基研研究会「原始惑星系円盤」

於: 京都大学 基礎物理学研究所 日時: 2017年7月10日-12日

7/10 (月)

時間 発表者 講演題目
13:00 - 13:10 開催概要・趣旨説明

Session 1: 円盤物理構造I

13:10 - 13:50 橋本淳 (国立天文台/ABC)
  • 波長1ミクロン程度の近赤外線の円盤観測では、円盤上空のサブミクロンサイズの固体微粒子をトレースするため、円盤表面における円盤構造を観測していると考えられる。アルマ等を用いた電波観測とは異なり、円盤中央平面における固体微粒子の面密度構造を直接観測することはできないものの、20年程度前から0.1秒角程度の空間分解能でハッブル宇宙望遠鏡による観測や補償光学と組み合わせた地上観測が行われてきた。2009年からスタートしたすばる望遠鏡戦略枠観測SEEDSでは、円盤に埋もれた若い惑星と円盤との相互作用で励起された円盤の表面構造を捉えるべく、これまで近赤外線では観測が難しかった半径100AU以内における円盤構造を空間分解能10AU程度で観測を行ってきた。プロジェクトが終了した2015年までに円盤天体は79天体を観測した（フォローアップ等の重複を除く）。SEEDSプロジェクトにおける円盤観測の成果としては主に、(a) ミニスパイラル構造の発見、(b) 電波干渉計で報告された穴構造と大きさが異なること、以上の2点が挙げられる。また、従来の近赤外線観測ではハービッグAeBe型星のような比較的明るい中質量星周りの円盤における微細構造の報告が主だったが、SEEDSでは太陽型星のような小質量星周りの円盤においてもリング円盤やねじれ円盤の検出に成功したことは注目に値するだろう。SEEDS後の最近の近赤外線観測は、極限補償光学と組み合わせた観測がGemini望遠鏡やVLTで行われ、SEEDSでは捉えきれなかったさらに細かい円盤構造が観測され始めている。本講演では、SEEDSでの円盤観測および最近の極限補償光学を用いた円盤観測を概観し、SEEDS後のすばる望遠鏡における円盤観測計画についても言及したい。
13:50 - 14:10 深川美里 (名古屋大学)
  • 原始惑星系円盤のガスの空間分布を理解するには、光学的に薄い分子輝線での高解像度の観測が重要となる。しかし感度の点から、そのような輝線の観測が十分でない天体は多い。講演では、HD 142527の円盤に対する13C18O(3-2)の観測結果を報告する。13C18O(3-2)は円盤の北側で検出され、簡単な解析によれば、ガス・ダスト比＝1～10であるという先行研究での報告に矛盾しない。
14:10 - 14:30 森智宏 (東京大学)
  • 近年、すばる望遠鏡やALMA等を用いた原始惑星系円盤の観測により、円盤の空間的構造が方位角方向・動径方向いずれにおいても非一様である例が多数報告されている。特に遷移円盤における様々な構造は、円盤内部に存在する原始惑星による摂動に起因すると考えられており、惑星形成活動との関係性が示唆されている。本研究では、前主系列星について長期間観測を行い、明るさの変動（変光）から円盤内縁部の構造について調べることを目指した。変光観測は他の手法では分解できない中心星のごく近傍の構造に感度があり、円盤構造の詳細を明らかにできる。最も近い低質量星形成領域の一つであるおうし座領域に存在する前主系列星計16天体について2012~2015年に宇宙科学研究所1.3m望遠鏡で取得されたデータを解析した。その結果、約0.05等級の測光精度で、多くの天体で有意な変光を検出した。得られた光度曲線に対して、変光の変動幅・周期性・波長依存性の観点から議論を行い、変光の由来を調べた。その結果、遷移円盤を持つ２天体（LkCa 15・GM Aur）について円盤ダスト起源と思われる変光を検出し、中心星から0.1~1AUの領域に、非一様なダスト構造が存在することが分かった。これらの天体は、過去の観測によって中心星から24~50AUの大きな穴構造を持つことが知られている。しかし、このような穴構造の内側領域の、中心星にごく近い領域において、減光を引き起こす空間的に非一様なダスト構造が存在する可能性が高いことが分かった。また、各天体の色の変動によって、減光を起こす円盤内縁部領域のダストが希薄な星間空間におけるダストよりも有意に成長している証拠も得ることができた。
14:30 - 15:00 ポスターフラッシュ
15:00 - 16:00 Poster Session and Coffee Break
16:00 - 16:40 塚越崇 (茨城大学)
  • ALMA望遠鏡は日米欧の国際協力のもと、南米チリのアタカマ砂漠に建設された大型サブミリ波干渉計である。空間分解能や感度の面において、既存電波望遠鏡に比べて一桁以上の向上があり、2011年のALMA初期運用開始以降、革新的な成果を生み出し続けている。原始惑星系円盤を含む惑星系形成過程は、ALMA望遠鏡における重要な科学ターゲットの一つであり、これまで多くの観測が行われてきている。その結果、従来の電波観測でははっきりと分からなかった、インナーホール構造やスパイラルアーム構造、局所的なダスト濃集による強い非対称性などを持つ円盤が多数報告されており、それらのダストおよびガスの詳細な分布が明らかにされてきた。また大口径赤外望遠鏡と同等の空間分解能による直接比較も可能になり、より複雑な円盤構造の様子が描きだされつつある。2014年には長基線観測キャンペーンが行われ、近傍星形成領域において1 auに迫る空間分解能が達成され、HL Tauの星周円盤に多重リング構造が見出されたことは記憶に新しい。それを皮切りに複数の円盤においても多重リング構造が報告され、惑星系形成との関係が議論されて続けている。ALMAで見出されたこれらの複雑な円盤構造は、観測結果を説明するための理論研究にも大きな発展を促してきた。
    　 本講演では、いくつかの円盤構造のキーワードのもと、ALMAの観測結果の進展についてレビューする。特に私が関係する観測グループによる結果を中心に、最近の研究成果について紹介したい。
16:40 - 17:00 片岡章雅 (国立天文台)
  • 原始惑星系円盤内において合体成長中のダストのサイズを観測的に測定することは惑星形成の理解を進める上で重要である。我々は，従来とは全く独立な手法として、ミリ波偏光観測によるダストサイズ制限を理論的に提案した。これは，ダストの熱放射が別のダストによって再び散乱されることによっておこる偏光が，輻射場の異方性のために観測されることを利用する。我々は，実際にALMA望遠鏡を用いて原始惑星系円盤 HD 142527 を観測し，Class II と呼ばれる後期段階の原始惑星系円盤からのミリ波における偏光を初めて検出した。更に，偏光ベクトルの向きから，我々が提唱した散乱偏光の証拠を捉えることに成功した。このことから，ダストの最大サイズは150ミクロン程度であることがわかった。この一連の研究は惑星形成過程におけるダスト成長に対する制限が飛躍的に向上することを示唆しており，今後のALMA偏光観測による惑星形成研究の更なる盛り上がりが期待される。
17:00 - 17:20 秋山永治 (国立天文台)
  • 自由浮遊惑星として知られている主星を持たず孤立した惑星質量の天体がOrionやChamaeleon領域で発見されて以来、数多くの自由浮遊惑星が発見され、近年の研究では我々の銀河には自由浮遊惑星が恒星よりも多く存在する可能性が示されている。我々はすばる望遠鏡を用いたSEEDS (Strategic Explorations of Exoplanets and Disks with Subaru)プロジェクトの一環として、SU Aurに付随する原始惑星系円盤に対してHバンド偏光観測を行った結果、長さ350AU以上のtail構造を検出した。またALMAのCO(J=2-1)による輝線観測で2000AUを越えるtail構造が検出された。円盤およびtail構造の速度構造を調査した結果、円盤からtail構造に向かって速度勾配が確認され、円盤の一部が外部へ飛ばされていることを示す結果が得られた。原始惑星系円盤には惑星もしくは原始惑星が内在するため、それらの天体が円盤の一部とともに外部へ放出され、自由浮遊惑星になる可能性が考えられる。数値流体シミュレーションによって観測されたtail構造の再現を図ったところ、tail構造は他の天体との衝突または多重連星の重力相互作用が引き起こす不安定性によって円盤の一部が放出されて形成される可能性が示された。今後、自由浮遊惑星の起源について制限を与えるため、正確な円盤の質量および近傍星の固有運動を調査する予定である。
17:20 - 17:50 Discussion [PDF]

7/11 (火)

時間 発表者 講演題目

Session 2: 円盤物理構造II

9:30 - 10:10 高橋実道 (工学院大学)
  • 近年のALMAによる高分解能観測によって、原始惑星系円盤の構造を詳細に観測することが可能となった。 円盤構造の詳細な観測は、円盤進化過程および惑星形成に円盤が与える影響を理解する上で重要となる。 観測された円盤構造の中でも特に、HL Tau等に観測された多重リング・ギャップ構造は、 これまでの円盤進化の理論ではほとんど考えられてこなかった構造であり、大きな注目を集めている。 このような構造は円盤中での惑星形成と関連している可能性もあり、惑星形成過程を理解する意味でも重要となる。 観測されたような円盤構造形成メカニズムとして、これまで惑星と円盤の相互作用やダストの焼結や成長、 永年重力不安定性等のシナリオが提唱されている。 しかし、依然として実際に観測された構造を形成してるメカニズムを特定するには至っていない。 本講演では、原始惑星系円盤のリング・ギャップ構造形成メカニズムに関するこれまでの理論研究についてレビューし、 原始惑星系円盤における構造形成・進化について議論する。
10:10 - 10:30 冨永遼佑 (名古屋大学)
  • 近年のアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)による観測によって、原始惑星系円盤内に多重のリング構造が発見された(e.g., ALMA Partnership et al. 2015, Andrews et al. 2016, Tsukagoshi et al. 2016)。観測されたリング構造は惑星形成理論との関連が示唆されているため、リング形成機構を明らかにすることは重要である。多重リング形成機構の候補のひとつとして永年重力不安定性が考えられている。永年重力不安定性は、ダストとガスの間の摩擦によって自己重力安定な円盤においても成長する不安定性であり、もともと微惑星形成機構として提唱された(e.g., Youdin 2011, Takahashi & Inutsuka 2014, Shadmehri 2016)。本研究の目的は、数値計算に基づいて永年重力不安定性の非線形発展を調べ、それによるリング・微惑星形成機構を明らかにすることである。本研究では、長時間の永年重力不安定性の発展を調べるためにSymplectic法を流体計算法に応用した新しい長時間流体計算法を開発した。この計算法を用いて、初期に動径方向に密度と圧力が一様な円盤における永年重力不安定性の非線形計算を行った。非線形計算の結果、ダストの面密度は初期の100倍程度まで上昇するのに対し、ガスの面密度は2倍も増えないことがわかった。このダストリングの線密度は、等温フィラメントの重力収縮における臨界線密度程度であることがわかった。また形成されたリングは自己重力によって円盤内側に徐々に移動するという新しい現象を発見した。この速度を力の釣り合いに基づいた半解析的モデルによって再現することに成功した。
10:30 - 10:50 小野智弘 (京都大学)
  • 近年のALMA望遠鏡による観測によって、三日月状構造を持つ原始惑星系円盤の存在が明らかにされてきた。三日月状構造は円盤上の巨大渦によって説明することができる。巨大渦は円盤進化・惑星形成を解明するための鍵になることが期待され、その形成機構や性質の解明が求められてきた。我々は原始惑星系円盤における渦形成機構として有力なロスビー波不安定性(RWI)について調べ、形成される渦の性質・多様性を明らかにした。第一に、線形安定性解析によってRWIが不安定となる円盤パラメータ領域を明らかにした。次に、RWIに対して不安定となる広いパラメータ領域について2次元数値流体計算を行い、多様な性質を持つ渦の形成を確認した。さらに、渦が形成された円盤の面密度分布を非軸対称成分と軸対称成分に分け、それぞれ解析した。非軸対称成分から、RWIで形成される渦の動径幅・軸比・密度コントラストが満たすべき関係が存在することが明らかとなった。これは、将来のALMA望遠鏡やすばる望遠鏡による観測に対して定量的な予測を与える。また、円盤内に渦が存在する時、非軸対称成分はRWIの不安定条件を満たすことも分かった。この結果は、直接的観測できないほど弱い渦であっても、その存在や性質を軸対称成分の観測から明らかにできることを意味する。本講演では、これらの結果について紹介する。
10:50 - 11:10 Poster Session and Coffee Break
11:10 - 11:30 高棹真介 (名古屋大学)
  • 原始星・前主系列星段階にある星は星周円盤からの降着流などを通じて円盤と相互作用しながら成長している。降着流の形態は進化段階によって異なっていると考えられているが、３次元構造の決定には特に磁場が重要な役割を担っていると考えられている。具体的には、星の磁気圏がまだ十分に発達していない時円盤は星表面までつながって降着流を直接星に穏やかに供給する。一方、磁気圏が発達した段階では磁気トルクによって磁気圏内の円盤ガスは磁力線に沿って星の磁極にほぼ自由落下していく、という考えである。後者のような降着流形態は落下時に衝撃波を形成して X 線を出したり、高く持ち上がった降着流ガスが星からの光を遮るなど周囲の円盤に影響を及ぼす可能性がある。このように星への降着流の３次元構造は周囲の円盤進化にとっても重要だが、３次元磁気流体シミュレーションに基づく詳細な理解はほとんど進んでいない。そこで我々は Athena++ コードを用いて３次元磁気流体シミュレーションを行い、まず初期に弱い磁場を持つ星への降着流構造を調べた。その結果、磁気圏が発達していない段階の星にも磁気圏降着に似た高速の降着流が星の高緯度領域に絶え間なく突き刺さっていくことがわかった。これは磁気圏が発達していない星でも星が降着流によって隠蔽されたり、衝撃波形成を伴うような激しい降着が起きる可能性を示唆している。本発表では現状のモデルの解説と得られた結果についての考察について報告する。
11:30 - 11:50 森昇志 (東京工業大学)
  • 原始惑星系円盤の温度構造を理解することは、惑星形成を解明する上で欠かせない。特に、円盤内側の温度構造は、氷の昇華境界の位置を決定するため重要である。円盤が光学的に厚い時、降着ガスが解放する重力エネルギーは熱に変換され、円盤に蓄積し、円盤内側の温度構造を決定する。このとき、解放されるべき重力エネルギーは乱流粘性によって熱へと変換されると考えられている(粘性加熱)。粘性加熱を扱う際、加熱率が赤道面に集中する分布がよく仮定される。しかし、このような仮定は必ずしも現実的ではない。例えば、乱流の駆動源である磁気回転不安定は、電離度が低い円盤赤道面付近では発生せず、円盤上層で乱流が発生する。そのような場合、エネルギー散逸も円盤上層で起きるために、円盤内部に熱が蓄積せず、赤道面の温度が上昇しにくい(Hirose & Turner 2011)。一方で、近年の磁気拡散を考慮した磁気流体計算からは、上層の乱流も安定化された、磁気遠心力円盤風が駆動するガス降着(円盤風駆動降着)が示唆されている。このような円盤では、乱流によるエネルギーの散逸に代わって、磁気拡散によるエネルギー散逸がおきると予想される。また、円盤風によるエネルギー流出もおこると予想されるが、詳細は不明である。本研究では、これらの効果に着目し、磁気流体計算からエネルギーの散逸領域と散逸量を求め、磁気流体力学に基づいた円盤の温度構造を調べる。計算の結果、オーム散逸と両極性拡散を考慮した場合、降着エネルギーのほとんどが散逸されることなく、円盤上層へと流出した。このような、円盤の場合、従来想定されるよりも冷たい円盤ができることが予想される。本発表では、他の磁気流体構造の円盤においても議論する予定である。
11:50 - 12:20 Discussion [PDF]
12:20 - 13:40 Lunch

Session 3: 円盤固体物質

13:40 - 14:20 田崎亮 (東北大学)
  • ダストから微惑星を形成する過程には, 未だ多くの課題が残されている. 理論的には, ダストの内部構造が合体・成長において重要な役割を果たすことが期待されている. しかし, ダストの内部構造は観測的にはよくわかっていないのが現状である. その理由の一つに, ダストの内部構造が光学特性に及ぼす影響が完全には理解されていないということが挙げられる. ダストの光学特性は円盤の輻射輸送を特徴づける重要な物理量の一つであり, その理解は理論と観測の対応を議論する上で欠かすことができない. そこで, 本講演では, まずダスト由来の散乱, 熱放射, 偏波の生成過程といった基礎プロセスについて概説し, ダストの半径や内部構造がダストの光学特性, 及び, 円盤観測量に与える影響についてレビューする. さらに, こうした基礎プロセスをもとに, 観測的に得られる円盤ダストの情報について整理し, 最新の円盤観測の結果と合わせて考察する. 最後に, ダスト光学特性の基礎研究の課題と今後の円盤観測への示唆について議論する.
14:20 - 14:40 田中秀和 (東北大学)
  • ダスト付着成長過程において、ダスト初期サイズはその後の成長に大きな影響を与える。例えば、ダスト付着が可能な衝突速度上限値は、ダスト集合体の構成粒子サイズにほぼ比例することが知られている。従来研究では、構成粒子サイズとして星間シリケイトダストの代表的サイズである0.1μmを採用とし、氷ダストの付着限界速度は数十m/secとなると見積られていた。しかしながら、氷ダストが、サブミクロンのシリケイトダスト上にH2Oなどの揮発性成分が凝縮しつくられた後に、シリケイトダストと同様なサイズ分布になるという従来の仮定は簡単化しすぎであろう。本研究では、シリケイトへの氷成分の凝縮をモデル化し、つくられる氷マントルダストのサイズ分布を調べた。氷凝縮の核となるシリケイトダストは、観測で明らかになっているように半径0.2μm程度を上限としたべきサイズ分布を持つとした。氷凝縮は、分子雲内のように低温で水蒸気が強く過飽和となっている環境下では、各ダスト表面上で同様に進行するので、シリケイト核サイズに依らず同じ厚さの氷マントル層がつくられる。その結果、氷は主に数の多いサイズ分布下限のシリケイト核上で凝縮し、典型的には半径0.02μmの氷マントルダストが大量につくられることが明らかになった。半径0.02μmというサイズは従来の想定値よりも大幅に小さいため、これらの構成粒子が付着成長しできたダスト集合体はより大きな付着限界速度を持つことが期待される。今後の課題として、得られたサイズ分布をもった構成粒子からなるダストに対して衝突数値計算を行い、付着限界速度を定量的に求める必要がある。
14:40 - 15:00 金川和弘 (シチェチン大学)
  • 原始惑星系円盤において円盤ガスは乱流を起源とする粘性によって角運動量を外側に輸送し、円盤内側方向に移動する。同時に、ダストとガスの摩擦によって、ダストは角運動量を失い円盤内側に落下し、ガスは落下するダストから角運動量を受け取り円盤外側方向に押されることになる。従来、ガスの粘性進化を考える場合、ダスト密度がガス密度に比べ非常に小さいことが仮定され、ダストとの摩擦によるガスへの影響は無視されてきた。しかしながら、比較的大きなサイズ のダストの落下速度は粘性によるガスの落下速度の100倍から1000倍にもなるため、たとえダストがガスに対して少量であったとしても、ダストがガスに与える角運動量はガス粘性によって運ばれる角運動量に対して無視できない。本研究では、ダストとガスの摩擦のガス粘性進化への影響を調べた。まず、ダスト-ガス摩擦およびガスの粘性、ダストの沈殿を考慮し、ガス及びダスト速度の定常状態での解析解を導出した。その結果、ダストサイズがある程度大きい場合（ストークス数が0.1程度)、ダスト密度がガス密度に満たない場所でもダスト-ガス摩擦力がガスの運動に影響を及ぼし、ガスが円盤外側に移動することが分かった。さらに、ガス･ダスト2流体の1次元および2次元の数値流体シミュレーションを行い、ガス粘性進化がガス-ダスト摩擦力によってどのように影響を受けるのかを調べた。その結果、粘性がある程度小さい場合(α=10^{-3}程度)の場合、ダスト-ガス摩擦力によって、10AU程度より内側領域のガス密度が10万年程度で初期の10分の1程度まで減少することが分かった。円盤内側領域ではダスト/ガス比が上昇し、微惑星形成に適した環境になると考えられる。本研究ではこれらの結果を示すと共に、惑星形成への影響についても議論したい。
15:00 - 16:00 Poster Session and Coffee Break
16:00 - 16:20 植田高啓 (東京工業大学)
  • 岩石惑星の種とされる岩石微惑星の形成は、惑星形成における大きな問題の一つである。微惑星は、原始惑星系円盤と呼ばれるダストとガスから成る円盤の中で形成されるが、岩石質ダストが破壊されやすいという問題から、ダストの直接合体成長による岩石微惑星形成は困難である。そこで、岩石微惑星の形成モデルとして、デッドゾーン内側境界における重力不安定が挙げられる。デッドゾーン内側境界とは、円盤ガスが1000K程度となり熱電離することで乱流粘性が大きく変化する領域のことである。この領域ではダストが動径方向に濃集し、ダスト層の重力不安定によって岩石微惑星が形成されると期待されている。最新の流体・輻射平衡計算(Flock et al. 2016)から、円盤内縁領域では、ダストの昇華・凝縮により階段状の温度分布をとることが明らかになった。本研究では、Flock et al. (2016)の結果を基に、中心星輻射が支配的な原始惑星系円盤の温度分布の解析解を導出した。その結果、ダスト・ガス比が変化することで円盤温度がダストの昇華温度で保たれるような領域が存在し、そのすぐ外側では、ダスト昇華面への中心星輻射により温度が決まることがわかった。これらを考慮すると、デッドゾーン内側境界の位置は、古典的な光学的に厚い原始惑星系円盤の温度分布から予測される位置よりも2-3倍程度外側に位置することが期待される。本発表では上記の詳細を述べた上で、デッドゾーン内側境界におけるダストの濃集について議論する予定である。
16:20 - 16:40 瀧哲朗 (国立天文台)
  • 微惑星形成過程は惑星系形成理論における最も重大なミッシングリンクのひとつである. 微惑星の形成は原始惑星系円盤の中で進行すると考えられているが，現存する形成理論には複数の理論的な困難が指摘されており，形成モデルに対する統一的な見解はいまだ得られていない. 差動回転円盤内のダスト-ガス系の二流体不安定性であるストリーミング不安定性は，微惑星形成メカニズムの有力な候補のひとつである（Youdin & Goodman, 2005）．ストリーミング不安定性は自己重力収縮が可能なほど強く濃集したダスト塊を形成すると考えられており，そのような強い濃集が起こるときのダストのサイズ-面密度の条件が Carrera et al. (2015) によって求められている．本研究ではストリーミング不安定性によるダスト塊の形成効率という点に注目して2Dの数値実験を行い，惑星系形成に適したダストのサイズ-面密度の条件を求めた． 数値実験の結果，太陽系を作るのに十分な量のダスト塊を形成するためには，ダスト-ガスの面密度比が ~0.04 を超えることが重要であり，この形成効率はダストサイズにはあまり依存しないということが分かった． 本講演では，このような依存性が現れるメカニズムについても議論したい.
16:40 - 16:50 Coffee Break
16:50 - 17:10 武藤恭之 (工学院大学)
  • AB Aur は、約140パーセクの距離にある原始惑星系円盤を持つ Herbig Ae型星で、これまでにすばる望遠鏡やSMA望遠鏡の観測などで、円盤に複雑な構造があることが分かっている。今回、ALMA望遠鏡を用いた観測により、0.1秒角の分解能で、原始惑星系円盤の中心星に近い領域からの12CO(2-1)の放射と1.3mm の連続波放射のマップを得た。連続波放射は、半径 120AU程度のリング状構造をしていた。また、COガスの放射は、連続波のリングの内側において、少なくとも２つのスパイラル状の構造があることがわかった。スパイラル構造の部分の放射は、周囲のガス放射よりも少なくとも 9倍以上は明るく、また、ガスの運動は、ケプラー回転と整合的であり、円盤の傾斜角は 23度程度であると推定された。近赤外線の散乱光イメージとALMAのガス放射分布を比較すると、両者は似たような構造をしているが、近赤外線の散乱光が、ガス放射よりも少し中心星に近い場所にあることがわかった。観測を説明する一つの可能性として、円盤中に惑星が存在しているというモデルを考えると、中心星から80AU程度の位置に惑星があるとすれば、観測された構造の一部を説明することができる。しかし、これだけでは全ての構造を説明することは出来ず、より内側に別の摂動源がある可能性や、円盤の内側部分がワープしている可能性も示唆された。本発表では、観測の結果や解析について報告するとともに、余裕があれば、干渉計の観測データから円盤の非軸対称性を検出するための新たな手法についても議論したい。
17:10 - 17:30 樋口あや (理化学研究所)
  • We have firstly detected [C I] emissions in the gaseous debris disks of 49 Cet and β Pic with the ASTE. The line profiles of [C I] are found to resemble those of CO observed with ALMA. This result suggests that atomic carbon (C) coexists with CO in the debris disks and is likely formed by the photodissociation of CO. The C/CO column density ratio is derived to be 54 ± 19 and 69 ± 42 for 49 Cet and β Pic, respectively. These ratios are higher than those of molecular clouds by an order of magnitude. The unusually high ratios of C to CO are likely attributed to a lack of H2 molecules needed to reproduce CO molecules efficiently from C. This result implies a small number of H2 molecules in the gas disk, i.e., there is an appreciable contribution of secondary gas from dust grains.
17:30 - 18:00 Discussion [PDF]

7/12 (水)

時間 発表者 講演題目

Session 4: 円盤進化

9:30 - 10:10 塚本裕介 (鹿児島大学)
  • 原始惑星系円盤の面密度、温度、粘性α値といった構造の時間進化を明らかにすることは、惑星形成論と星形成論を統一的に研究するための基礎を与える。例えば、ダスト成長/破壊を考えるうえで重要となるダスト粒子間の相対速度は円盤のα値と温度に依存するため、現実的な円盤でα値と温度を定量的に解明することができれば、衝突合体/破壊が円盤のどこで、どの進化段階で起こるか、を明らかにすることができる。また、円盤構造の進化と(星形成の初期条件である)分子雲コアのパラメータとの関係が明らかになれば、それを基礎に系外惑星を含む惑星形成過程の多様性に星形成の文脈で迫ることができる。これが原始惑星系円盤の進化を研究するひとつの大きなモチベーションである。ここ10年ほどのスーパーコンピュータの急速な発展によって、原始星が形成してから最大で10万年程度までの原始惑星系円盤の初期進化過程がシミュレーションによって明らかになってきた。現在のスーパーコンピュータをもってすれば、輻射輸送、磁場、非理想MHD効果といった物理過程を全て取り込み、それらの影響を調べることができる。そのような「現実的な」シミュレーション研究の蓄積によって、分子雲コアの質量と角運動量がそのまま円盤に降着し円盤が成長していくといった、2000年代までの単純な描像は大きく変更を受けた。本講演では、円盤形成と形成後10万年程度までの初期進化に関する最新の理解について説明する。特に、この分野の理論研究においてコンセンサスとなりつつある、「円盤進化初期には自己重力不安定が発達するほど円盤が重い」という発見について、その理論的な必然性について強調して説明したい。また、これから円盤進化研究を行おうと考える学生さんのために、本分野でなにが重要な課題として残されているかについても説明する。
10:10 - 10:30 廣瀬重信 (国立研究開発法人海洋研究開発機構)
  • We have investigated nonlinear outcomes of gravitational instability in an irradiated protoplanetary disk, using 3D radiation hydrodynamics simulations in stratified shearing boxes with realistic thermodynamics. The outcomes are either self-regulated turbulence-like density fluctuations (gravito-turbulence) or fragmentation to form bound clumps. We will discuss the nature of the gravito-turbulence as well as the fragmentation condition as a function of the surface density and the distance from the central star.
10:30 - 10:50 高桑繁久 (鹿児島大学)
  • 原始星周囲で円盤が形成される過程において、磁場は本質的に重要な役割を果たすと考えられている。しかし観測的に、円盤形成過程における磁場の働きを同定するのは極めて難しい。磁場の強度や磁場の３次元の向きを測定するのはALMA を持ってしても容易ではないからである。しかし磁場によって制御された分子ガスの運動を観測的に同定することで、円盤形成における磁場の働きを調べることができる。とりわけ回転軸の反転、counter rotation は、磁場によって分子ガスの運動が制御されている有力な観測的証拠となる。我々は SMA によるClass I 原始星 IRAS 04169+2702 の 13CO (3-2) 輝線の高空間分解能 (~0.5 arcsec) 観測から、半径 100 AU 程度のケプラー回転する円盤（中心星の質量 0.1 M) を検出した。さらに同天体の C18O (2-1) 輝線の SMA アーカイブデータから、回転円盤の外側に、r=500 AU 程度の回転しつつ落ち込んでいるエンベロープも同定した。エンベロープの回転方向は、以前の C18O (1-0) 輝線の観測から得られた r=1000 AU スケールの分子ガスの構造の回転方向と一致しているが、中心の円盤の回転とは真逆になっている。さらにこの逆回転するエンベロープと円盤の境界領域には accretion shock のトレーサーである SO (65-54) 輝線が検出された。このようなエンベロープと円盤の逆回転は、非理想磁気流体の効果の一つ Hall 効果で説明可能である。講演では上記の観測結果の詳細を示し、理論モデルとの比較、将来の ALMA 観測についても触れていきたい。
10:50 - 11:10 Coffee Break
11:10 - 11:50 國友正信 (名古屋大学)
  • 原始惑星系円盤は惑星形成の場である．形成した惑星は円盤との相互作用により軌道が変化しうるため，惑星系の軌道分布の決定に円盤進化は重要な役割を果たす．また円盤の寿命がガス惑星の形成時間を制約する．本講演では円盤の進化・散逸過程について理論，観測双方での近年の進展をレビューする．円盤は中心星への降着過程および系外への流出過程により進化すると考えられている．後者には光蒸発，磁気遠心力風，磁気乱流駆動円盤風があるが，本講演では特に光蒸発について触れる．光蒸発とは，中心星もしくは近傍の星から出る高エネルギー光子（X線，紫外線）が円盤表面のガスを加熱し，流出する過程である．最新の円盤進化の理論モデルについて概観し，円盤寿命などの観測事実との比較する．最後に，今後の課題について議論する．
11:50 - 12:10 仲谷崚平 (東京大学)
  • 原始惑星系円盤には寿命があることが観測的に知られている。太陽近傍星団の観測から、典型的な円盤寿命は3-6百万年であると見積もられてきた。 一方で、近年の銀河外縁部星団の観測により、低金属量環境下の円盤寿命が約1百万年と太陽近傍環境の円盤よりも短寿命であることが明らかになった。この円盤寿命の金属量依存性を理論的に説明しうる円盤消失メカニズムのひとつとして、光蒸発がある。光蒸発とは、星からの高エネルギー輻射により円盤物質が加熱され、その物質が星の重力を振り切り円盤から流れ出していくことである。これにより円盤はその質量を損失する。 本研究では、原始惑星系円盤の光蒸発を輻射流体シミュレーションし、光蒸発率の金属量依存性を明らかにする。我々のシミュレーションでは、円盤ガスの流体力学、星から超紫外線・遠紫外線の輻射輸送、非平衡熱化学方程式を自己無撞着に同時に解いている。また、星からの輻射とダストの再放射を解くことで、ダスト温度も整合的に与えられている。10^{−4} Z⊙ ≤ Z ≤ 10 Z⊙ の範囲で金属量を変え、光蒸発をシミュレーションし、各金属量における光蒸発率を導いた。我々の光蒸発モデルでは、太陽金属量円盤の光蒸発率として 1.38 × 10^{−8} M⊙ yr^{−1} を得た。10^{−0.5} Z⊙ ≲ Z ≲ 10 Z⊙ の範囲では、金属量が大きくなるほど光蒸発率が減少する。10^{−1} Z⊙ ≲ Z ≲ 10^{−0.5} Z⊙ の範囲では、金属量が低くなるほど光蒸発率が減少する。10^{−4} Z⊙ ≤ Z ≲ 10^{−1} Z⊙ の範囲では、光蒸発率はほとんど一定になる。本研究結果は、観測された円盤寿命の金属量依存性と整合的である。また、Z ≲ 10^{−1} Z⊙等の低金属量円盤では、太陽金属量円盤寿命よりも長くなることが本研究結果から予言される。
12:10 - 12:40 Discussion [PDF]
12:40 - 13:50 Lunch

Session 5: 円盤化学構造

13:50 - 14:30 古家健次 (筑波大学)
  • 本講演では炭素、窒素、酸素、水素などから構成される揮発性物質 -ガス・氷- に焦点を当てる。揮発性物質は惑星やその大気の原材料となるため、また円盤ガス質量や乱流速度分散等の物理量 の導出には分子輝線が用いられるため、円盤内において揮発性物質がどのように分布し、どのように進化するかを理解することは重要である。ALMAを用いた分子輝線観測により、原始惑星系円盤における揮発性物質の研究は大きく進展しつつある。例えば、COやN2H+などの基本的な分子の半径分布や同位体組成が見え始め、複雑な有機分子も検出され始めた。また星間空間に比べ、円盤外側領域が炭素・酸素等の揮発性元素に枯渇していることが発見され、局所的な化学反応のみならず、乱流や難揮発性ダストの進化が、揮発性物質の進化に重大な影響を与えることが明らかになってきた。これら分子輝線観測の解釈の際には、様々な物理・化学過程を考慮した理論モデルが重要な役割を果たしている。講演では観測と理論の現状を紹介したい。
14:30 - 14:50 大屋瑶子 (東京大学)
  • 近年ALMAの登場により、若い低質量原始星に付随する円盤/エンベロープ構造の観測的研究が急速に進みつつある。エンベロープガスの化学組成には天体ごとに異なる特徴 (e.g. hot corino chemistry/warm carbon-chain chemistry) があることが知られ 、円盤形成に伴う化学進化にも興味がもたれる。以前本研究グループは、不飽和炭素鎖分子に富む L1527 (WCCC天体) で、炭素鎖分子の輝線で捉えられた原始星付近 (~1000 au) のエンベロープガスの速度構造が、回転しながら落下するガス円盤のモデルで再現されることを報告した。この弾道軌道モデルでは、エネルギーと角運動量の保存のため、ガスは近日点より内側には落ち込めない (「遠心力バリア」)。一方、SO輝線は遠心力バリアの位置 (半径100 au) に集中し、この領域でガスの化学組成が大きく変化していることがわかった。複雑な飽和有機分子に富むIRAS 16293-2422 Source A (hot corino) でも、OCS輝線で捉えられたエンベロープガスの速度構造が、同じモデルで説明された。それに対し、飽和有機分子 (CH3OH, HCOOCH3) は遠心力バリアに集中して検出された。H2CS輝線は、エンベロープに加え、バリア内側で高速回転 (~15 km/s) する円盤構造も捉えた。一方L483は、WCCC天体と考えられていたが、高分解能観測 (~100 au)の結果、hot corinoの特徴である飽和有機分子が原始星に集中して検出されることがわかった。相異なる化学的特徴が、単一天体で空間的に分解されて確認されたのは初めてである。これらの結果は、若い低質量原始星天体の物理構造が普遍的に解釈される可能性と、エンベロープから円盤への化学進化の多様性を示唆している。
14:50 - 15:10 Coffee Break
15:10 - 15:30 野村英子 (東京工業大学)
  • ALMAによる原始惑星系円盤からの様々な分子輝線の高感度・高空間分解能観測と、それらの分子の化学的性質を利用することにより、円盤内の物理過程に制限を与えることが可能になると期待される。本講演では、原始惑星系円盤からの硫黄系分子のALMA観測の結果を紹介する。SO, SO2, H2Sなどの硫黄系分子は、衝撃波トレーサーとして知られている。我々は、円盤内での氷微惑星の衝撃波加熱の検証を目的としてALMA観測を行った。原始惑星形成後、周囲の氷微惑星は重力相互作用により軌道進化し、円盤ガス中に衝撃波をおこす。この衝撃波により氷微惑星は加熱され、蒸発すると考えられており、氷微惑星の軌道進化や蒸発率に関する研究が行われてきた(Tanaka et al. 2013, Nagasawa et al. 2014)。氷微惑星の蒸発により気相に放出された分子およびその娘分子を観測することで、氷微惑星の衝撃波加熱の検証が可能となると考えられる。硫黄系分子は彗星からも豊富に観測されている分子であり、氷微惑星中にも存在することが期待される。硫黄を含む氷分子およびその娘分子としてH2SやSOがあるが、両者は凍結温度が比較的低く、ガス惑星形成領域において氷微惑星の衝撃波加熱が起きた場合、そのよいトレーサーとなることが我々の計算により示されている。一方で円盤外縁部においては、紫外線や宇宙線により非熱的に氷から脱離した様々な分子の輝線が最近観測されている。よってモデル計算と観測の比較により、氷表面の硫黄系分子の存在量に制限を与えることが可能である。我々の円盤からの硫黄系分子のALMA観測の結果は、輝線フラックスの上限が得られたのみであった。モデル計算と比較した結果、硫黄系分子の存在量は<10^{-10}であった。氷微惑星蒸発に制限を与えるためには、さらに高感度の観測が必要である。
15:30 - 15:50 野津翔太 (京都大学)
  • 原始惑星系円盤(以後、”円盤”)から放射される輝線はドップラーシフトを受け広がっている。この輝線のプロファイル形状の解析から、輝線放射領域の中心星からの距離の情報が得られるそこで我々はこれまでに、数値計算の結果に基づき、H2O輝線プロファイルの観測から円盤内のH2O分布、特に円盤赤道面におけるH2Oスノーラインを同定する方法を提案してきた (Notsu et al. 2016, 2017)。具体的にはまず円盤の化学反応ネットワーク計算を行い、H2Oを含む様々な分子種の存在量とその分布を調べた。するとH2Oスノーラインの内側の円盤赤道面付近だけでなく、円盤外側の上層部高温領域や光解離領域でもH2Oガスの存在量が多い事が分かった。またその計算結果を元に、円盤から放射されるH2O輝線のプロファイルを多数の輝線について計算した。その結果、アインシュタインA係数(放射係数)が小さく、励起エネルギーが比較的高い輝線のプロファイルを高分散分光観測で調べる事で、H2Oスノーラインを同定できる可能性がある事が分かった。そして、この様な特徴を持つH2O輝線が、中間赤外線からサブミリ波までの幅広い波長帯に多数存在し、その強度は波長が短い程大きい事が分かった。また最近では、モデル計算の範囲を広げ、新たに ALMA band 5 領域の H2O 輝線や H218O輝線を用いたH2Oスノーライン同定可能性の調査なども行なっている。更に円盤からのH2O輝線検出を目指したALMA観測も提案しており、一部のデータが取得済みである。本発表では、これまでの解析結果の紹介と今後の高分散分光観測 (ALMA、SPICA など)でのH2Oスノーラインの同定可能性の議論、更に可能な範囲で観測結果の一部を紹介する。
15:50 - 16:20 Discussion [PDF]
16:20 - 16:30 閉会の挨拶

ポスター講演

番号(TBD) 発表者 講演題目
髙田智史 (東京大学)
  • Rheology of cohesive dilute granular gases is theoretically studied. The flow curve between the shear viscosity and the shear rate is derived from the inelastic Boltzmann equation for particles with square well potentials under a uniform shear state. It is found that the stable uniformly sheared state only exists above a critical shear rate, in which the viscosity is almost identical to that for uniformly sheared hard core granular particles. Below the critical shear rate, clusters grow with time, in which the viscosity can be approximated by the hard-core viscosity if we replace the diameter of each particle by the the mean diameter of clusters.
山口正行 (東京大学)
  • 近年のALMA望遠鏡の観測によって、原始惑星系円盤の内部構造に複数のギャップ構造や非軸対称な構造が数多く発見され、惑星形成過程の理解が急速に進んでいる。このような高分解能サブミリ波観測は、ギャップ構造を形成する惑星質量の見積もりや、ダストの集積機構の解明等で必要不可欠である。特に高品質なイメージング 処理を行い、そこから正確な輝度分布やギャップ幅の見積もりを行うことが望ましい。ALMA 望遠鏡をはじめとする電波干渉計では、観測データのイメージングで主に CLEAN と呼ばれる手法が用いられてきた。これに対して近年では、電波干渉計の新たなイメージング手法であるスパースモデリングが着目されている。スパースモデリングとは、“ 解がスパースに表現される”という仮定の下で解を推定する手法で、従来法では解けない電波干渉計の劣決定問題を適切に解くことができる。この手法は、CLEAN よりも高品質な画像復元が可能であり、特に回折限界を超える超解像の領域では、それが顕著であることが示されている。そこで本研究では、原始惑星系円盤HD142527のALMA による実観測データにスパースモデリングを適用し、この手法からイメージがどのように改善されるのかを調査した。その結果、回折限界を超える超解像領域でCLEANよりも高品質のイメージが得られることを確認した。本講演では、より高分解能の観測データを合わせたイメージの評価を行い、イメージング手法の改善によって、ALMA による原始惑星系円盤の観測にどのような恩恵が期待できるのかを議論する。
崔仁士 (東京大学)
  • 原始惑星系円盤は，低質量星形成過程において普遍的に形成され，中心星へ質量を供給するとともに惑星形成の現場ともなるなど，星惑星形成において重要な役割を果たす。そのため，原始惑星系円盤の形成や進化の過程を明らかにすることは，星惑星形成を理解する上で重要である。しかし，観測，理論の両方から多くの円盤に関する研究がなされているにも関わらず，原始星期における円盤形成・進化の詳細は未だ明らかでない。我々のグループは，原始星期の円盤の形成・進化を調べるために，これまで Class0/I 原始星に対して観測を行ってきた。今回は、原始星期の比較的後半にあり，比較的進化した円盤を持つL1489 IRSのALMA Cycle2での1.3 mm連続波，C18O J=2-1観測結果を報告する。達成された空間分解能は，約0.3""である。連続波観測では，中心星の位置にピークが見られ，さらに，東西にそれぞれ3""程度伸びた円盤を反映していると見られる構造が見られた。一方，C18Oでは，中心星の位置にピークは見られず，東西にそれぞれ0.5""程度ずれた位置にピークが確認された。ピークの外側では，東西にそれぞれ5""程度伸びている構造が見られた。さらに，この内側のピークと外側の伸びた構造の間にギャップ構造が存在し，円盤全体が内円盤と外円盤に分かれていることが明らかとなった。円盤の構造を詳細に調べるため，観測結果とギャップをもつ円盤の簡単なモデルとの比較を行ったところ，L1489 IRSに付随する円盤では，内円盤と外円盤で回転軸が異なるような構造をもつことが示唆された。このような構造は，例えば，降着ガスの角運動量の向きが降着段階によって異なることによって形成されると考えられる 。本講演では，L1489 IRSに見られたこの新たな円盤の構造について，現在進めているシミュレーションの結果も示しつつ，議論を行う。
山川暁久 (東京工業大学)
  • 惑星は、星形成の結果として星の周りに形成される原始惑星系円盤(以下、円盤) と呼ばれるガスと塵(ダスト)からなる天体で形成されると考えられている。円盤から惑星に至る過程を解明する上で、円盤内のガスとダストの物理状態を理論的・観測的に明らかにすることは重要である。特に、大型電波干渉計ALMAなどの観測機器の発展によって、様々な円盤のガス・ダスト分布が明らかになっていることから、観測結果を理論的に解釈することが求められている。円盤内のガスは、中心星への乱流粘性降着や中心星からの紫外線による光蒸発、ガス惑星による捕獲などの過程を経て散逸する。特に、太陽系を含め多くの星・惑星系の母胎と考えられている若い星団内では、近傍の大質量星からの紫外線による光蒸発の効果を無視できないと考えられる。そこで本研究では、Takeuchi & Lin (2005)の孤立系における計算手法をもとに、近傍の大質量星からの輻射による光蒸発の効果を取り入れた円盤内ガス・ダストの面密度進化を計算する。ここで、ダストの特徴的なサイズや粘性降着率、星からの紫外線量などをパラメータとして計算し、光蒸発がガス・ダストの面密度進化におよぼす影響を調べる。さらに、太陽系から最も近い若い星団であるトラペジウム星団における、ALMA とハッブルによる円盤観測(e.g., Vicente et al. 2005, Mann et al. 2014)と計算結果を比較し、円盤のガス・ダスト分布およびダストの性質を定める各物理パラメータが観測結果と整合的となる値の範囲を調べる。本講演では、外部からの輻射による光蒸発を考慮したガス・ダストの面密度進化と、若い星団内の円盤の観測とを比較することで、本研究の理論計算の妥当性を評価し、観測されている円盤内ガス・ダストの物理状態について議論する。
辰馬　未沙子 (東京大学)
  • 原始惑星系円盤内のダスト粒子は、付着成長によって内部に隙間ができ空隙率が高くなる。このような構造を持つダスト集合体は、同じ質量のコンパクトなダスト粒子に比べて大きな衝突断面積を持ち、ガスによる抵抗則も異なる。空隙率を考慮すると、氷ダストに関しては、付着成長や圧縮を経て氷微惑星が形成されうる(Kataoka et al. 2013)。また、この成長過程の途中でダスト層が重力的に不安定となることが指摘されている(Michikoshi & Kokubo 2016)。岩石ダストに関しては、ダスト集合体の構成粒子が星間ダストサイズ(0.1µm)の場合、衝突破壊によって成長が止まってしまう。しかし、この大きさが10nm程度以下であれば、破壊されずに合体でき、岩石微惑星が形成可能である(Arakawa & Nakamoto 2016)。実際に、隕石や惑星間粒子の中にはナノメートルサイズの粒子が含まれているものがある(Toriumi 1989, Keller & Messenger 2011)。しかし、このような空隙率の高い岩石ダスト層の安定性はまだ調べられていない。そこで、本研究では高空隙率岩石ダスト層の重力安定性をToomreのQ値を用いて評価した。Q値を求めるには、ダストの赤道面円運動からのズレであるランダム速度が必要となる。そのために、ランダム速度の増加メカニズムと減少メカニズムを考慮し、ランダム速度を計算した。その結果、岩石ダストが合体成長をしていく途中で、ダスト層が重力的に不安定になることがわかった。重力的に不安定となるような原始惑星系円盤の定性的な条件は、原始惑星系円盤の質量が大きいとき、ガスに対するダストの質量比が大きいとき、ガスの乱流が弱いとき、中心星からの場所が遠いとき、ダスト集合体の構成粒子が大きいときであることがわかった。
山中　陽裕 (京都大学)
  • 今日までに約3500個の太陽系外惑星が発見され、惑星形成についての様々な研究がなされているが、観測されている系外惑星のほとんどは単独星周りの惑星で、周連星惑星は未だ20個ほどしか発見されておらず、惑星形成の研究の多くは単独星周りの研究である。しかしながら、連星系が宇宙に普遍的な存在である以上、周連星惑星の形成過程の議論は重要である。連星系では、中心連星の公転により重力場が時間変化するため、周連星原始惑星系円盤ガスにInner cavityが生じ、さらに円盤ガス散逸後に惑星が軌道不安定になる不安定領域が存在する。ガス円盤のCavityと軌道不安定領域の大きさは中心連星の軌道離心率、質量比とセパレーションで決まることが数値計算でわかっている。さて、Kepler宇宙望遠鏡によって観測されている周連星惑星はすべてこの軌道不安定領域の外側に位置している。これらの惑星はすべてホットジュピターなので、遠方で形成した惑星が軌道移動してきたと考えられるが、ガス円盤の内縁が軌道不安定領域よりも内側にあるので現在の惑星軌道は単純なマイグレーションだけでは説明できない。我々は惑星の軌道位置が中心連星の物理量(軌道離心率、質量比、セパレーション)で決まっていると考え、ガスドラッグを加えた重力N体計算を用いて軌道不安定領域内における惑星の振る舞いから、現在の軌道を再現できるかを調べた。本講演では、計算結果の報告をし、観測との比較および今後の研究について議論する。
前嶋　宏志 (東京大学)
  • 原始惑星系円盤は中心星が古典的Tタウリ型星(CTTS)から弱輝線Tタウリ型星(WTTS)に進化するにつれて散逸する．円盤散逸過程の解明はその過程で起こる惑星形成を理解する上で重要である．微惑星形成に使われず残ったダスト(1次ダスト)は輻射圧やガス抵抗で数Myrで散逸すると考えられている．一方，微惑星の衝突破壊で2次ダストが供給される可能性がある．例えば，進化の進んだ主系列星周りのダスト円盤「残骸円盤」では2次ダストの散逸が支配的で，比較的散逸時間が長い．ただし原始惑星系円盤で，2次ダストの散逸はこれまで考慮されておらず，1次・2次ダストのどちらの散逸過程が支配的かは不明である．どちらのダスト成分が散逸で支配的かを知る上で，微惑星衝突時間が長く，1次・2次ダストの散逸時間差が大きい外側円盤(約100AU)での散逸の調査が重要である．外側円盤ダストからの熱放射は，遠赤外線での中心星フラックスからの超過(赤外超過)より調べられる．しかし，特にWTTSからの遠赤外線は検出器感度と比べ微弱なため，個別検出されたTTSのみの議論では明るいTTSにバイアスがかかる．遠赤外線の微弱なTTSも考慮して散逸過程を議論するため，多数のTTSの遠赤外線画像を足し合わせてS/N比を向上させる「スタック解析」を行い，外側円盤からのダスト遠赤外線放射の検出を試みた．赤外線天文衛星「あかり」全天サーベイより取得した波長90µm天体画像(CTTS約200天体，WTTS約400天体)をCTTS,WTTSそれぞれスタックして従来の約10倍天体数での平均的描像を得た．CTTSとWTTSの90µm平均強度に差があり，外側円盤ダスト散逸時間が1-10Myrという結果を得た．この時間は2次ダストが支配的な残骸円盤の散逸時間より短く，原始惑星系円盤では2次ダストではなく1次ダストの散逸が支配的であることを示している．
古賀　駿大 (九州大学)
  • 原始惑星系円盤（以後、円盤）は、重力収縮する分子雲コアの中で原始星の周りに形成される。円盤は、原始星の重力に対し遠心力によって支えられているため、そのサイズは円盤、または落下するガスが持つ角運動量に依存する。よって、初期に等しい角運動量をもつ分子雲コアでも、重力収縮中に中心部から外部へ輸送される角運動量が異なれば形成される円盤のサイズが変化すると考えられる。角運動量輸送において重要な役割を果たしているのが磁場である。分子雲コアのガスと磁力線が共に動くことにより、磁力線が分子雲コアの回転方向に捻じ曲げられ、磁気制動という機構によって角運動量が外部へ輸送される。さらに、角運動量の輸送効率は、非理想磁気流体力学の効果である Hall effect を考慮すると変化すると考えられているall effectはトロイダル磁場を形成することで、磁気張力によって、初期にガスが回転していない場合でもガスの回転運動を誘起する。本講演では、初期に角運動量を持たない分子雲コアを仮定し、Hall effect によって誘起されるガスの回転速度と比角運動量の見積もりの結果を報告する。この見積もりでは、ダストサイズ分布やcosmic ray によるイオン化度などをパラメータにして、磁場が重力に対して supercritical か subcritical かを変化させてガスの回転速度と比角運動量を求めている。また、Hall effect によって誘起された回転するガスが持つ比角運動量によって形成される円盤のサイズの見積もりについても報告する。最後に、Hall effect の円盤形成に対する重要性についての議論を行う。
芝池　諭人 (東京工業大学)
  • 木星の四つの巨大衛星「ガリレオ衛星」は、周惑星円盤の中で形成されたと考えられている。しかし、これまでの研究は微衛星から衛星までの成長過程に注目しており、微衛星の存在を仮定していた。そこで、我々は、原始惑星系円盤から周惑星系円盤にガスと共に流入したダストの、周惑星円盤内での合体成長と木星への落下(ドリフト)を計算し、微衛星の形成条件を調べた(Shibaike et al. revised)。結果、ダストの合体成長によって微衛星が形成されるには、周惑星円盤に流入するダストガス質量フラックス比が1以上でなければならず、それ以外の場合は、ダストが全て木星に落下してしまうとわかった。しかし、太陽組成のダストガス質量比は約0.01であり、ダストが少ない原始惑星系円盤上空のガスが周惑星円盤に流入することも考えれば、この条件の達成は困難である。この計算において、我々は周惑星円盤の局所的な乱流の強さα_tと、α円盤モデル(Shakura & Sunyaev 1973)における粘性降着の強さα_vを、同一のものとして扱った。しかし、実際には周惑星円盤ではMRIが起きづらく、乱流は弱いと考えられる(Fujii et al. 2014)。一方で、連星周りの原始惑星系円盤同様、太陽の存在により周惑星円盤に二次元の腕構造が形成され、乱流による粘性降着に頼らずに角運動量の輸送が実現される可能性がある(Zhu et al. 2016)。この場合、乱流によるダストの巻き上げが起きず効率的な衝突合体が可能であり、かつガス面密度が下がりダストの落下を抑えられる。実際に、α_t=10^-4、α_v=10^-2のとき、フラッフィーなダストを仮定すると、ダストガス質量フラックス比が0.01であっても微衛星形成が可能となった。本発表では、このような周惑星円盤における微衛星形成の可能性を議論する。
奥住　聡 (東京工業大学)
  • 近年のALMAの観測によって、若い星HL Tauの周囲の原始惑星系円盤には多重のダストリングが存在することが明らかになった。リングの輪郭が明瞭であることから、この円盤の乱流はダストが沈殿できる程度に弱いと考えられている。一方で、この円盤の中心星への質量降着率は低くなく、角運動量輸送がある程度効率的に起こっていると推定できる。本発表では、HL Tau円盤のダスト沈殿とガス降着を同時に説明するため、磁場が駆動する円盤風による角運動量輸送に注目する。磁気駆動風は加速される際に円盤の角運動量を持ち去り、しかも必ずしも乱流生成を引き起こさない。我々は、近年のMHD計算の結果に基づく半解析的な磁気駆動降着モデルを構築し、HL Tau円盤に適用した。その結果、磁気駆動風を考慮した場合に、ある磁場強度の範囲内でHL Tau円盤のガス降着とダスト沈殿が同時に説明されることを明らかにした。