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Volume 36-2
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修士論文
2022年3月29日受理
SU(3)三角格子反強磁性体の非線形シグマ模型による解析
高橋 樹
(京都大学 原子核理論研究室)
概要
2次元空間の格子上に反強磁性的な相互作用をする量子スピン系が配置された模型は、SU(2)スピン系を中心に、ここ40年ほどの間に研究されてきた。反強磁性体の代表的な基底状態には、Néel状態と、valence bond solid (VBS) 状態が挙げられる。ハミルトニアンに含まれるパラメータを変化させると、ゼロ温度で量子揺らぎに起因する量子相転移が起こる。特にNéel-VBS相転移は、古典的な相転移の枠組みでは説明できない直接2次相転移が起き得ることが指摘され、その理論はdeconfined criticalityとして注目を集めている。本研究では、SU(3)スピンが三角格子の格子点上に配置された「SU(3)三角格子反強磁性体」について、モノポールを含む有効理論の構築を行った。Néel状態からの低エネルギー励起の有効理論が、モノポール項を伴う SU(3)/U(1)^2 非線形シグマ模型で記述されることを導出した。SU(2)スピン系で既に指摘されているように、スピン系が格子上で定義されていることの帰結として、モノポール(インスタントン)配位を考慮する必要がある。有効理論に含まれるモノポール項の形は、Berry位相と呼ばれる位相因子から制限を受ける。我々はSU(3)スピン系でスキルミオン配位を構成する方法を考案し、モノポールから生じるBerry位相を具体的に計算することに成功した。その結果、スピン表現に依存して、モノポール項に違いが現れるという、SU(2)正方格子反強磁性体と類似の規則が得られた。相転移点の解析では、理論が持つ対称性とその破れが、重要な役割を果たす。Néel相はスピン回転対称性が、VBS相は格子の対称性が、それぞれ自発的に破れた相に対応する。Berry位相を注意深く調べることにより、格子の対称性変換は、モノポール演算子の位相変換として作用することが明らかになった。さらに、モノポールが凝縮したモノポールガスの半古典的解析によって、特定のスピン表現に対して、モノポール演算子からVBS秩序変数を構成できることを示した。これにより、VBS相はトポロジカル対称性が破れた相としても解釈できる。アノマリーマッチングの議論から、スピン回転対称性とトポロジカル対称性の両方を保つ相は、出現が禁止されることが分かる。以上の結果は、SU(2)正方格子の場合と同様に、deconfined criticalityによるNéel-VBS相間の直接2次相転移の可能性を示唆するものである。
キーワード
量子相転移、モノポール、対称性の破れ