens''
``Measuring a parity violation signature in the early universe via ground-based laser interferometers''
``Probing polarization states of primordial gravitational waves with cosmic microwave background anisotropies''
``Detecting a gravitational-wave background with next-generation space interferometers''
``Probing anisotropies of gravitational-wave backgrounds with a space-based interferemeter III: reconstruction of a high-frequency skymap''