2024年完結巻

電子版 Volume 42

2024年6月26日完結

Volume 42-1  [PDF]

レビユー＋オリジナル 2024年1月5日受理

Wボソンの凝縮とプロカ場の質量

斎藤 武 (関西学院大学理学部、物理・宇宙学科)

概要 強い磁界のもとでのWボソンの凝縮について第２節でレビユーされる。ここではWボソンの位相を用いる新しい方法が紹介される。Wボソンの凝縮が起きると、超伝導の場合のように電磁場がWボソンの位相を吸収して質量を持つプロカ場に変ると思われる。第３節で実際このプロカ場の方程式が導かれ、その質量の値も決定される。その最大質量は84.5GeVで与えられる。

Volume 42-2  [PDF]

修士論文 2024年3月8日受理

SU(3)格子QCDを用いたDimensional Reduction ゲージにおける低次元化の解析

當銘 啓 (京都大学大学院理学研究科)

概要 クォークの閉じ込めは、クォーク間の線形ポテンシャルで特徴づけられ、それにはカラー電束が1次元的に絞られた「フラックス・チューブの形成」が本質的に重要と考えられている。1次元的なフラックス・チューブ形成は、4次元QCDにおける「低次元化」の可能性を示唆しており、この「低次元的性質」を浮き彫りにする目的で、我々は「Dimensional Reduction (DR) ゲージ」という新しいゲージ固定を考案した。このDRゲージでは$t,z$にのみ依存するゲージ関数$\Omega (t,z)$によるゲージ変換に対する（2次元QCDと同じ）ゲージ対称性が残留し、従ってDRゲージの4次元QCDは2次元QCDと類似のゲージ系になると期待される。本研究では、解析的議論とSU(3)格子QCD計算 [$\beta = 6.0$(格子間隔 $a \simeq 0.1$ fm), クエンチ, 格子サイズ $24^4$] を用いてDRゲージの性質を調べ、以下のような結論を得た。 (1) DRゲージではグルーオン場の$x,y$方向成分$A_{x}, A_{y}$が抑制されるので、それらを格子QCD 配位から取り除く「$tz$-射影」を考え、それによりクォーク間ポテンシャルがどのような影響を受けるかをSU(3)格子QCD 計算で調べた。その結果、DRゲージではクォーク間ポテンシャルが$tz$-射影で変化せず、グルーオン場の2次元的成分のみによって再現されることが分かった。これは「長距離の物理量が 2 次元的な自由度のみで再現できる」という可能性を示唆する。 (2) 解析的議論からは、DRゲージで$tz$-射影した4次元QCDは「近接相互作用をする2次元QCDの類似系のアンサンブル」という描像が得られる。 (3) この描像に現れる 2次元QCD類似系間の相関を格子QCDを用いて調べた。2次元QCD系間には $e^{-mr}$[$m \simeq 0.6$ GeV] という指数関数的に減衰する相関が見られ、従って 2次元QCD系間の相関長は $\xi \equiv 1/m \simeq 0.3$ fm という結果が得られた。 (4) この $\xi \simeq 0.3$ fm以上で2次元QCD系間の相関が$\theta$関数的に切れるという非常に大まかな近似の下では、DRゲージの4次元QCDが「結合定数が $g_{2} \equiv gm$ の2次元QCD系」のアンサンブルとして記述できる可能性を指摘した。

キーワード 格子QCD、閉じ込め、低次元化

Volume 42-3  [PDF]

修士論文 2024年3月27日受理

On Orbifolds in Closed Superstring Field Theory

張 湘杭 (ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン)

概要 In this thesis we study the deformation of orbifold conformal field theories (CFT) in the framework of closed superstring field theory (superSFT). In particular, we consider the type II theory on $\mathbb{C}_4/\mathbb{Z}_2$ and its possible deformation of massless modes to the nearby theory on a smoothed-out manifold. This process is described by so-called ‟resolving" or ‟blowing-up" in algebraic geometry. Description of orbifold CFT is based on twist field [Dixon et al, Nucl. Phys. B, 282, 13(1987)] that changes the periodic boundary condition to anti-periodic one. This allows us to explore the moduli space of marginal deformations corresponding to the twist modes. By analysing the equation of motion of closed bosonic SFT, we show that the blowing-up is obstructed at the second order. Furtherly, we move on to superstrings. Since computation shows the second-order obstruction vanishes, it is possible to derive the blown-up metric in terms of the twisted moduli. We note that, although the initial orbifold theory posesses a $\mathcal{N}=2$ superconformal symmetry, the blown-up mode is not necessarily Kähler, indicating a broken superconformal symmetry. This makes sense because the closed superSFT is defined on a generic $\mathcal{N}=1$ superconformal string background. We carry on the analysis to the third order, where we find out that due to the chiral structure of the closed superSFT, the third-order obstruction is simply reduced to zero. This is unlike the open-string case [Mattiello, PhD thesis(2019)].

Volume 42-4  [PDF]

修士論文 2024年4月17日受理

アノマリーの数学的基礎から現象論的応用まで

川平 将志 (京都大学基礎物理学研究所)

概要 場の量子論の非摂動効果を解析することは，様々な現象の理解に繋がるため，現代物理学における重要なテーマの 1 つである．特に本修士論文では非摂動効果の解析の主たるツールの 1 つであるアノマリー（Anomaly）という現象について最近の進展をまとめた．
アノマリーの歴史は古いが，近年様々な概念的進歩があり，その結果 $d$ 次元アノマリーは $d + 2$ 次ボルディズム群の Anderson 双対 $(I_{\mathbb{Z}} \Omega)^{d+2}$ と対応することがわかった． \[{\mbox{[Anomaly]}}_d = (I_{\mathbb{Z}} \Omega)^{d+2}\] この関係を用いることで，あらゆるアノマリーについて系統的に取り扱うことが可能になり，近年続々と新しい知見が得られている．また，過去に知られていた事実についても，この対応関係を用いることで非自明な点が存在することも判明した．
本修士論文では ${\mbox{[Anomaly]}}_d = (I_{\mathbb{Z}} \Omega)^{d+2}$を導入した後，具体的にあらゆる物理現象に応用することで，過去の議論が再現されることや，その議論に見逃されてきた非自明な点が存在することを示す．特に標準模型の非摂動的なゲージ・アノマリー相殺については非自明な事実があり，Steenrod代数を用いること明瞭に理解できることを説明する．

キーワード 非摂動アノマリー、グローバルアノマリー、ボルディズム群

Volume 42-5  [PDF]

修士論文 2024年5月13日受理

Jackiw-Teitelboim重力とランダム行列

宮内 祐 (慶應義塾大学大学院理工学研究科)

概要 本修士論文では，Saad-Shenker-Stanford (SSS)対応と呼ばれる，Jackiw-Teitelboim（JT）重力とランダム行列の対応を解説する．JT重力は重力と結合したスカラーを持つ2次元重力理論の1つである．このスカラーはdilatonと呼ばれる．この模型に負の宇宙項があれば，dilatonと重力の結合によって作用のbulk項は曲率を負の定数に固定する拘束条件を与える．したがってbulkの幾何は双曲幾何となり，Mirzkhani漸化式のような双曲幾何の研究結果を用いて計量の汎関数積分を実行できる．さらに，作用の境界項はSchwarzian作用と呼ばれるものになる．これは1次元系であって， Duistermaat-Heckmann 公式によってその分配関数が厳密に計算できる理論である．したがってJT重力の分配関数が厳密に計算できる．一方，ランダム行列とは確率変数を行列とする確率理論である．この理論において，確率分布を適切に選びその台と行列のサイズを無限大に取れば，分配和と呼ばれる量の$n$点相関関数とJT重力の分配関数が一致する．この等価関係をSSS対応と呼ぶ．その導出の重要点は，JT 重力の分配関数が従う漸化式とn点相関関数が従うEynard漸化式と呼ばれる漸化式が一致することにある．本修士論文では，JT重力の分配関数の計算と，SSS対応の導出を行う．
JT重力の分配関数の厳密な計算は，量子重力研究に応用することができる．例えば，4次元ブラックホールをJT重力へ次元削減することでそのエントロピーを計算することができる．また，SSS対応も量子重力研究に応用することができると考えられる．SSS対応はいくつかの拡張が知られている．例えば，BFゲージ理論を加えた場合やdilatonのポテンシャルをJT重力のものから変形させた場合において，ランダム行列との対応が知られている．したがって，将来的に，これらの関係をより深く広範囲において調べることで，ランダム行列の確率分布から量子重力の性質を調べることができるようになると期待される．

キーワード 量子重力、Jackiw-Teitelboim重力、ランダム行列

電子版 Volume 43

2024年12月20日完結

Volume 43-1  [HTML、研究会報告書]

研究会報告 2024年12月12日受理

基研研究会報告「場の理論と弦理論2024」

大森 寛太郎 (東大理)、国友 浩 (京大基研)、酒井 忠勝 (名大理/KMI)、酒谷 雄峰 (京都府立医大)、坂本 眞人 (神戸大)、杉本 茂樹 (京大理)、高柳 匡 (京大基研)、立川 裕二 (東大 IPMU)、玉岡 幸太郎 (日大)、新居 慶太 (水大)、西中 崇博 (大阪公立大、連絡責任者)、野海 俊文 (東大駒場)、浜中 真志 (名大多元)、疋田 泰章 (京大基研)、本多 正純 (理研iTHEMS)、丸吉 一暢 (成蹊大)、森田 健 (静岡大)、山口 哲 (阪大理)、吉田 健太郎 (埼玉大)

キーワード 基研研究会