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本領域の4大項目は有機的に密接に関連しつつ、領域領域の当初の設定目標をはるかに越える重要な成果をえていると確信する。 以下に研究の年度毎の進展状況、及び主な研究成果を列挙する。
素粒子論的宇宙論では、トンネル効果が宇宙の環境中でどのように起こるのかを、実時間形式を用いて基礎から研究し、バリアークロス現象が環境からのエネルギー流入によって促進される機構を初めて明らかにした。 また、余剰次元ゲージ理論を解析し、カイラル対称性の力学的破れやトップ対凝縮の可能性を探った。 さらに、Curvaton がインフレーション模型に与える影響や、電弱相互作用をする暗黒物質の対消滅過程に対する非摂動論的効果を解析した。 これらは極めて重要な研究の発展をもたらした。
場の理論の基礎的発展として、非コンパクトなリッチ平坦な空間に値を取る非線形シグマ模型を構成し、非摂動的くりこみ群方程式を用いて、アインシュタイン・ケーラー多様体が固定点になることを示した。
格子ゲージ理論では、世界に先駆けて3つの動的クォークの効果を取り入れた格子QCD の研究を展させ、新しいカイラル摂動論を3 フレーバーへの拡張し、また、ドメインウォール・クォークを用いた3つの動的クォークの効果を含んだ格子QCD の研究を開始した。 これも世界のトップリーダとしての仕事である。
素粒子論的量子宇宙論と統計熱力学の第2法則(エントロピー増大の法則) を統一的に記述する理論を提唱した。 具体的には、半現象論的な現在のエントロピーの定式化をもとに、更にその背後に存在すると予想される基本法則の一般論を展開した。 実際にこの理論を用いることによって場の量子論的宇宙論の長年の難問:宇宙定数は観測上、何故極めて小さいのか、またインフレーション理論における様々な難問、に回答を与え得ることを示した。
行列模型を解析する手法として、平均場近似を系統的に改良してゆく方法を開発し、理論の基底状態として4 次元の時空が現れる可能性が大きいことを初めて示した。 行列模型と非可換空間上のゲージ理論の関係を一般的に解析し、ゲージ理論、超弦理論、行列模型の間の統一的な関係を新たに見出した。 さらに、行列模型の新しい解釈を提案し、一般相対論的不変性が行列模型の中で実現できることを世界にさきがけ示した。
場の量子論において長年なぞであったボソン場の負エネルギーの海の構成方法を発見した。 この方法によって場の量子論における奇異な事実:カイラルフェルミオン場の異常項、共形場の異常項などが極めて物理的に理解できるようになり、新しい発展が期待される。 また弦理論の新しい量子化、弦の場の理論の構成に展望を与えると考える。 ゲージ場とHiggs 場を高次元ゲージ理論のなかで統一し、量子効果により対称性を破る細谷機構を電弱相互作用に適用し、ゲージ・ヒッグス統合理論でワインバーグ角とクォークレプトンの質量行列をただしく再現できることを示し、LHC 実験での検証を提唱した。 以上の場の理論の成果は、今後の進展にとって非常に重要なものである。
場の理論の数学的側面の研究では、通常のADHM 構成を超空間に拡張し、それを更に変形することで非可換超空間上の超場形式を用いた変形されたADHM 構成ができることを示した。 場の理論の物性論への応用としては、量子ホール系で実現している非可換空間での運動方程式を解析し、非可換ソリトンのダイナミクスを解明した。 これらは本領域でこそ達成された極めてユニークで貴重な成果である。 格子QCD による中性子の電気双極子能率の研究や、重いクォークの物理の研究の端緒を開いた。 これらの成果はいうまでもなく、世界で初めて得られた結果である。
超弦理論の非摂動的定式化の方法としてソリトン的な解のD粒子を用いて場の理論を構成する道筋を付けた事は注目に値する。 更に、いくつかのDブレーンが組み替わる機構を明らかにした。 また、超弦理論の構成的定式化として行列理論が本領域のメンバー達によって構築されたが、この行列がどの様に曲がった時空を記述することが出来るのかを詳細に分析した。 この方向の理論を完成させれば、宇宙初期の時空構造等を明らかにすることが出来ると考えられる。 一方、超弦理論の非摂動的研究によって得られた新しい知見の一つである非可換幾何学の空間の研究を量子ホール効果の研究に応用する野心的な試みが行なわれ、新たに量子位相に対する有効理論を構成し、2層量子ホール系において縦抵抗がゼロとなる特異な現象を理論的に見出し、これが実験結果を説明することを示した。 また、非断熱的および混合状態の幾何学的な位相はすべてシュレーディンガー方程式に内在する「隠れたゲージ対称性」に付随したホロノミーとして理解できることを示した。
素粒子の標準理論の構成要素の一つであるQCDに対しては、大規模数値シミュレーションによる研究によって大きな前進と成果が得られた。特に、次に列挙する8項目に渡り顕著な国際的リーダーシップを取っている。 1) より軽い3つの動的クォークの効果を取り入れた格子QCDの研究の準備と開始。 2) 新しいカイラル摂動論のベクター中間子への拡張。 3) Twisted-mass QCDに対する O(a) 改良の証明。 4) ドメインウォール・クォークを用いた3つの動的クォークの効果を含んだ格 子QCDの研究。 5) 重いクォークの物理の研究。 6) 格子QCDによる中性子電気双極子能率の研究。 7) 厳密なカイラル対称性を持つクォーク作用による力学的効果を取り入れた格子QCD の研究の開始。 8) 格子QCDによる核力の研究。
格子場の理論における難問の一つであるカイラル対称性を有する SU(2)×U(1) 電弱統一理論を格子理論として定式化することに関し、ゲージ不変なフェルミオン経路積分の測度を構成することに成功した。 これら標準理論において理論的に存在可能性のある磁気単極子(モノポール)について、電気二重極能率を超対称性のあるモデルで詳細に調べ、その生成機構を明らかにした。 また、ニュートリノは標準理論及びその延長上の理論において強い関心を引く素粒子であるが、この粒子の対生成を促進する準安定原子レーザーを照射する方法が、実はニュートリノのマヨラナ性を検証し、ニュートリノ質量行列を決定する有力な方法であることを示した。
以上の様に、各年度に渡り、4つの項目が有機的に連係し、先進的な成果を挙げることが出来た。
現実的な4次元ドジッター時空は等質空間の一例であるが、非可換等質空間を超弦理論の非摂動論的定式化をめざすIIB行列模型において研究した。有効作用のラージN極限における振る舞いを、超対称性とパワーカウンティングにより決定し、4次元において最小化されることを示した。 この結果は、超弦理論の非摂動論的真空が4次元ドジッター時空である可能性を示唆する。
有意義な重要成果は多々あるが、最も独創的な成果は、米谷によるD粒子の量子場理論の構築へ向けた着想である。本テーマについては18年度のいくつかの国際会議で準備的な内容について発表し、現在第1論文を執筆中である。この着想により、弦理論の最大特徴である、開弦と閉弦の双対性や、時空不確定性に現れている短距離時空構造などを量子論における最も根源的な双対性である粒子と場の双対性と関連させた新たな定式化の可能性が開けた。また、D粒子の力学の非摂動的な定式化へ向けた新たな可能性を示唆している。
二宮は川合・福間と共に超弦理論を応用してビッグバン前後の超初期の宇宙構造の研究を行ない、プレビッグバン理論を提唱した。また、Holger B. Nielsen 氏と共に場の理論の長年の難問であったボソンに対する Hole Theory の構成を行なった。川合は超弦理論を構成的に定義した。原理的に物理量を数値計算により求まるようにし、重力まで含めた究極の統一理論を構築するよう行列模型を構成して、非摂動的に研究を進めた。大野木哲也を含む研究チームは、格子QCDによって、自発的カイラル対称性の破れの現象を世界で初めて厳密に実証した。即ち、クォークの質量がゼロに近いときに、シミュレーションの結果をカイラル対称性の破れから予言されるエネルギー準位と比較することで、量子色力学が自発的カイラル対称性の破れを引き起こすことを示した。これは、物質の質量生成の起源に対する理解にゆるぎない基礎をあたえる研究成果であり、量子色力学にもとづくハドロン(陽子・中性子・パイ中間子等)や原子核の性質の解明に道を拓くものである。
5次元超対称ヤンミルズ理論の解析をおこない、自己双対とは限らない一般の定重力場と結合した場合の分配関数、いわゆるネクラソフの公式が、一般の ゴパクマ--ヴァファ不変量の母関数でもあることを見いだした。更に、この一般のネクラソフの公式の位相的頂点作用素による構成を、三角型ライセナース模型の励起状態であるマクドナルド関数を用いて与えた。
ブラックホール(BH)については、4次元時空でのディラトン結合型で回転を伴う荷電BHの熱力学を考察し、最も実現性の高い多体BH分布は全系の質量・電荷・角運動量が1コのBHに集中した非熱平衡状態であることを示した。また、弦理論の第一量子化においては厳密な非摂動的結果を導いた。主な厳密結果は、反対称テンソル場のフラックスとpp-波を背景場としたボソン閉弦において弦座標の「自由モード表現」を構成し、BRST演算子形式で共変的正準量子化を厳密に行い、BRST演算子のべき零性から時空次元数と正規順序定数を決定したことである。
超弦理論の構成的定式化の模型であるIIB行列模型から、その時空を定めるメカニズムを解明する際にはHeisenberg代数で表現される非可換幾何学からのアプローチが非常に有用になること、また行列による表現は非可換幾何学と密接な関係にあることを示した。そして、非可換幾何学と行列の対応を用いて、高次元空間に埋め込まれた空間の曲がりを表現する方法について調べるとともに、その際に現れるゲージ/弦理論対応の有用性に基づき量子色力学の非摂動的な側面、及び曲がった時空間における量子論を格子正則化等も用いて追求した。
ツイストされた超対称性の格子上での定式化の提案を行った。具体的には2次元N=2の超対称性を持つ、BF理論、Wess-zumino 理論、Super Yang-Mills 理論に対して、全ての超対称電荷に対して格子上で厳密に超対称性を保存する定式化の提案を行った。この定式化は3次元、N=4の超対称性を持つSuper Yang-Mills に拡張出来ることも示した。
本計画班の最大の成果は、非可換幾何学の観点から、量子ホール効果の物理の集大成を行ったことである。量子ホール系は、電子の位置を表すx座標とy座標が交換しないという非可換性によって完全に支配される特異な系である。実験的に観測されている準粒子を非可換ソリトンと解釈し、また、諸々の量子位相現象を非可換空間上のクーロン相互作用の帰結として説明した。その成果は多数の原著論文に纏めると同時に、740ページの単行本(WorldScientific社,Quantum Hall Effects 改定第二版)として刊行した。
全ての幾何学的な位相は、第2量子化において明確に現れる隠れた局所的対称性に付随したホロノミーとして理解でき、したがって全ての観測可能量はゲージ不変であることを示した。また、量子特異点の数理的分類とその物理的性質の研究を行い、それらが生成するBerry位相や双対性、さらには特異点上の量子圧と粒子の統計性の関係等、量子特異点の多様な物理効果を明らかにした。
量子情報処理に不可欠な量子ビット間の相関について、ゼノン型観測によって量子系の純化、量子絡み合いの抽出などが可能となることを示した。また、BECの励起状態を取り扱う場の量子論をゼロ・モードセクターや複素固有値セクターまで含めて無矛盾に構成し、有限時空における場の理論の一つの典型を与えた.
Wilson くりこみ群においては、ある運動量以下での有効作用を導出するために、その運動量より大きな値を持つ運動量積分を実行すべく運動量切断が導入される。本研究では、このように与えられた正則化とナイーブには共存しない対称性の新たな定式化を行い、「正則化と共存する変形された対称性」が存在すること、その存在が反場形式での量子論的マスター方程式で記述されることを明らかにした。また、QED などいくつかの系で実際にこのマスター方程式を構築し、その解を求めた。これは、格子理論におけるカイラル対称性や超対称性の定式化を含めて、正則化と共存する対称性の研究における一般的な方法を与えるものである。
長距離相互作用を持つ系を有限レンジスケーリングで解析する方法を新たに開発し、拡張イジング模型での局在化相の発現を示して相構造を求めた。Skyrme模型とFaddeev模型の厳密解やエネルギー値に関して新しい種々の知見を得ることができた。(超対称)標準模型における階層性を導く模型の考察と、その動力学の非摂動繰り込み群による解析を行った。
高次元ゲージ理論を用いて、ゲージ場とヒッグス場を統合した。余剰次元におけるアハロノフ・ボーム位相は、4次元電弱理論に現れるヒッグス場と同定される。5次元時空が曲がったワープ空間の場合には、現実的な模型を構成することができる。ヒッグス粒子の質量は100-300GeVと予想される。また、ヒッグス粒子とクォーク・レプトン等の相互作用は、標準理論と大きく異なり、近い将来、LHCなどによる検証が期待される。
経路積分における補助場の方法がきわめて有効で、見通しのよい方法であることが確立された。Maximum Entropy Method に基づいた解析法を確立した。多次元・高階重力理論に基づいて量子論を目指すため、正準形式の定式化へむけての基礎を固めた。世代の起源を説明する可能性のある様々な5次元時空上の大統一理論を見つけ、その構造を反映した超対称化された標準模型の構成粒子の質量間に成立する和則を導くことに成功した。
もっとも重要な研究成果は、今までの格子QCDの数値計算の主流であったクエンチ近似を乗り越えて、力学的クォークの寄与を含んだ格子QCDの計算を研究のスタンダードにしたことである。2つの軽い力学的クォークの寄与を含んだ計算を完成させ力学的クォークの重要性を世界に示した。さらに、ストレンジクォークの寄与を含んだ「完全なQCD」での計算を行い、それが可能であることを実証した。現在、クォーク質量をより軽くし、「完全なQCD」での計算の完成を目指している。
Ginsparg-Wilson関係式を満たす格子Dirac演算子に基づくカイラル対称な格子ゲージ理論について研究し、理論の力学的側面と格子ゲージ場の配位空間の位相構造の関係を明らかにし、U(1)カイラル格子ゲージ理論の構成法を簡単化した。これを応用して SU(2)×U(1) 電弱格子ゲージ理論におけるフェルミオン測度を具体的に構成した。また、2次元 N=(2, 2) 超対称Yang-Mills理論など低次元超対称ゲージ理論の格子定式化への一つの道筋を提案した。
ニュートリノ質量を説明できる大統一理論やフレーバー対称性を持った理論などいろいろな種類の超対称模型でB中間子、K中間子のCP破れや稀崩壊過程、レプトンフレーバーの破れ過程の計算を行って、これらの観測量の標準模型の予言からのずれのパターンの模型による違いを明らかにした。そして、この結果を現行のBファクトリー実験の結果の解釈と関連する実験の将来計画の検討に役立てた。
物質を構成する素粒子であるクォークは単体では測定されないが、量子色力学QCDはこの閉じ込め相から非閉じ込め相への相転移を予言している。超高温状態を実現する超高エネルギー重イオン反応の実験で、米国ブルックヘブン国立研究所でこの相転移温度を超えたと考えられているが、そこで見いだされたものは予想に反して、自由なクォークガス状のものではなく、強く相互作用する完全流体と考えられる物質であった。我々は格子QCDシミュレーションにより、初めてこの物質の粘性係数を計算し、完全流体に近い非常に低い粘性係数を得た。
鈴木はQCDの閉じ込め機構が、可換な双対マイスナー効果で理解できることをゲージ不変に示した。久保は離散群に基づくフレーバー対称性が低エネルギーで実現されている可能性があり、標準理論やその拡張された理論が持つフレーバー問題を緩和することのできる有力は候補であることを見いだした。中島らは、Landauゲージの九後・小嶋カラー閉じ込め条件について、非クエンチ数値実験において初めて成立するという数値結果を得た。
広く知られているフレーバー SU(N_f) 対称性及び SO(N_f) 対称性の磁気自由度による記述に対して、電気的自由度による記述を定式化した。インスタントン効果に着目した対称性の自発的破れと南部・ゴールドストーン場による構成が特徴である。また、このような非摂動効果の高エネルギー加速器実験における現象論的な検証のための解析方法を整備した。
宇宙と量子の世界をつなぐ重要な接点である、ニュートリノ質量の性格と質量絶対値、混合角すべてを決定する新たな実験手段として、準安定原子のニュートリノ対生成が有力な方法であることを提唱した。暗黒物質の直接および間接的探索に関わる原子核との弾性散乱過程および対消滅過程に対する電弱相互作 用による量子補正を評価した。グラビティー問題を避けるために必要な宇宙再加熱温度の上限について、詳細な計算を行った。ヒッグスレス模型について詳細な研究を行い、この模型が現在の精密測定と矛盾しないことを見いだした。
ダークマターの測定とその構造の解明を目指す本計画班では、「ダークマターを構成する素粒子の正体」、「宇宙初期におけるその生成メカニズム」、「宇宙質量密度に占めるその割合の測定」の3つの課題を取り上げ、それぞれの側面で重要な成果をあげたが、素粒子物理学が存在を予言したアクシオンをダークマターの候補として考え、その測定法を提案した論文「Ultra High Energy Cosmic Rays and Gamma Rays Bursts from Axion Stars:Proc. 9th Marcel Grossman Meeting on General Relativity」は、具体的に観測的な検証法を指摘している点で極めて重要である。
ブレーン時空で宇宙論的な洞察をする際に問題となるのが、いかにして曲がった余剰次元を解くかということである。そこで、4次元の低エネルギー有効理論を得るために余剰次元方向について長波長展開による解法を考案した。更に、この有効理論を用いて、より現実的な超弦理論に基づいた系に応用し、宇宙項と重力定数との関係を明らかにした。一方で、ブレーン宇宙では宇宙論的なスケールで重力の法則の変更を伴うような模型が存在するが、そのような場合の宇宙の大規模構造の解析を行い、SDSS(スローンデジタルスカイサーベイ)による銀河の観測データと比較することで模型に対する制限について考察を行った。
N重超対称性において、これまで知られていなかった多次元へ拡張した場合の代数構造が判明し、具体的なモデルの構築が可能となった。余剰次元空間については、宇宙定数が余剰次元のカシミアエネルギーに起因するとして、WMAP観測の宇宙定数の値から余剰次元空間の大きさをサブミリメーター程度と評価を得た。超対称弱電磁模型ではポテンシャル平坦面上での多元スカラー場運動により粒子数非対称が有効に生成されることを見出し、これによるレプトン数生成とニュートリノ質量の関係を明らかにした。
宇宙のバリオン非対称を電弱相転移のスカラー場(Higgs場)のダイナミックスから導く可能性について議論した。特に、一次相転移のBubble Wallの表面における過渡的CPの破れが重要であるとの指摘を行った。現実の模型に関してはMSSM(最小超対称模型)ではいくつかの困難があることを示した。これに対し、NMSSMではμ-問題の解決と共に、過渡的CPの破れが起こる可能性を指摘した。
本領域の各班の交付研究費、毎年、主として 1) 国内研究集会、及び国際ミニワークショップを所属の大学・研究機関の施設の無償の提供を受けて、国内・海外の招待講演者の招聘費用を当該班が負担、開催する事、 2) 班の構成員及び若手研究協力者が国内・海外における研究集会での招待講演の旅費、 3) 海外から当該班のメンバーが研究している専門家を招聘し、共同研究・討論を行なう、 4) ポストドクトラルフェローとして当該班の研究分野の若手を1〜2年の間採用し共同研究の実をあげ、 5) 研究において必須のパーソナルコンピュータとその附属品の購入。素粒子論では、膨大な台数計算は "Mathematica" や "Maple" といった、代数計算専用のソフトウエアを高速演算能力のあるパーソナルコンピューターで行なう事が必須となっている。 (スーパーコンピュータよりもこの目的にはパーソナルコンピューターの方が適している。)
総括班は、各項目、各班の研究の進展状況を注意深く吟味し、領域代表者を中心として必要に応じ、各班の開催する国内国際研究集会の助言と共に、開催及び 6) 招待講演者の招聘資金を提供し、各項目各班相互のフィードバックの進展を図った。 7) 総括班が主催して、中規模の国際研究集会を開催し、当領域の研究目的の達成に資するよう努めた。 8) さらに、海外における各項目のトップレベルの活動を行なっている。研究者を比較的長期間招聘して、国際共同研究の発展を促してきた。 9) 若手研究者の中で高度な能力を有しながら、職に就けない若手研究者をポストドクトラクフェローとして採用し、第一線の研究の共同研究を行なう事によって、有為な人材の育成に努めた。
総括班として
羽原 由修 | 平成16年4月 〜 平成19年3月 |
をポストドクトラクフェローとして採用した。
各計画班が採用したポストドクトラルフェローは以下の通りである。
計画班A1 | 富野 弾 | 平成16年5月 〜 平成17年3月 |
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山口 貴史 | 平成17年4月 〜 平成19年3月 | |
堀田 健司 | 平成17年4月 〜 平成19年3月 | |
計画班B10 | 乙部 毅 | 平成17年10月 〜 平成18年1月 |
須永 知夏 | 平成17年10月 〜 平成18年1月 | |
鵜木 誠 | 平成16年10月 〜 平成16年12月 | |
乙部 毅 | 平成16年10月 〜 平成16年12月 | |
計画班B11 | 浮田 尚哉 | 平成14年5月 〜 平成15年3月 |
浮田 尚哉 | 平成15年5月 〜 平成15年9月 | |
中野(村田) 享香 | 平成15年10月 〜 平成16年3月 | |
澤中 英之 | 平成16年9月 〜 平成17年3月 | |
計画班C15 | 村上 公一 | 平成17年4月 〜 平成18年3月 |
石川 智己 | 平成18年4月 〜 平成18年10月 | |
計画班C18 | 石川 智己 | 平成14年4月 〜 平成15年3月 |
Pushkina Irina | 平成15年4月 〜 平成17年7月 | |
Chernodub Maxim | 平成18年2月 〜 平成18年3月 | |
計画班C19 | 伊藤 悦子 | 平成17年4月 〜 平成18年3月 |
梶山 裕二 | 平成18年4月 〜 平成18年9月 |
以上、延べ18人であった。
総括班は以下の国際会議を主催した。
名称 | Frontiers of Quantum Physics |
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場所 | 京都大学基礎物理学研究所 |
日時 | 平成17年2月17日〜19日 |
ホームページ | http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~oiqp/ |
プロシーディングスの出版 | Prog.Theor.Phys.Suppl. 164 |
またこの国際会議の開催において、外国人4名に136万円、日本人31名に165万円の招聘費用の補助を行なった。
総括班が補助したシンポジウム名称、日本人及び外国人への招聘費用などは以下の通りであった。
それぞれの計画班ごとの研究成果やその公表状況をリンク先に示します。
本領域が研究対象とする研究は超弦と場の理論の動力学的な性質(ダイナミクス)であり、これは超弦理論に基づく素粒子の統一理論の構築、場の理論の基礎と純粋数学から物質科学に至る幅広い応用、電弱相互作用、QCDからハドロン物理、格子ゲージ理論に至る標準模型の基礎的研究・現象論的研究、更には、種々の素粒子模型やDブレーンの宇宙論への応用等の幅広い範囲からの有機的な研究である。
これらの研究を組織化するに際し、便宜上4つの研究項目に分け、計25班に班構成を行なった。これらの班は有機的に密接に関係を保ちながら研究を進めてきた。
本研究成果報告にあるように本領域によって多くの重要な成果が得られてきた。
また、総括班は領域代表者を中心に、各項目、各班の研究の進展状況を注意深く吟味し、必要に応じ各計画班の開催する国内・国際研究集会への助言と財政支援を行なってきた。また、海外から各項目のトップリーダー達を比較的長い期間招聘し、国内各大学研究機関において講演を行なって頂いた。
領域構成員が海外国際研究集会に招聘講演された際は領域代表者を中心に内容を吟味し、財政支援を行なった。
更に、総括班は総括的な国際研究集会を開催し各項目からの多数の参加者を得ると共に、適宜各項目や各班の開催する研究会を支援した。
若手研究者の研究者への道は年々厳しくなってきているが、本領域では、総括班やかなりの数の班においてポストドクトラルフェローとして、有為な若手研究者を採用し、将来のリーダーの育成確保に資してきた。
以上のように、本領域の研究運営は非常に順調に進んできたと自己評価する。
本領域研究の研究対象は、素粒子物理学における4つの基本的な力と全ての素粒子を統一的に記述する唯一の候補である超弦理論の構築と、場の理論の動力学的な性質 --- ダイナミクス --- の解明である。 前者の超弦理論の構築の研究においては、いくつかの班の研究代表者と分担者によって構成的な定式化としてタイプIIB行列理論が提唱され、国際的に多大の反響を呼び、今日においてもそのダイナミクス、さらには何故に我々の時空が4次元であるか? クォークの世代数が3である理由は何か? 等の根源的な問題にまで迫る研究が盛んに行なわれている。 さらに初期宇宙論への応用として、ブレーン宇宙模型や、超初期のプレビッグバン模型がこの構成的超弦理論の見地から提唱・研究が行なわれた。 さらには超弦理論に端を発した非可換幾何学・ゲージ理論は、その数理物理学的発展とともに量子ホール効果の研究に適用され、特に二相量子ホール系においては特異な現象の予言を具体的成果として得た。 場の理論の現代的な応用の研究においては、場の強結合領域と超弦理論の弱結合領域の双対性、あるいはそれらの逆の結合領域間の双対性を用いて、これまで研究が出来得なかった強結合領域の研究が長足の進歩を遂げた。 また、格子ゲージ理論による場の理論の定式化の進展の結果、大規模数値計算を用いた場の理論のダイナミクスの解析が実行可能となり、素粒子標準模型のさまざまな物理量の精密な導出など、国際的なリーダーシップを担っている。
幾つかの代表的な成果として、(1) 軽い3個の動的クォークの効果を採り入れた格子QCDの研究、(2) 新しいカイラル摂動論のベクトル中間子への拡張、(3) 重いクォークの物理の研究、(4) 格子QCDによる核力の研究、等が挙げられる。
また、標準理論において理論的に存在が可能な磁気単極子(モノポール)に関し、超対称性を有するモデルにおいて電気二重極能率を分析し、その生成機構を明らかにした。
ここに記したように、本領域研究においては超弦理論と現代的な場の理論が有機的に連係し、多くの先進的な成果をあげることができ、当該分野とその関連分野へ重要な貢献を果たす事が出来た。